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51 そのディアボロス、帰国する

 「つまり、どういうことに御座いますか?」

 「だーかーらー、雇うんだよ。彼らを!」

 カールは眉間に溜まった何かをほぐすように眉間を揉む。

 「いいですか、バイオレット様。彼らは模擬とはいえ貴女を暗殺しようと企んだ犯罪者です。殺意がなかったということを含み、温情で見逃すことでさえ難しい現状です。仮に雇ったとして、彼らがまた反抗したらどうするのですか」

 「そのことなんだが」

 俺が話に入る。ここは提案者として俺が話すべきだろう。

 「アルバーレとアスタロスの二カ国間で半数ずつ雇えばいい。そうすれば戦力半減だ。元々の数が少ない分、戦力が削られても反抗するという意思は起きないだろう」

 「彼らにはどのような仕事を任せる気だい?」

 ライザーが訪ねてくる。銃撃隊隊長のハリサキが隊長を辞任したので彼は銃撃隊の隊長にもなった。現場で動く彼としてはいきなり怪しい輩が仲間になるのは喜ばしい事態ではないのだろう。

 「主に貧民街での活動だ。もちろん義賊みたいな活動じゃない。今考えているのは貧民街で動いている犯罪組織の情報収集だったり、貧民街の人達の支援だ」

 ローグさんがピクリと眉をあげる。昔のことでも思い出したのだろうか。

 「冗談じゃねぇ! 何勝手に話進めてんだよ!」

 ハティが威嚇するように叫ぶ。タテガミのように逆立っている髪がより威圧的に見せる。

 「俺たちがそんな事すると思ってんのか!」

 「してもいいんじゃないか」

 しかし隣からあっさりと意見を覆される。

 「あぁ!? ミムロド、テメェどういうつもりだ!」

 「我々にデメリットが特にない。それに提案を受ければこの事件の罪は取り消される可能性すらある。義賊活動で貧民街を助けるか公式に認められて動くかの違いだ」

 「義賊……活動」

 今度はカールさんが眉をあげて、おもむろに口を開く。

 「『紅月の民』。……どこかで聞いた名だと思っていましたが、『紅月のオキナ』の組織では御座いませんか?」

 「たしかにそうだが。……なんであんたがオキナさんを知ってんだ?」

 ハティがカールに問う。しかし先に口を開いたのはシェリーだった。

 「ああ、爺やの聖騎士時代に唯一捕まえることが出来なかった人だよね」

 この人聖騎士だったの!?

 俺は驚きの目でカールさんを見る。カールさんは説明するように口を開く。

 「左様に御座います。彼とはまたいつか対峙する時が来るかと思ってましたが、私は現役を引退してその予想は外れてしまいました」

 カールさんは遠い目で空にある月を眺める。月は綺麗な満月だった。

 「みんな!」

 月の光に当てられて銀色のショートヘアを輝かせるカグヤが『紅月の民』に呼びかける。

 「賭けはかぐやの勝ち。だからかぐやが次の『とうもく』だよ!」

 「分かってるよ、そんなことはよォ」

 ハティが吐き捨てるように言う。俺には何故か芝居がかって見えた。よく見るとなんかハティのカグヤに対する言葉が一々大袈裟に見えると言うか……いや、気のせいだろう。

 俺のそんな感想とは無関係にカグヤは喋り続ける。

 「だからこの提案は乗るの! 『とうもく』の命令だよ!」

 カグヤがそう言い切り、小さな胸を張る。

 「……だそうだ、ハティ。頭目の命令なら逆らえないな」

 「……ああ、そうだな」

 こちらは提案を受けるみたいだ。シェリーも乗り気だからアスタロスの方もこの提案を受けるだろう。カールさんが溜息をついていたが、仕方なしというような感じだったので心配ない。

 残るは……。

 ちらりと紅髪の彼女を見る。

 「セレア、今騎士団は人手不足なんだろ? だったらこいつらを雇ってもいいんじゃないか?」

 「……分かったわよ。シェリーも提案を受けるみたいだから、受けないわけにはいかないわ。元々こちら側からの提案だしね」

 セレアも仕方なしと言うように快諾した。ライザーもローグさんも特に何も言ってこないので絶対反対というわけではないのだろう。

 「いやーよかったよかった。じゃあ、後の手続きは任せたよ、爺や。ボクたちは花火を観に行くからさ!」

 「おっと、そうはさせませんぞ」

 カールさんが城の庭園から出て行こうとするシェリーの行く手を阻む。

 「手続きは私の方で行いますが、書類の確認、了承のサインは貴女がなさってください」

 「へ? と言うことは……」

 シェリーはより一層青ざめた顔をカールに向ける。

 「はい、このまま国に戻って頂きます」

 「いやだぁぁ! 花火見るぅ〜!」

 悲鳴に似たシェリーの叫びを意に介さずにカールは続けて言う。

 「いけません。加えて我が国の騎士達にも貴女を捜索するために迷惑をかけたのです。まずはその謝罪をしてもらいますので覚悟しておいてください」

 カールさんは失礼、と一言断ってから抵抗するシェリーを包帯で包み込んで肩に乗せる。

 「ではこちらでこの者達の配属国を決めさせて頂きますが、よろしいですか?」

 「え、あ、……はい」

 呆然としている俺の曖昧な返事を聞いて、カールは『紅月の民』を従えて城内から出ようとする。

 「待ってください。その前に彼らに質問したいことがあるのですが、よろしいですか?」

 ローグ騎士団長がカールさんを呼び止める。

 「ええ、構いませんよ」

 ローグ騎士団長はカールさんに一礼して、ミムロドの方を向く。

 「一つ質問に答えてもらってもいいかな?」

 「私が答えられる範囲ならば」

 ローグ騎士団長は一呼吸間を空けて述べる。

 「『AI』と名乗る人物を裏社会で聞いたことはないか?」

 ミムロドは首を傾げて、質問の答えを見つけるために記憶を探る。

 「それなら知ってるぞ」

 それよりも先に答えたのは隣にいるハティだった。

 「本当か!? どこで聞いた!?」

 ローグさんはハティに詰め寄るが、ハティはそれを煩わしそうに拘束されている体を仰け反らせる。

 「場所は忘れた。武器の開発、販売をしてくれる奴等が()()()の世界にはたくさんいるが、その中でもトップクラスの腕前だと噂を聞いただけだ。確かそんな通り名だった」

 「そうか。……協力感謝する」

 ローグさんはスッと身を引いてハティ達に一礼する。続いて待っていてくれたカールさんにも感謝を述べた。

 「では私達はこれで失礼いたします」

 「――――! ――――――!」

 カールさんが慇懃に礼をする。その肩の上でシェリーがジタバタと包帯の中で抵抗している。なんか叫んでいるが、包帯が邪魔で聞き取れない。

 シェリーの抵抗も虚しく終わり、『紅月の民』と一緒に連行されて城を後にした。

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