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46 その尋ね人、発見

***

 針崎みらのはカケルと別れて、カグヤを探していた。

 マナ祭で行き交う人達の間を縫うように進みながら、カグヤらしい子はいないかときょろきょろ辺りを見回す。

 「…………いないわね。…………あ」

 「……げっ……ん気にしていたかしらハリサキさん」

 しかし見つけたのは事務部の同期の女子達だった。彼女達はマナ祭の準備の際の高圧的な態度ではなく露骨に嫌そうな顔をしている。

 理由は現在行方不明中のシモンが起こした事件と関係がある。その事件がきっかけでハリサキ自ら地方の方へ異動願いを出した。

 彼女達にはそのことは伝えていなかったはずなのだが、風の便りで聞いたようだ。

 そしてハリサキが異動願いを出した本当の理由を知らない彼女達は『私達が原因で異動して、異動前に上司達に自分達の事を伝えたのではないか』とハリサキに対する態度を変えてきた。嫌がらせでもまだ絡んでくる分、以前の方がハリサキと彼女達との距離は近かった。

 今ではすっかり彼女達はハリサキの事を遠巻きに見るだけだ。

 上司達に相談する程のことはされていないし、馬鹿馬鹿しいとハリサキは一蹴する。だからと言って彼女達に自分にその気がない事を教えることはしないのだが。

 ついこぼれ出た本音を言い繕う同期にハリサキは苦笑と会釈だけして立ち去ろうとするが、はたと足を止める。彼女達にはハリサキに引け目があっても、ハリサキには特にない。だからハリサキは小さな女の子の情報を得ようと彼女達に問いかける。

 「どこかに真っ黒なマントの女の子いなかった?」

 彼女達はハリサキに引き目があるのかは知らないが、ハリサキには当然ない。だからその子の情報を彼女達から得ようと試みる。

 「え、いや見なかったけど…………」

 「そう。ありがとう。またね」

 ハリサキは止まっている彼女達に背を向けて走り出す。

 彼女達とは二度と会うことはないだろう。ハリサキはふとそんな考えが頭の中をよぎった。

 彼女達とは何も解決しないまま時間が解決してくれるのを待つのだろう。

 「ねぇ!」

 突然の声にハリサキは急停止する。彼女達の内の一人の、リーダー格の声だった。

 ハリサキが振り返ると、彼女は一瞬ビクッと体を強張らせたが意を決したように口を開く。

 「…………今度は一緒にするから!」

 彼女はそう言うとハリサキの反応を待たないまま取り巻きを連れて元来た道を歩いて行った。

 彼女がどういう気持ちでハリサキにその言葉を投げかけたかはハリサキも分からない。

 不安と恐怖から出たものなのか、それとも罪悪感からなのか。少なくとも始めは前者の気持ちだけだっただろう。しかしハリサキは急今聞いた声にそれ以外のものも含まれているような気がした。

 ハリサキはカグヤを探すため、重荷が取れたように軽い足で地面を蹴った。




***

 マナ祭も人が多くなり、空には無数の星と月が浮かんでいた。

 俺はカグヤを探すが一向に見つからない。

 やばいなマジでどこに行ったんだ。ミムロド達が迎えに来る前に見つけておかないと。

 俺は焦る気持ちを抑えきれないまま、辺りを見渡す。

 「あ、カケルだ! やっほー! 警備は順調かい?」

 祭りの喧騒(けんそう)に負けない元気な声に呼び止められる。

 そこには溌剌とした少女、シェリーがいた。その隣にはセレアもいる。二人ともフードを被り、それぞれの紫と紅色の髪を隠していた。

 「おう、二人も来てたんだな」

 「そうだよー。ボクの国では祭りなんてやらないからすっごい楽しいよ!」

 シェリーがいかにも充実しているような笑顔をこちらに向ける。どうやら祭りを満喫中らしい。

 「そう言ってもらえて嬉しいわ」

 セレアがそう言って笑みをこぼす。

 セレアの顔には少しの疲れこそはあるが、シェリーと同じように祭りを満喫しているのが分かる。

 「この後の花火もたのしみだなー! そうだキミも一緒に見ようよ!」

 「悪いな、ちょっと用事があるんだ。……二人とも銀髪の女の子見てない?」

 彼女達は俺の質問に思い当たる節がないらしく首を傾げている。

 「いいえ見ていないわね。その子がどうかしたの?」

 「あーいや大したことじゃないんだ。マナ祭楽しんでな」

 俺はセレアの質問の答えを濁す。事情がややこしいので説明に時間が必要だ。しかしそのための時間も惜しい。

 俺はじゃあと右手を挙げ立ち去る。

 やばいなどこにもいない。もしかしてエスバルから出ているのか。だとしたら俺とハリサキだけで探すのは難しいぞ。

 悪い方向に妄想が膨らんでいる俺の耳にある会話が微かに聞こえてきた。


 『ぶつかってごめんなさい、お姉さん』

 『こちらこそごめんね。どこか怪我してない?』

 『うん、かぐやは大丈夫だよ!』


 「見つけたぁぁぁ!」

 「きゃあ!? どうしたのカケル? まだボク達に用事があるの?」

 全力疾走で戻ってきた俺を見て、セレアとシェリーは身を引く程驚いていた。……物理的に引いただけで心理的には引いていない……と思う。

 俺はセレアがしゃがんで目線を合わせている女の子を見る。その子は銀髪で左手にクジで当てた手提げ袋を携えていた。

 その子は俺と目が合うと嬉しそうな笑顔を向けてくる。

 「あ、パパ!」

 「「………………え? パパ?」」

 おっとデジャヴですねー。つい数十分前に同じやり取りがありましたねー。

 カグヤがご丁寧に俺を指差すお陰で、セレアとシェリーはその指先の延長線上にいる俺をパパと呼んでいることが分かる。

 人に指を指しちゃダメでしょ! その人ことだと特定できちゃうから! 

 あまりにも唐突だったのかセレアとシェリーは数秒間(ほう)けていたが、すぐに我に返り各々の感想をこぼす。

 「貴方この子の父親ってどういうことなの!?」

 「あははは! キミってホントにおもしろいね! ボクも興味あるなぁ!」

 俺を問い詰めるセレアと腹を抱えて笑うシェリーは実に対称的だった。いや本当だったら笑い事じゃないからなシェリー。

 「いやカグヤは俺の子供じゃなくてだな、その、訳あって里親を探してい」

 「パパ? なんでこんなところにいるの? あれ? さっきのお姉さんはもういないの?」

 俺の言葉に被せてカグヤが追い打ちをかけてくる。やだうちの子怖っ!

 「お、お姉さん!? カケル、貴方警備の仕事やらないで何してたのよ!?」

 「何もしてないよ! 多分ハリサキのことだと思う。さっき偶然会ったから」

 俺の言い訳……説明にセレアは納得してくれたのか、先ほどまでの勢いが止む。

 「えっ、ミラのんと会ったの?」

 「ああ、明日出発らしい」

 セレアはそうと一言こぼす。その目は下を向きどこか悲しげだった。

 「まあ見送りくらいには行けるんじゃないか、多分だけど」

 俺の言葉にセレアは俺の顔を見上げる。いやそんな期待された目で見られても……多分ですから多分。

 「そうよね。それにもしかしたらマナ祭で会えるかもしれないしね!」

 セレアは弾けるような笑顔を見せる。それを見て俺もつい頬が緩む。

 「あのーお二人さん。ボク達をおいてイチャイチャしないでよー」

 「「イチャイチャなんてしてないよ(わよ)!?」」

 俺とセレアの見事なハモリにシェリーは(あき)れたようにため息をつく。

 「それで、この子はどうするの?」

 シェリーが視線を向けた先にはカグヤがセレアをまじまじと見ていた。

 「何か用かしら?」

 セレアはカグヤの視線に気付き、しゃがんでカグヤに尋ねる。カグヤは首をきょとんと傾げて言う。

 「お姉さんはパパの恋人ですか?」

 そう言い放った。

 「え? え、…………はあぁぁぁ!? ちちち違うわよ!」

 セレアが動揺の声を上げながら否定するが、カグヤはさらに言い募る。

 「だけど『イチャイチャ』って好きな人とすることだって聞きました!」

 「貴方子供に何教えているのよ!」

 「俺じゃない! 断じて違う!」

 顔を自分の髪のように真っ赤にして睨んでくるセレアに対して俺は凄い勢いで首と右手をを左右に振って否定する。俺の隣ではシェリーが大爆笑中で、事の発端であるカグヤはまたもきょとんと首を傾げていた。

 「はぁ〜、おもしろいなぁ。そんな事どこで聞いたの?」

 「みんなから!」

 シェリーの質問にカグヤは元気よく答えるが、シェリーには意味が伝わらず今度はシェリーが首を傾げる。

 「ああ、あいつらか」

 「え? カケルは何か知っているの?」

 シェリーが意外そうな顔をして俺に尋ねてくる。

 「ああ、カグヤと同じような黒いマントを着ている集団だ。カグヤの里親探しもそいつらから頼まれたん――」

 「「黒のマント!?」」

 セレアとシェリーが俺の言葉を遮り、驚きの声を上げて俺に顔を近づけてきた。その分俺は慌てて一歩二歩と後退する。

 「え? なに? 黒いマントがどうかしたの?」

 「黒い衣装で全身を包んでいる集団は大抵裏組織や闇組織に繋がっているんだ。騎士達の目を盗んで違法取引や人身売買とか色々違法行為をしている連中だよ。。黒いマントやローブとかで顔を含めた全身を隠していることが多いけどね」

 「ええっ!? あいつらが!?」

 シェリーの言葉に驚きつつも、彼らとの会話を思い出してみる。


 『この子の里父親に――』

 『なるのは嫌だぞ』

 『…………なってくれそうな人を探してくれませんか? 母親でも構いません』

 『今明らかに予定変更したよな』

 『気のせいです』


 …………ないな。

 「いやあいつらは違うと思うぞ」

 「あ、あれ? そうなの? でもそのことは知識として知っておいた方がいいよ」

 俺の真顔の返答にシェリーはたじろぎながらそう答える。

 その時だった。

 「きゃあ!」

 柔らかな衝撃が胸の中に飛び込んできて、その直後にふわりといい香りがする。俺の目の前では艶やかな紅髪の毛先が衝撃でふわっと持ち上がっていた。

 俺はたっぷり三秒は費やし、セレアが倒れ込んできたと分かった。

 「ごめんなさいカケル。人とぶつかったみたいで……」

 「あ、ああ大丈夫だ」

 ばっと離れるセレアの頬は朱に染まっていた。俺も顔が熱くなるのを感じる。

 「セレア大丈夫かい? だけどさっきの人も謝ってくれてもいいのにね」

 シェリーはぶつかった人を見ていたらしく、その人の方向を見て愚痴をこぼす。

 「赤いお姉さん、四角いの盗られたよ!」

 「四角いの? …………あれ? あれ? もしかして……」

 カグヤの言葉を聞いて、セレアが自身の体を(まさぐ)る様になにかを探す。

 「どうしたんだ? なにかなくなったのか?」

 「…………タブレットがない」

 セレアは青ざめた表情になる。

 リグルートのどこの国もタブレットは日本で言うところの電化製品に魔力を注ぎ込む装置であり、遠くの人と連絡が取れる電話的機能もある。現在ではお金の代わりにタブレットで魔力を支払うこともできるらしい。縦横共に十センチに満たないながらも、社会に大きく貢献している。

 同時に一種のプライベートな面も有しており、それを盗まれた彼女の心境は到底推し量ることはできない。

 「シェリーさっきの人どっちに行った!?」

 「あっちだよ……って待ってよセレア! ボクも行くよ!」

 シェリーが示した方向にセレアが彗星のような速さで走っていった。シェリーも慌ててその後を追う。

 「俺達も行こうカグヤ!」

 振り返るとカグヤの姿はなかった。

 嘘だろ!?

 辺りを見回すと、黒いマントの男が大きな黒い布切れを左腕に抱えて路地裏に入る様子が視界に入った。

 黒い布切れからは銀色の何かが月光によって輝いていて、力なく垂れ下がる手足のようなものが見えた。

 「っ!?」

 俺は急いでその男の跡を追った。

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