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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
第2章 祭り前の動乱
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30 その少年、疑い晴れず

 「さて、そろそろ通報しようかしら」

 「いや、違うんだ! 来たくて来たんじゃない。誰かに閉じ込められていたんだ! 信じてくれよ!」

 タブレット片手にハリサキはこちらを見る。彼女の冷めた目が俺の背中を凍てつかせる。冷めたを通り越して絶対零度に近い。

 「信じるってあなた……。私と別れた後、突然襲われて気がつけば女子更衣室のロッカーの中にいたってことでしょう?」

 「ああ、そうなんだ」

 「あなた自分がそれを言われたらどう思う?」

 俺が? そうだな……。まず、気がつけばロッカーの中という意味不明な状況。証言を正しいと判断できる材料は特になし。

 「うそくせー、と思う」

 「話が早くて助かるわ」

 「ちょ、ちょっと待って!」

 中々信じてもらえない。どうすればいいんだ。

 そんなしつこく無実を訴える俺にハリサキは辟易した様子で口を開く。

 「はぁ……。とりあえずあなたの言い分は分かったわ」

 良かった。分かってもらえた。

 俺はほっと胸をなで下ろす。しかし、ハリサキはそれを見て目を細める。

 「勘違いしないでね。言い分を理解しただけで認めてはいないわ」

 彼女の突き放す言葉に俺は再度肩身を狭くする。

 「それならどうすればいいんだ?」

 「付いて来て。更衣室の入り口付近に男子には知られていない監視カメラがあるわ。その録画を見れば一目瞭然よ」

 ハリサキはドアを開け、部屋を出る。続いて俺も後を追い、部屋を後にした。



***

 ハリサキとロビーに出ると入り口からローグさんとシモンが入ってきた。

 「おや、カケル君が寮にいるとは珍しいね」

 「はは。まぁ、色々ありまして」

 ローグさんが俺たちを見つけて声をかけてきた。俺はそれを曖昧な答えでお茶を濁す。隣からの鋭い殺気はとりあえず無視しておく。さっきの出来事を思い出して俺にあらぬ誤解をかけている方からだ。怖いからやめていただきたい。

 「……団長はどうなされたのですか?」

 「見回りをしていたらシモン君がまだ外を出歩いていたからね。ここまで連れてきたんだ」

 ハリサキの質問にローグさんが答えると、シモンは気まずそうに頬をかいていた。そういえば、寮は二十歳未満の騎士および騎士学生に帰宅時間を設けているとか。

 「いやー、つい練習に夢中になってしまって……」

 「次からは気をつけるように」

 「はい、では失礼します。ハリサキさんとカケルもまたね」

 団長からの注意を受けたシモンは返事をして部屋に戻って行った。

 「では私たちは用事がありますので」

 「どこか行くのかい? カケル君はともかく、ハリサキくんは今の時間帯は違反になる」

 「いえ、少し管理室に」

 「管理室? たしかにあそこは外に出ることなく行けるが……」

 ローグさんは行く意味が分からないといった表情を見せる。

 管理室とはその名の通り寮や城のライフラインや一部の監視カメラの管理しているところである。寮から渡り廊下が伸びているため外にわざわざ出なくても行くことができるのだ。

 まあ、アキヒロのお陰で基本的に自動運転なので、掃除をする時くらいしか人がいないような場所であるのだが。ローグさんはそんな場所に何の用があるのかを聞きたいのだろう。

 ちなみにタブレットの受信送信や家電製品、そして監視カメラの管理する集中管理室という部屋もある。この部屋は限られた人しか入れないらしい。極秘情報というやつだ。当然何があるのかは知らない。

 「……何かあったみたいだね」

 黙り込む俺とハリサキを見て、ローグさんは察してくれたようだ。

 「もし良ければ聞かせてもらえるかな?」

 「そ、それは…………」

 ハリサキは困ったように俺をちらりと見る。話すか話さないかの決断を委ねたのだろう。単に自分で言うのが恥ずかしかっただけかもしれない。どちらにせよ、俺が決めていいみたいだ。

 結論から言うと、別に断る理由は無い。

 まして、騎士団長がその場所にいてくれるなら俺を女子更衣室に閉じ込めた犯人の捜索もスムーズに行われることだろう。昨日の今日で襲われたのだから、捜査は確実にするはずだ。

 「えっと、実はですね……」

 俺はポツポツと騎士団長に事の次第を簡単に話した。

 何者かに俺が襲われたこと。

 気がついたらロッカーに閉じ込められていたこと。

 第一発見者がハリサキで、彼女が俺のことを疑っていること。ここでは彼女がほぼ下着姿だったことは伏せておく。

 「……なるほど。……ハリサキ君が彼を疑う理由はあるのかい?」

 「襲われたことが事実かどうかはさておき、わざわざ女子更衣室に彼を閉じ込める犯人の意図が分かりません。閉じ込めるにしても他の場所があったはずです」

 ハリサキが横目で俺のことを見る。目には尚も疑いの色が強く残っていた。

 「何だよ? 俺は嘘はついていないぞ」

 「それが本当かどうかはすぐにわかるわ」

 まるで俺が主犯とでも言いたげなハリサキの言葉に俺は徐々に苛立ちを覚え始める。

 「そうだな。だが、今はまだ分からない。 証拠も不十分なのに必要以上に疑うのは辞めてもらいたいね」

 「証拠と言うことならあなたが更衣室にいたことが何よりの証拠でしょ。まったく、そんな事も分からないなんて。加えて逆上もし始めるし」

 はぁ、とハリサキがため息を零し、バカにした目でこちらを見てくる。

 棘を含んだ俺の言い方はハリサキが何倍にもして返してきた。ため息で馬鹿にしている事をより強調している。

 ハリサキの冷ややかな目線と俺の苛立ちを帯び始めた視線がぶつかり合う。まさに状況は一瞬即発。

 「なるほど。では、私も同行しよう」

 そんな緊迫した空気をぶち壊してローグさんが口を開く。

 「い、いえ、大丈夫です。お気にならず」

 「気になろうが気になるまいがどの道騎士団長(わたし)のところに案件が回ってくるんだ。それなら最初の段階で立ち会った方がいい」

 ……トップも大変だなぁ。

 俺が他人事のような感想を抱いていると、突然ロビーの照明が点滅し始める。次第に点滅の間隔が短くなっていき、やがて辺り一面暗闇に包まれた。

 「停電? 何で急に……」

 「管理室に行けばすぐに復旧できる。二人ともタブレットは持っているね?」

 「はい」

 「持ってますけど、何に使うんですか?」

 俺の質問に答えたのはハリサキだった。

 「ライト機能があるでしょう」

 なるほど、そういうことか。ライト機能とはスマホのライト機能と同じものだ。他の共通機能としてはカメラとかもある。アキヒロさん、再現度高すぎ。

 それから数秒もせずに、目の前に強烈な白い光が現れる。続いて横からも同じような光が現れた。ローグさんに続いてハリサキもつけたようだ。

 俺もタブレットを起動してライト機能を使う。

 「さて、行こうか。カケル君少し遠いから離れずに付いてきたまえ」

 目の前と横の光が一斉に動き出し、俺も言われた通りに後を追う。

 「…………っ!?」

 先行する二人以外の視線と気配を感じて、周りにタブレットの光をあてる。しかし、そこには先ほどと変わらない光景があるだけだった。

 ……気のせいか? 人の視線には敏感なつもりだったんだが。

 「何してるの? 早く来なさい」

 進行方向に向き直るとハリサキとローグさんが歩を止めて待っていた。

 「悪い。ちょっと気配を感じたから」

 ハリサキは俺の言葉に怪訝そうな顔をする。

 「何言っているのよ。セレアじゃないんだから怖がらないわよ?」

 「いや、別に怖がらせようとしたわけじゃないけど」

 ていうか、セレアがお化けとかそういう類が苦手なことは知っているのか。流石は幼馴染み。

 「いいから、早く行くわよ。……それとも今更逃げるの?」

 「逃げないし、そもそも逃げる必要がない」

 「それなら行きましょう」

 幼稚な挑発だが、とりあえず俺の逃げ道は塞がれたことになる。まあ、逃げる気なんてなかったからそんなもの最初から存在していなかったのだが。

 不意に予想もしていなかった方向から顔に強い光が当たる。 

 「カケル……とハリサキさんにローグさん? この停電は何ですか? 部屋の電気も消えたんですけど」

 声の主はシモンだった。後ろから小さな光がぞろぞろと集まってくる。どうやら停電で寮生活の騎士や学生が部屋を出て情報を求めてここまできたらしい。光の正体は俺たちと同じタブレットか部屋に置いてある懐中電灯のどちらかだろう。とりあえず、シモンはタブレットだった。

 「分からない。今から三人で管理室の様子を確認しに行く。各自部屋で待機しておいてくれ」

 「分かりました。気をつけて下さい」

 ローグさんの声はシモンだけでなく、後ろの集団にも届いていたようだ。一つまた一つ灯りが遠ざかっていく。

 最後にシモンが戻っていくのを見送り、俺たちは三人で小さな光を唯一の頼りとして、管理室まで小走りで向かった。

 薄暗い中感じた視線はとっくに消えていたが俺の体に不快な感触を残していった。

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