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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
第2章 祭り前の動乱
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28 その犯人、再び

 「そうそう、その調子だ。……さて、そろそろ休憩しようか」

 シモンの言葉を聞いて、俺は構えていたVB(バーチャルバレット)を下ろす。

 俺とシモンは射撃室を出て、ハリサキが座っているベンチに移動する。

 「二人共、お疲れ様」

 ハリサキがそう言って俺たちに二つの水色の缶に入った飲料水を渡した。近くにある自動販売機で買ったのだろう。

 「ありがとう、ハリサキさん」

 シモンはそう言って、一缶手に取る。俺も礼を言って余った缶を貰う。彼女も自分の分は買っていたらしく、ベンチに置いてあった同じ水色の缶を取り、そのベンチに座る。

 「そういえば」

 ハリサキはそう言ってシモンの方に視線を向ける。

 「あなたはどうしてここに? 今日は練習はないはずだけど」

 質問をされたシモンはプルタブを開けて、答える。

 「自主練でもしようかと思ってね。僕も仕事なかったしさ」

 ハリサキはふぅん、と短く返して、缶を開ける。そして缶に口をつけ、傾ける。

 「悪いな、俺の練習に付き合わせてしまって」

 「いや、大丈夫だ。カケルは上達が早いからすぐに使いこなせると思うよ。それに教えることも確認作業として役に立つから」

 シモンは缶を握っていない方の手を振り、謝罪の必要性が無いことを示す。

 「たしかにカケルは上達が早いわね」

 ベンチで見ていたハリサキもシモンと同じ感想を抱いていたようだ。

 「そうなんだ。彼はすごく器用だよ」

 シモンがハリサキの言葉を聞いて言う。そして彼女は少し考える素振(そぶ)りを見せて俺の方を向く。

 「ねえ、カケルは銃撃隊に異動する予定はないの?」

 「え……うーん、どうなんだろう」

 「どうなんだろうって自分のことでしょ?」

 ハリサキは呆れたように言う。シモンもこれには、ははは、と苦笑いをしている。

 「まあ、ローグさんとかが決めてくれるだろ」

 「自分から希望しない限り絶対ないわよ。あなた、少しくらい自分の事を自分で決めたら――」

 「そういえば、シモンのヘッドホンってどこで売っているんだ?」

 「ちょっと、話の途中でしょ!」

 ハリサキは珍しく声を荒げたが、すぐさま、はぁー、と深いため息をついて追及を諦めた。うん、それでこそ針崎みらのだ。まだ知り合って一週間と経っていないので、それでこそという程彼女のことを知り尽くしているわけではないが。

 シモンは彼女が追求してこないのを見て口を開く。

 「これはアキヒロさんに作ってもらったんだ。狙撃中に外部からの音が遮断できるし、好きな音楽を聴いた方が集中しやすいから」

 シモンはそう言って首にかけていたヘッドホンを に触れる。

 「俺にも作ってくれるかな?」

 「頼めば作ってくれると思うよ。今は……少し難しいだろうけど」

 彼は今入院中だ。たしかに彼の言う通り今すぐには頼んだところで作ってもらえないだろう。まあ、あの人の場合半分仮病みたいなものだが。

 「さて、そろそろ練習を再開しようか」

 シモンは空になった缶を近くのゴミ箱に放り込む。そして、先程いた場所に戻る。俺も残りを飲み干して射撃室に向かった。




***

 練習すること二時間。

 俺がシモンの指導から解放された頃には、辺りは昼間よりもさらに暗くなっていた。空には相変わらず鬱陶しい黒雲が続いている。

 「はぁ〜、……疲れた」

 俺は射撃場を出て大きく伸びをする。ずっと同じ体勢だったので肩が凝った。

 「お疲れ様、カケル」

 後ろからシモンに声をかけられて振り返るとシモンとハリサキが出入り口から出てくるところだった。

 「ああ、お疲れ。ありがとな、練習に付き合ってくれて」

 「問題ないよ。それより天気は大丈夫かな。祭り当日に振らなければいいけど……」

 シモンは心配そうに雲を見る。

 「心配しなくても天気予報では当日は晴れになるって言っていたわよ。はい、鍵閉めお願いするわね。わかっていると思うけど、六時までに管理室に返しといてね」

 ハリサキはそう言って、シモンに鍵を渡す。

 「うん、わかった」

 シモンは鍵を受け取り、ズボンのポケットにしまう。

 「シモンは帰らないのか?」

 「少し練習してから帰ろうかと思ってね」

 シモンはおもむろに首にかけているヘッドホンを両耳に装着する。

 「またね、二人とも。気をつけて」

 「ああ、また明日な」

 この辺りは木々で囲まれているので、時々土から出ている木の根があり、こんな暗い日だと(つまず)く恐れがある。

 俺とハリサキはシモンが残っている射撃場をあとにして、帰路につく。

 「じゃあ私はこの辺で」

 ハリサキがそう言う。

 城の裏側には剣撃隊の練習場だったり、騎士達の宿舎がある。ちなみに射撃場も城から少し離れているが、城の敷地内だ。

 宿舎は希望制だが、八割近くの騎士がここで暮らしている。残りの二割はローグさんやライザーなどの上の地位にいる人たちだけだ。その人達は自分の家から出勤している。

 俺が好奇と憎悪の眼差しで見られているのは、その二割に俺も入っていることも一因していると思う。

 かと言って引っ越しする気は無いし、したとしてもこの溝はもう埋まらないだろう。

 宿舎は新人の頃は男子は四人部屋、女子は二人部屋となっていて、階級やら地位やら上がってくると、男子も女子も一人部屋が貰える。男子の場合はその間に二人部屋をはさむが。

 ハリサキはその一人部屋を使っているため城の方向に帰らなければならない。つまり、俺とはここで別れることになる。

 「ああ、また明日な」

 「さようなら」

 ハリサキは短くそう告げて、振り返らずに颯爽(さっそう)と暗闇の中に入り、見えなくなってしまった。

 ほんの少しの間、ハリサキが消えていった方向を見て俺も屋敷の、帰るべき場所に向けて足を向ける。

 まさにその瞬間だった。

 外部からの鈍い痛みが頭を襲い、ぐらりと視界が歪む。耐えきれず、その場に倒れこむ。頭を強く打たれらしく、意識が遠のいていく。

 ()()犯人か……?

 昨日俺を襲った犯人はまだ見つかっていないらしい。

 その事を退院前にライザーから伝えられた。気をつけるようにも言われたのに……。

 首だけでも動かそうとするが、動くことができない。

 どこかで鳥が一斉に飛び去る音がした後、耳が痛くなるくらいの静寂が訪れる。

 そんな緊張した空気には到底似合わないような、活き活きとした声が俺の鼓膜を震わせた。

 「ハハッ。()()会ったな。後ろ、気をつけないとダメだろ?」

 俺は正体不明の声の方向に動かない体を無理矢理曲げることで犯人を突き止めようとする。

 しかしそこには雲に光を遮られた木々があるだけで人の姿はなかった。

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