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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
獣たちの夜戦
75/143

74 その想い、消えず

***

 男の子は兄に追いつこうと必死だった。

 その兄は目標とするには高過ぎて、憧れとするには不適当だった。

 彼は孤高であるが故に孤立していた。

 彼の正しさは長所でもあり、短所でもあったから。

 「な、何かあった?」

 彼女の幼馴染にして初恋の相手は急に顔を上げたサキに驚いて、少し背中を反る姿勢になっている。

 お互いの息がかかりそうなほど顔が近い。

 サキは彼の目をまっすぐ見る。

 あの頃と同じ……いや、少し違う。

 昔の彼とは全然違った目をしていた。

 そう思った瞬間、伝えようとした爆発寸前の想いが嘘のように萎んでしまった。

 「……なんでもないわ」

 サキは笑顔でそう言って、彼から離れる。

 「いや、何でもなくはないだろう」

 カケルはサキのおかしな挙動への疑問が残っているので素直に彼女の言葉を信じることはできない。再度尋ねてくるがサキはそれを笑って誤魔化す。

 彼には兄がいた。

 正し過ぎる兄だった。

 そして、周りがその才能を敬って勝手に近づいて付き合いきれないと勝手に避けていく中、一人だけ兄を追いかけ抜いた弟がいた。

 その弟の目は誰よりも真剣で誰よりも輝いていた。

 (……そんなところに惚れたんだっけ)

 サキは訳がわからないという顔のカケルを可笑しそうに見る。

 今でも目の前の男の子のことが好きだ。

 でも、そうやって迷っている目をしているのは嫌だ。

 「カケル、あなた変わったわね」

 そう、変わっていた。自分の好きだったところが無くなっていたのだ。

 「まあ、背は伸びたな。……ってこの会話何度目だ?」

 サキが言いたいのはそういう事ではないが、そうねと笑って返事をする。

 二人は再び歩き出す。

 サキは彼と一歩分空けて付いていく。彼を見ながら、以前と違う彼の目を思い出す。

 彼の目の奥には迷いがあった。

 原因は間違いなく兄との死別。

 目標であり憧れであった彼を失ったカケルは今もまだ兄の残像を追っているのだろう。

 しかし残像はいつか消える。

 目の前の道を自分で決めて進まなければいけない。

 だから彼は迷っているのだ。

 今まで走ってきた兄の道がなくなるから。

 遥か前を走る者が消えたから。

 今の彼には駆け抜けることができる目標がないのだろう。 

 羽令(はれい)が――カケルの兄が言った。

 カケルはサキを目標にした方がいいと。

 しかし、サキは自分ではカケルの目指すべき者になれないと考えている。

 自分は振り返ってしまうから。ちゃんと付いてきているか、道を間違えていないか、心配でたまらない。

 レイのように彼に構わず進んで行くことはできない。

 サキは目の前を歩く背中を見る。彼は自分よりも肩幅が大きくなっていた。その他にも色々な変化があったのだろう。

 良いことも悪いことも。迷いもその一つだろう。

 迷っている彼に告白することはできない。

 彼女が惚れたのは理想(もくひょう)に向かって進む彼。

 だからいつか彼の迷いがなくなった時。

 答えを得た時。

 また告白しよう。

 彼はもっと素敵な人だ。サキはそれを知っている。

 そして自分も彼に負けないような素敵な人になっていたい。

 ――最高に格好いいあなたに

 ――その時のあなたに釣り合うような私で

 「……あなたが答えを出すまで待ってるわ」

 目の前を歩く背中に小さく告げる。

 「答え?」

 聞こえないように言ったつもりなのにカケルが振り返って聞き返す。

 「ど、どうかした?」

 サキは平常心を装って聞き返す。自分でもアカデミー賞を与えたいくらいの演技だった。

 「いや、答えが何とかって言ってなかったか?」

 「誰が?」

 サキはにっこりと笑ってしらを切る。

 「サキが」

 サキは内心では顔を真っ赤にしてのたうちまわる。

 (まさか聞こえていたなんて……)

 こういう時って聞こえていないのがお約束ではないのかと心臓が訴えるかのように早鐘を打つ。

 内心の思いは外側に影響を及ぼして、サキの頬が赤く染まる。顔がどんどん熱くなる。

 しかし、のたうちまわるわけにはいかない。

 普段使ったことのないような筋肉までがこわばるくらいぐっと堪える。

 「……ふふっ、まさか」

 「え、でも……空耳かな?」

 「寝ぼけているのね。石段では危ないわよ。ほら……」

 サキは自然と彼に手を伸ばしていた。

 カケルはきょとんとした顔になって、直後笑い声を含ませて言う。

 「いや、そこまで子供じゃないよ」

 またしても墓穴。

 一難去ってまた一難。しかも前者も後者も自分で作っている難だから世話がない。

 サキは耳まで赤くなる恥ずかしさに耐えきれず、カケルから目をそらす。

 「そ、そうよね……」

 急いで引っ込めようとすると、手の平に心地よい熱と彼の手の感触が伝わってくる。

 昔よりも大きい彼の手はサキの手を温かく包む。

 「……サキは相変わらずお姉さんだな」

 初恋の相手はそう言って恥ずかしそうに笑う。

 今はそれでいい。

 自分では彼の目標にはなれないから。

 迷っている彼のサポート役としては充分だ。

 ()()この距離で。

 「ほら、行きましょう」

 サキは彼の手を引いて、残り少ない石段を降りる。

 彼なりの答えをいつかきっと出してくれる。

 その日まで。


 数年越しの想いの結果(こたえ)もその時に。


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