25 その少年、襲われる
翌日、シモンの言う通り祭りの準備を手伝うことが朝の集会で言われた。具体的には運営側の手助けをしたり、巡回を増やしたりするようだ。去年までは巡回を増やしただけだったらしい。
しかし今年はディアボロスの代表が祭りの時期に訪問することになったようだ。セレアの昨日の用事はそれに関することだ。今日彼女はお偉いさん方とその事について会議をしている。
そして、俺は『カケルは……ええと、……みんなの手伝いをしてくれるかしら?』と王女に命じられ、巡回役に回っていた。決して邪魔だから追い出されたとかではない、と信じたい。
巡回は二人一組で時間毎に分かれて行うそうだ。まじかよ、俺の嫌いなやつだ。体育のペア決めで余りの常連だった俺を甘く見ないでもらいたい。
巡回組は次々とペアを作って、どの時間帯にするか話し合っている。だが俺は焦る事なくその光景を見守る。
突然話は変わるが、俺が所属している剣撃隊は七つの班に分かれている。剣の鍛錬で分けられている七つの班がそれに当たる。そして、その七つの班の分け方は強さ順だ。俺は一番強いところにいる。それが疎まれる原因になったりもするが、今は感謝しなければならない。何度も言うようだが一番強い班に俺は所属している。
「カケル、ペアがいないのなら僕と組むかい?」
つまりこの国、いやリグルート最強の騎士であり、紳士であるライザーがいるのだから俺の『ペアぼっち』は卒業を迎えたということだ。
***
俺とライザーは午前中の巡回に割り当てられた。街の様子はいつも通り賑わっているが、近日中にある祭りを意識した飾り付けをしている店がちらほら見受けられる。
祭りは三日間かけて盛大に行われ、ディアボロスの代表者が来るのは最後の日だ。
「特に異常はないみたいだね」
ライザーが辺りを見ながら言う。彼の腰あたりには黒いトランシーバーが付けられている。これは非常時にライトソードを起動できて、なおかつ連絡手段を確保するためのものだ。巡回中はペアで一つ持つ決まりらしい。
「そうだな。というか、どこも祭り一色だな」
「今回は異族の代表が来ることだし、盛り上がるならそれでいいじゃないか」
どことなく声を弾ませてライザーは言う。こいつもなんだかんだで楽しみらしい。
俺はもう一度街の様子を眺める。やはり街はいつもの賑わいとは違う種類の騒がしさがあった。修学旅行に行く前の中学生の頃と似ている気がする。
高くそびえる時計台にも祭り仕様の飾り付けがされてある。古い建物だが装飾を施され華やかになっていた。
「街を見るのもいいけど、仕事もしような?」
「……悪い」
ライザーに諭され、俺は苦笑しながら謝る。さて、仕事仕事。
不意に肩から軽い衝撃が脳へと送られる。誰かとぶつかったみたいだ。
「っと、すみません」
謝罪するために振り返ると、そこには黒いパーカーを身につけた人物がいた。ローブを目深に被っていて、体よりもだいぶ大きいサイズなのか体格がわからない。背が俺よりも高いし、ぶつかった時の感じからして多分男……なのか?
「いや、こちらこそすまないな」
男の声だった。陽気な声だったが、どこか乾いたような声だ。その男は口元を意味ありげに歪ませて、去っていった。
「カケルー? 早く来ないと置いていくぞー」
少し離れたところからライザーの声が聞こえる。前を向くとライザーが前方で俺を待っていた。
「ああ、悪い」
俺はライザーに届くくらい大きな声で言って、再度後ろを向く。しかし黒パーカーの男の姿はなかった。別に曲がり角もないし、人混みというほど人が多いわけでもないのだが見失ってしまった。俺は不思議な気分になりながらも、前に進もうとする。
その瞬間、ドシュという音が右側から聞こえた。俺の鼓膜がその音の振動を感じたとほぼ同時に、右ふともも辺りから激しい激痛が襲ってくる。
俺はその場に倒れこんだ。
「きゃーー!」
どこからか盛大な悲鳴をあがる。首だけ回すと、主婦らしきおばさんが青い顔のままこちらを見ていた。その悲鳴がさらに悲鳴を呼ぶ。平和な街が一瞬で騒然とした。
ドシュ、とさらに次は左腹部に、ドシュ、と次は頭に鋭い痛みが走る。次々と俺の体から赤い血が留めなく出てきて、地面の石と石の間を縫うように流れる。その度に悲鳴にならない声が俺の喉を震わす。
「カケル! 皆さん、避難してください! 大変危険です!」
慌てた声が聞こえたかと思うと、あちらこちらで混乱した足音が鳴り始める。地面に這い蹲っている俺はその音を体全体で感じていた。足音一つするたびに鈍い痛みが走る。
数秒程謎の攻撃が止み、再び始まった。まず右肩に一発、その次に――。
「はああ!」
バチィ、という金属同士がぶつかり合うような音が聞こえる。顔を上げると、ライザーがライトソードを起動して空を何度も切っている。その度にガキンガキンという音が街の空気を震わす。ライザーがS Rを振るたびに彼の足元に何か落ちていく。それは淡い光を放つ、銃弾のような形だった。地面に落ちると、それは雨粒が地面に落ちるように形を残さずに消えていった。
やがて攻撃が止み、しばらく待っても新たな攻撃はなかった。
「…………ふぅ」
ライザーが一瞬緊張の糸を緩めたようなため息をつき、バッとこちらを振り返る。その顔からは緊張した様子がうかがえた。
「カケル、大丈夫か!?」
俺は体を起こし、しげしげと自分の体を見つめる。あれだけ撃たれて流血もしたのに、体には傷一つなかった。
「……ああ、傷も治っている。多分、絶対神法書のおかげかな」
絶対神法書の最後の法文、『女神の加護者』はこの世界で生まれた全ての生物には殺されることはない。
まさか、傷が瞬間で治る能力が得られるとは予想外だ。
「それにしても今のは一体何だったんだ?」
俺は立ち上がりながら、ライザーに問う。服は血まみれ、俺が倒れた辺りは惨状と化していた。
「おそらく、狙撃だ。方角からして時計台の方からだ」
ライザーは時計台の方を指でさす。そして、腰に付けているトランシーバーを取り出す。
「とりあえず、この事を報告しよう。カケルはその後念のため病院に行ったほうがいい」
「ああ、そう、だ…………な……」
「カケル?」
グニャリと視界が曲がり、俺はさっきまで倒れていたところに再び倒れ込む。
「カケル!」
ライザーの声を聞いたのを最後に、俺の意識は暗闇に沈んでいった。




