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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
第2章 祭り前の動乱
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26 その少年、病院にて

 目が覚めると見覚えのある天井が視界に入った。

 「あ、カケル。目が覚めたのね」

 体を起こし、声のした方向に目を向けると、セレアが本を閉じている姿が目に入る。

 数週間前と変わらない消毒液の匂いが室内に微かに漂っていた。壁に掛かったアナログ時計を見ると午後十二時を回っている。俺とライザーが巡回していた時間が午前十時くらいだったから二時間近く眠っていたようだ。

 「会議はどうしたんだ?」

 「終わったわよ。そしたらライザーから連絡が入ったから……」

 お見舞いに来た、というわけか。辺りを見ると、前に入院した時と部屋の様子が変わらなかった。個室はみんな同じデザインなのだろうか。

 そんな俺の顔をセレアは心配そうに覗き込む。

 「それで、体の方は大丈夫?」

 「なんとかね」

 セレアがほっと胸をなでおろす。

 「良かったわ。それと、貴方を襲撃した人物を今騎士団が捜索しているから、犯人が捕まるのも時間の問題よ」

 「そうか」

 まだ脳が覚醒しきっていないのか短文の言葉しか出てこない。ベッドの横の机には誰かの手土産らしい、フルーツの盛り合わせがあった。ライザー辺りだろう。

 このような物を持って来そうな相手が沢山いるほど、騎士団での俺の人間関係は広くないし、良くもない。悲しいなぁ。

 「切ろうか?」

 フルーツを見ているとセレアが突然そんな事を言う。

 「え?」

 「え? って食べたかったんじゃないの?」

 「あ、うん。お願いします」

 なんだフルーツのことか。てっきり今の俺たちの関係かと思ったぜ。騎士団での人間関係についてはあまり考えないようにしよう。変にネガティブになってしまう。

 セレアは取りやすい位置にあったリンゴを取り出すと、手慣れた手つきでしゅるしゅると皮をむき始めた。ほんと、なんでもできるなこの人。

 待つほどもなく、リンゴは綺麗に六等分され部屋にある皿に盛られた。

 俺たちがそれを食べようとしたところで、控えめなノックが聞こえた。

 「はーい」

 「失礼します」

 丁寧にお辞儀をして入ってきた人物はセレアの老執事であるアロメさんだ。

 「スカーレット様、午後の会議が始まります。どうぞお戻り下さい」

 「会議は終わったんじゃなかったのか?」

 俺の問いかけに、ええとと言葉を詰まらせながらセレアは口を開く。

 「中々祭りの特別企画が決まらなかったのよ。そんな時にライザー様から貴方が倒れたと連絡を受けて会議を午後に持ち越して来たのよ。はい、この話はおしまい!」

 最後らへんは早口でまくし立てるかのようだった。セレアはガタンと大きな音を立てて、立ち上がる。病院ではお静かに。

 「じゃあ、そう言うことだから私そろそろ行くね」

 耳まで真っ赤にしているセレアがそそくさと退散しようとする。そんな彼女の左腕には正方形の小さな絆創膏が貼られてあった。

 「セレア、怪我でもしたのか?」

 思わず呼び止めるとセレアは立ち止まりこちらを睨む。まだほんのりと顔が赤い。まあ、早く退場したい気持ちはわかるけどそんなに睨まなくてもいいんじゃないかな。

 「……そう言えば、言って無かったわね。貴方が倒れた理由は貧血よ。あと少しでも流血していたら失血死の可能性だってあったらしいわよ」

 「失血死……」

 俺はその言葉を聞いてさあぁと体から血が引いていく。おいおい、勘弁してくれよ。まさかの傷は治るけど、流血した分は戻らないのか。

 「…………ん? ということは俺に血をくれたのか?」

 「まあ、カケルの血液型は珍しいタイプでストック分じゃ足りないって看護師さんたちが困っていたから。私も同じ血液型だったし」

 セレアは顔を赤くしながら、一瞬また言葉に詰まったが続ける。

 「最近、カケルに対して冷たくなっていたかなって思ってたから、そのお詫びよ。じゃあね!」

 セレアはドアを開き、外に出る。

 「セレア!」

 俺の呼びかけに再度彼女は足を止める。こちらを振り向いてはくれないが耳まで真っ赤にしている。

 「なに?」

 「ありがとな」

 「……うん。どういたしまして」

 ドアが閉まり、彼女の姿が見えなくなる。その直前に見えた彼女の顔は少し笑っているような気がした。

 「では、私もこれで」

 「あ、はい。すみません」

 空気扱いされていたアロメさんに条件反射で謝罪してしまう。俺なんかが空気扱いしてすみませんでした。

 俺の謝罪の意図が伝わったのかアロメさんがくすりと笑う。

 「いえ、とんでもございません。私もあのような懐かしいスカーレット様のご様子が拝見できて嬉しく思います」

 「昔はあんな感じだったんですか?」

 「ええ。ですが先代の国王様が亡くなられて以降、国を背負う責任からなのか、あのような普通の少女の顔を見せる相手はミラノ様くらいでしょうか」

 アロメさんがドアの方を向いて、眩しそうに目を細める。

 「……貴方が執事になれば、スカーレット様も気が楽になるのではないでしょうか?」

 「え? いや、どうでしょう。……家事はそこそこできますけど……」

 アロメさんは病院内ギリギリの音量で笑い声をあげる。

 「老人の戯言(ざれごと)ですよ。まじめに検討しないでください。こちらが気まずくなりますゆえ」

 「す、すみません……」

 俺は頭を掻いて再度謝る。

 「まぁ、しかしその気があればいつでもおっしゃってください。その時は歓迎いたしますよ」

 「はあ、分かりました」

 「それでは、これからも孫共々よろしくお願いいたします」

 「こちらこそよろしく……孫?」

 孫って誰? 俺知らないよ。

 「はい、シモン・ペイバーです。昨日お会いしたと伺っておりますが」

 あいつか。言われてみると、少し細身の体型とかが似ている。まあ、こんなものは言われたから、脳が勝手に結び付けているだけなのだが。

 その後、アロメさんは一礼して部屋を出ていった。

 その十分後に入室してきた医師によって、俺の退院は明日になることが分かった。

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