44 その一日、更けていく
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陽も傾き、茜色と藍色が混じり合う黄昏時になるに連れて祭りも賑やかになっていった。
俺とカグヤはカグヤの里親探しをするが中々そういう人は見つからなかった。
そして今俺の手によってすべてが決まる。
「パパ、次で決めるよ!」
「……ああ、任せとけ」
俺は緊張の面持ちで目の前の箱に集中する。そして、ゆっくりと箱の中に手を入れて本能の赴くままに一枚の紙を抜き取る。
その紙は中央から折られていて、俺は紙を広げる。
紙には2の文字があった。
「おめでとうございます! 二等賞でーす!」
店の男性が声高らかに賞賛する。
「やったぞ、カグヤ!」
「すごいすごい!」
現在、俺とカグヤは本来の目的も忘れて祭りにあっまくじ引きをしていた。祭りを普通に楽しんでいた。俺に関してはセレアから頼まれた警備もしていない。
俺何してんだろうな。
冷静になって考えると俺こんなことしている場合ではない。
「ほい、兄ちゃん。二等の商品だ。二等はこれが最後だ」
くじ引き屋の男性から手提げ袋を渡された。なんにしても景品が貰えるのは嬉しいので、ひとまず冷静さは頭の隅に置いておく。
「何がはいっているの?」
カグヤが袋の入り口に顔を入れるみたいに覗き込む。
「なんだろうな。……懐中時計?」
俺が取り出したのは銀色の懐中時計だった。他にも銀色の紙やら銀製らしい商品が入っていた。
「おっちゃん、これなんだ?」
「二等最後の売れのこり…………景品は銀製商品の詰め合わせだ。ちなみに一等には金製商品詰め合わせがある」
「今売れ残りって言ったよな」
「言ってない」
「いや言っただろ」
俺の追求に店のオヤジはさっと目をそらす。俺が物言いたげな目で追求していると、煩わしそうに手を払う。
「ほら、終わったんならどいたどいた。その売れ残りを持ってどっか行け」
「今はっきりと売れ残りって言ったよな!?」
そもそもなぜ俺たちがくじ引きをしていたかというと、夕暮れ時にカグヤがお腹空いたと訴えたので屋台を食べ歩きしていたらいつの間にか祭りを普通に楽しんでいた。祭りの魅力って恐ろしい!
くじ引き屋を後にしてちょっとしたスペースで足を休める。そこには腰掛けるものがなかったので地べたに座る。
ちなみに店のオヤジは『俺もこれ売れないと思っていたのに……飲み会で悪ノリして採用したばっかりに……』と何やらボヤいていた。自業自得だろ。
というか一等には金製の物があるのだろうか。それなら当たるまで引きたいところだ。もちろん当てたら使わずに売る。金色のものを使うとか成金かよ。(偏見)
そう考えていると、カグヤもいつのまにか俺の隣にちょこんと座っている。
「……それにしても色々入っているな」
手提げ袋の中から小物を次々と取り出す。
懐中時計に銀色のスプーン、他にも銀色の弾丸などが入っていた。最後に関しては使う機会ない。
「その丸いのってなに?」
俺が苦笑しながら持っていた弾丸をカグヤは不思議そうに見る。
「弾丸だよ……って言われてもわからないか。ええとそうだなぁ……」
「弾丸なら知ってるよ」
「そうなのか?」
「うん、みんながいつも持ち歩いている本体の中にあるやつでしょ?」
「本体って拳銃のこと!? 持ち歩いてないからね!?」
カグヤはきょとんと首をかしげる。この子はこれまで一体どんな生活を送ってきたのだろうか。
「だけどミムロド達はいつも持ち歩いているよ?」
あいつら次会ったら身体検査だ。
そんなことを考えていると、カグヤが急かすように俺の服を引っ張る。
「ねぇねぇ、次は何をするの?」
俺は辺りの屋台を見渡す。なんか大事な事(二つほど)を忘れてただ遊んでいるような気がしないでもない。
祭りの警備とカグヤの里親探しだ。忘れてない。その上で遊んでいるだけだ!
まあ、警備に関しては今のところ怪しい奴に遭遇していないので(ミムロド等は除く)単に出番がないだけなのだが。
そんなことを考えていると、ある屋台が目に留まった。そういえばあそこにはまだ行っていないな。
「射的とかやってみるか」
「しゃてき? なにそれ?」
俺の提案に興味津々といった様子でカグヤは尋ねる。
「鉄砲を撃って商品に当てたらその商品が貰えるって遊びだよ」
「楽しそう! やりたい!」
カグヤは飛び跳ねるように立ち上がり、俺の手を引く。
俺とカグヤは近くの射的へと向かった。
「カグヤはどれが欲しいんだ?」
お金を払い、銃と弾を渡される。弾は三発あった。
どちらもおもちゃだろうが、景品からの距離は遠くはないので当てれば倒れるはずだ。
「かぐやあれがいい!」
カグヤが指差したのはウサギのぬいぐるみだった。
カグヤに弾を入れた銃を渡して、撃ちやすい姿勢をとらせる。
カグヤは狙いを定めて引き金を引く。しかし景品には当たらなかった。続いて二回目も失敗した。
最後の一発。
カグヤは真剣な表情で位置調整を行う。俺も自然と手に力が入る。
目当ての景品に狙いをつけて引き金を引く。
弾は寸分違わず景品に当たり、ウサギのぬいぐるみはその反動で倒れる。
「やったやった!」
カグヤは嬉しそうに飛び跳ねる。
「おめでとう、お嬢ちゃん」
屋台の人がカグヤに景品であるウサギのぬいぐるみを渡す。
カグヤは満足そうな笑顔をを見せた。そんな顔されるとこっちも連れてきた甲斐がある。
カグヤの射的を見ていたらなんだかやりたくなってきたな。
「おっちゃん、俺にもやらせてくれ」
「ダメだな」
「なんで!?」
俺のやる気を屋台のおっちゃんは一蹴する。
「なんでって。あんたのそれ、バーチャルバレットだろ? ちゃんと書いてあるだろ騎士お断りってな」
店の男性は店の前に張り出されている紙を軽く叩く。
なるほど、どうやら俺の持っているバーチャルバレットで騎士と勘違いされているらしい。騎士は学校で剣と銃の訓練を一通り受けるからこのような類の遊びには大抵騎士お断りの張り紙が出されてある。
俺もこの世界の学校には行ったことないが、個人的に指導は受けて扱うことができるので大人しく引き下がるとしよう。
「パパはやらないの?」
カグヤは不思議そうに首をかしげる。どうやら景品が取れた喜びに浸っていて今の会話を聞いていなかったようだ。
「うん、俺はいいよ」
「なんでなんで? パパもやろうよ! 楽しいよ!」
かなり大きめな声でカグヤは射的を俺に勧めてくる。よほど気に入ったようだ。
それは別にいいのだが、あまり大きな声で『ぱぱ』と呼ばれたくない。
なぜなら、今は外で人もそれなりにいるため……。
「え? ……ぱぱ?」
突然、聞き覚えのある声がする。
声のした方を見ると針先みらのがこちらを見ながら固まっていた。
……こんな風に知り合いに会ったら面倒なことになるからだ。
そう思った矢先に出会うとは…………。
***
「セレア! お祭り行こう!」
紫色の長い髪を揺らしながら、シェリーは王の職務室の扉を開ける。セレアはその部屋で書類の整理をしていたが彼女の言葉に作業する手が止まる。
「え、今からで……今から?」
セレアは危うく数時間前に言われた敬語禁止を破りそうになり、どうにか言い直す。
シェリーの為に用意した部屋で二人で話していて、その後セレアは仕事に、シェリーは昼寝と別行動したのが一時間前のことだった。
先の雑談では普通に喋ることができたのだが、気を抜くと敬語になってしまう。そんな今の自分の状況を思い返すと、セレアは少しだけおかしく思えた。
「そうだよ。ほら早く早く!」
「ええ、ちょっと待ってて」
セレアは促されるままダークレッドのフードを羽織る。シェリーも外套を纏って、セレアの手を握った。
「さあ、出発だ!」
シェリーは元気よく駆け出した。セレアもそれに引っ張られて祭りに向かった。
「いやー、すごい賑やかだね!」
紫髪の少女は祭りの音に負けないように声を張り上げる。そこは多くの人が祭りを楽しんでいた。
場所はエスバルの街。城とは目と鼻の先にあり、他の街と比べて比較的治安の良い街だ。
「年に一度のお祭りだからね。……ってシェリー!? ちゃんとして顔隠してよ!」
セレアは慌てシェリーに外套に付いているフードを被せる。
一応祭りの警備とシェリーの警護の騎士はいるので、シェリーの身は安全だと保証できる。しかし、それでもセレアは念には念を入れておきたかった。当然彼女自身もフードを被っている。人が多いので元々の気温と相まって多少蒸し暑い。
「大丈夫大丈夫! 心配性だなぁ、セレアって…………けほっ……けほっ」
「ちょっ! まだ体調が悪いんじゃない?」
突然のシェリーの咳を見てセレアは心配そうに彼女の背中をさする。
「大丈夫。これは病気というよりも『反動』だから」
『反動」とは『能力』を持つリグルート以外の全種族が抱える『能力』の代償だ。大抵、種族間では同じ『反動』なのだが、『特別能力』を持つディアボロスは『反動』の内容もそれぞれ異なる。
「ボクね、日の光がダメなんだ。それがボクの『反動』。日の光を浴びるとどうも身体の機能が低下して、免疫も下がるんだ。それがボクの病弱体質に繋がっているわけだけどね」
「そうだったの……」
セレアはシェリーの背中を優しくさすりながら、空を見上げる。
空は藍色染まってきたとはいえ、僅かに朱色が残っている。
「もう少し暗くなるのを待ちましょうか」
セレアがそう言うと、シェリーは力なく首を横に降る。
「せっかくなんだし、遊ぼうよ。ボクあんまり……全然同い年の子と遊んだことなかったから、すっごい楽しみだったんだ。アルバーレ王国にくるの」
セレアもそう言われてみれば、自分もあまりない。
ミラノとは何度か遊んだことはあるが、それぞれの立場上常に遊ぶことができたわけじゃない。むしろ遊ぶ方が稀だった。
だからシェリーの言葉にセレアは深く共感を持てた。
一人の女の子として遊びたいという同じ小さな夢を持つ者として。
「じゃあ、一緒に周りましょう」
セレアの言葉に元気な返事が返ってくる。二人の少女の顔は自然と笑みが生まれていた。
『待て、ハリサキ! 断じて俺の子ではない!』
『分かったわよ。だから私に話しかけないでちょうだい。自分の子を認知しない人の知り合いだと思われるから』
『絶対に分かってない! 言葉とその目で丸分かりなんですけど!?』
祭りの雑踏に紛れてそんな会話がどこからか聞こえる。しかし次の瞬間には祭り特有の賑やかな音でかき消された。
だからセレアとシェリーは気づかなかった。
割と近くで起こっている修羅場に。




