14 その少年、願う
突入電流という言葉がある。電気器具の電源を入れた際に流れる大電流のことだ。具体的には電気を点け始めて三秒間は約七秒間の電力が必要となる。
よく『電気を点けたり消したりすると電気代がかかる』と言われている根拠となるものだったりする。しかし、技術の進歩で開発されたLEDのおかげで特に気にする必要もないらしい。今となっては迷信のような存在となっている。
しかし、ここは異世界だ。いくら魔導機械が発達し、電化製品の代わりになっているとはいえ、LEDはまだ存在しない。つまり、迷信がまだ実現しているということだ。
使用者の微量の魔力で動く魔導機械がそれを実現させる。一般的な魔導機械なら運動によって多少熱くなるだけで済む。
しかし、ライトソードは違う。ライトソードの能力は二つある。
魔力を込めれば込めるほど、強力になっていくこと。そして人や魔導機械などの運動している物体の運動を強制的に停止させることだ。俺もライザーの攻撃を受け、動く事が出来なかった理由はそこらへんにある。それは一時的なもので魔力によって効果時間が変わる。より強いものだと人なら俺みたいに気絶し、機械だと最悪壊れる場合がある。
さらに、ライトソードも立派な魔導機械だ。
「馬鹿なっ……!」
ジャロウは目の前で自分の武器が壊されて驚愕する。
ライトソードも魔導機械ならば、ライトソードで破壊可能である。SRにも先の具体例の通り、起動時に必要とされる魔力が起動した状態の約二倍以上になる。
二倍以上の威力を持つライトソードなら他のライトソードも破壊できるだろうと思って実行したが、こんなにも上手くいくとは流石に予想外だった。
「き、貴様、何をした!?」
ジャロウが何度もSRの起動を試みるが、一向に反応がない。その後、ジャロウは信じられないような目をSRから俺へ向ける。まるで俺が魔法でも使ったかのような、あり得ないという目だ。
「少しはつまらない国盗りのことしか考えていない頭に知識を入れろよ、おっさん。だから、俺達に負けるんだよ」
「負けだと? SRを壊したくらいで図に乗るなよ!」
俺の挑発にジャロウは顔を真っ赤にして怒りを露わにする。そしてSRを投げ捨て、服の内側のポケットから何か取り出そうとする。
その前に。
「やあっ!」
「がっ……!?」
背後にいたセレアの一撃でジャロウは重々しく地面に倒れた。
「あーあ、だから言ったろ。俺達に負けるって。ちゃんと聞いとけよな」
「カケル、もう挑発はしなくてもいいのよ?」
セレアが俺に近づきながら言う。
敵を挑発するって意外と楽しいな。
こうして、俺の異世界に来て最初の戦いは終わった。
戦利品、挑発する快感。
「ぐっ! ま、まだ、だ」
「そんな……!」
「嘘だろ……」
脳内でエンドロールを流していた俺と、セレアは背後からの声で振り向く。
そこには苦痛の顔をしながら踏ん張るように立っているジャロウの姿があった。
「殺して……やる! もともと……アナザーの……実験台にするつもり……だったんだ。死のうが、関係ない」
ブツブツとジャロウは言う。その言葉は俺やセレアに向けたものなのか、独り言なのか分からなかった。
しかし、言葉の端々から伝わる禍々しい殺気は本物だと感じた。
「もう一度、SRを当てるわ!」
ジャロウの雰囲気に触発されたのか、セレアはSRを再び起動し、ジャロウの下まで一気に駆ける。
ジャロウはセレアの行動を見て気味の悪い笑みを浮かべ、懐から何かを取り出す。先程取り出そうとしていたものだろう。
それは――――。
「セレア、待つんだ!」
俺の制止とほぼ同時にジャロウが取り出した黒い銃の発砲音が響き渡る。
発砲者はジャロウ。
被弾者は………………セレア。
「……え?」
セレアは撃たれた左腹部辺りを確認して、そのまま倒れる。ライトソードはセレアの手から離れると同時に刀身が儚く消え、持ち主であるセレアを追うかのように、落下する。
倒れた瞬間、床には赤い血が撃たれた箇所を中心に広がる。それはセレアの服を真っ赤に染め、掃除の行き届いていそうな床を汚す。
俺はその光景を見ていることしか出来なかった。
「はは、最後に笑うのは儂だ」
ジャロウは黒光りする銃をこちらに向けて牽制し、ドアの方へ向かう。しかし、俺はそれを止めることはおろか、追いかけることすら出来なかった。
止めなければいけないのは分かっている。しかし、金縛りにあったかのように動かない。
目の前の情報を目が受け取り、働いていない脳へと送る。
ドアが開く音が聞こえる。閉まった音かもしれない。とにかく、ドアが動く音が聞こえた。
ジャロウが逃げたのだろう。そう思いながら、俺はセレアが倒れている光景を前にして固まっていた。
「………………っ!」
「セレア!」
セレアの呻き声で俺はようやく我に返り、足が動くようになる。
セレアの側に駆け寄り、そっと触れる。まだ息はあるようだが、浅い。
白い柔らかそうな肌は左腹部からの血で染まり、服も汚れていた。
「い、急がないと! ライザーは一体何してんだよ、早く来いよ!」
俺は苛つきながら言う。苛ついている原因はライザーにではなく、何も出来ない、出来なかった自分に対してだと自分でも分かっている。分かっているからこそ、他に責任をなすりつけようとする自分にますます腹が立つ。
そんな自己嫌悪に陥っている俺の右手に暖かいものが触れる。
それはセレアの手だった。俺の手を彼女は力なく握る。
「……カ、ケル。――――」
「…………何がだよ」
セレアは苦痛の目を向け、弱々しい声で言う。最後の方なんて口パクに近い状態だった。
しかし、何故かはっきり聞こえた。
――――ごめんね、と。
「何で謝るんだよ。まだ死なないだろ。いや、死なせないさ」
セレアは俺の言葉に儚く微笑み、俺の右手を力強く握る。そして、段々その力も弱くなる。
「セレア、セレア!」
セレアは応えない。ただ浅い呼吸を繰り返すばかりだ。
俺は悲観し、絶望して俯く。俯いた先には自分の右手とセレアの手があった。右手にはセレアの血がべったりと付いていた。
「…………あ」
ふと右手に目が止まる。正確にはそこに刻まれている数字を注視する。
自分以外にも使えるのか、と一抹の不安がよぎるが時間もない。
俺は見つけ出した小さな希望に賭けて右手を胸に当てる。そして、はっきりと告げる。
――セレアを助けて欲しい、と。
この世界には既に存在しない神様に祈るような気持ちで、俺はプレアが発動することを願った。




