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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
第2章 祭り前の動乱
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31 その少年少女、和解する

 暗闇の中、三つの小さな光がとあるドアの前で止まっていた。管理室の扉だ。

 「よし、入ろうか」

 ローグさんがドアを開けると机に複雑そうな機械が稼働していた。部屋はさほど広くない。

 ローグさんが入室して、その後にハリサキ、俺の順番で入る。

 「これは……!」

 先頭のローグさんが何かを見つけたらしく、ハリサキと俺は後ろから覗き込む。

 「…………壊されてますね」

 ハリサキが事態を把握し、確かめるように言う。

 そう、()()()いるのではない。()()()()いるのだ。

 他の機械は動いているが、俺たちの目的である監視カメラの記録は何かで殴りつけたようにあちこちがへこんだり、内側の回線が見えたりしている。暗闇の中、小さい明かりだけでも分かるくらい無惨な状態だった。

 「とりあえずブレーカーを上げませんか? このままではよく見えづらいです」

 「それは無理よ」

 「何でだよ?」

 俺の提案に答えたのはハリサキだった。

 「カメラの記録と寮のブレーカーは同じ機械で管理していたの。その機械がこうなってしまっては……」

 ハリサキが苦い顔をしていることは暗闇の中でも分かった。

 「いや、こんな事態のために予備の機械がどこかにあったはずだ。ブレーカーだけならなんとかなるかもしれない」

 ローグさんがそう言って、近くの機械を操作する。数分間、騎士団長が機械と向き合う。

 「よし、これでいいだろう。カケル君すまないが入り口近くの電気のスイッチを押してくれたまえ」

 俺は指示通り入り口まで戻り、タブレットの光を壁に当てる。それほど時間がかからずに丸いスイッチが見つかり、それを押す。

 パッと明かりがつき、思わず顔をしかめる。だが徐々に目が慣れ始めて瞼をそっと開ける。

 「さて、まず一つは片付いたな。後は…………」

 ローグさんが見た先にはボロボロの機械が一台ある。もはや元機械と言った方が適切かもしれない。素人目から見ても直せそうにないと思う。

 「明らかに人為的なものですね」

 ハリサキがローグさんの視線を追って、その残骸を見ながらローグさんに言う。

 「そうだね。それにしても、この手荒な犯行から見てよほど余裕がなかったのだろう」

 「犯人を絞り込めるでしょうか?」

 「難しいだろうな。犯人は寮の中にある可能性が高いが、あの停電だ。誰がどこにいたかなんてはっきり覚えている人は少ないだろう。少なくとも事件発生時に一緒にいた私達の誰かではない」

 「そう…………ですね」

 ハリサキとローグさんの会話をぼんやりと聞きながら俺も考えてみる。

 停電は管理室の壁に掛かった時計から推測して約十分間続いていた。これでは先程ローグさんが言ったように大した証言は得られそうにない。

 考えを巡らせていると、ふと頭の中から疑問点が浮かんだ。

 「そういえば寮長っていないんですか?」

 確かロビーに一つ部屋があった。その部屋には受付窓口のようなスペースが存在していたから寮長の部屋と勝手に思っていたのだが。

 もしいるなら、こういう時には率先して行動するようなイメージがあったから、ここに来てもいないのは意外だった。

 「寮長はいる。ただ今は用があって席を外しているんだ。そろそろ帰ってくるはずだ」

 ローグさんが俺の質問に答える。その後少し顎に手を当てて、考えたかと思うと結論が出たのかパンッと手を叩く。

 「よし、とりあえずこの事は他言無用ということでいいね。事態が大きくなって犯人に刺激を与えても面倒だ。この件は私が調べてみる。君達も何か気付いた事があったら知らせてくれ」

 「はい」

 「分かりました」

 俺とハリサキが各々返事をして解散となった。




 ローグさんは後から来た寮長と一緒にもう少し捜査をするそうなので俺とハリサキだけが先に帰ることになった。

 お互い喋らないまま、横に並んで歩く。

 「……疑っていたこと、謝るわ。ごめんなさい」

 ハリサキが沈黙を破る。唐突すぎて一瞬何のことか分からなかったが、犯人扱いしたことだと思い至る。どうやら疑いは晴れたみたいだ。ローグさんが遠回しに俺が犯人でないみたいなことを言ってくれたおかげで考えを改めたらしい。

 ちらりと横を見るが、ハリサキは進行方向を向いたままだ。

 「いいよ。こちらこそ悪かったな」

 こちらも前に向き直り、答える。

 具体的な事は口にしないが、まあ、喧嘩腰になったり、……下着姿見たこととか色々。

 「…………………………」

 「…………………………」

 再び沈黙が続く。喧嘩まではいかなかったが、険悪な雰囲気になったのはついさっきだ。中々話しかけづらい。

 「……ローグさんはあんな言ってたけど、ハリサキはどうするんだ?」

 「どうするって?」

 俺の質問の意図が分からなかったのか、ハリサキはこちらを怪訝そうに見てくる。

 「自分でも調査してみるのかってこと」

 俺が具体的な質問に変えたところ、彼女は少しの間考える。

 「……そうね。明日もどうせ祭りの準備の関係で暇になるだろうし、調べてみるわ」

 「じゃあ、俺も――」

 「ええ、頑張って一人で調べてきて」

 …………一緒にするという考えはお持ちでないのですね、分かりました。

 いや別にいいけどね。別れて調べた方が効率いいし。

 「……わかった。できる限りの事はするよ」

 俺たちはロビーに戻ってきた。ハリサキとはここでお別れだ。

 「何か分かったら連絡して。またね」

 ハリサキが女子寮に続く廊下を歩き去っていく。俺は彼女が角を曲がり見えなくなるまで、後ろ姿を見送ってから寮を後にした。

 外に出ると辺りは真っ暗になっていた。遠くの街のぼんやりとした明かりを頼りに俺は屋敷に戻った。街の外は人もあまりいない。祭りを行う区域はさらに人の姿が見えなかった。

 周りが木々で囲まれた道中からずっと、しんと静まり返り、嵐の前の静けさのようなものを感じた。



***

 そこはリグルートの、アルバーレ連邦のとある宿屋の一室。室内は外ほどではないが薄暗い。しかし誰もいないというわけではない。

 ベッドに腰掛けている人物こそがその部屋の主だ。大きめのローブを着て、顔が隠れるほどのフードで客観的に見て顔は見えない。その人物は陽気な鼻歌をしながら、タブレットを珍しそうに眺めながら(もてあそ)んでいる。

 リグルートではさして珍しいものでもない。しかし、他の種族からしたらとても珍しいものだ。その人物も異大陸(いたいりく)からきた、違う種族の者だ。

 アルバーレ連邦では異種族が旅行や仕事などで入国する時にタブレットを貸している。なぜなら、この国ではあった方が便利というより、ないと不便という程タブレットが浸透しているからだ。もちろん、帰国時には回収している。

 突然、その人物の鼻歌に合わせるように控えめに音楽がなる。

 その人物、その男の手の中にあるタブレットからだ。電話がきたみたいだ。男はなぜか手慣れた手つきでタブレットを操作して電話に出る。

 「おう、遅かったな」

 『……すまない。予想より事態が長引いた』

 まるで電話の相手が誰だか分かっていたかのようなその男の口ぶりに電話を掛けてきた相手も苦笑まじりの声が出てしまう。

 「しかしまさか監視カメラがあったとはな。俺が様子を見に行って正解だったぜ」

 『その件は感謝する』

 電話越しの相手が短く礼を言う。

 「ていうか、『本来そいつがいてはいけない場所』って指定で普通更衣室にぶち込むか?」

 『ち、近くに該当箇所がそこくらいしか無かったんだよ』

 相手の慌てた声に男は声を上げて笑う。

 「まあなんにせよこれで小さな混乱は招いた。次は明日だ。しっかりしろよ」

 『分かってるさ。あんたがたまたま来訪していて助かったよ』

 「その分の対価は払ってもらうけどな」

 『心配しなくてもいい。対価はあんたの欲しい情報だろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()|」

 その男はふっと口元をつり上げる。

 「まぁな。そろそろ寝るぞ。お前は明日早いだろ。俺も()()が残っているしな」

 『そうだな。また連絡する』

 電話相手がそう言い、電話を切る。

 男はタブレットをベッドの上に放り投げ、窓の外を見る。

 外にはどこまでも広がる街並みを見下ろすことができる。

 手前には祭りの中心地区があり、男はそこをじっと見つめる。一見子供が悪戯をする時のような無邪気な目をしながら、奥底では凍てつくような惨虐性を帯びていた。

 「良い時間を(ハブアナイスタイム)

 男はその景色を見ながら呪文のように告げ、夜の静寂な街に赴いた。

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