13 その少年と紅髪少女、共闘する
「……え?」
「だから、戦うから縄をほどいてって言ってるのよ。今のジャロウを倒すには二人がかりの方がいいわ」
確かにパワーアップしているジャロウを一人で倒すのは難しそうだ。しかし先程カッコよく勝利宣言した手前、無理そうだからやっぱり二人がかりで、というのも締まらない。というか、かっこ悪い。
俺が悩んでいる間にもジャロウがゆっくりとこちらに近づいてくる。
「何コソコソ話しておる。どうせ勝ち目はないんだ、諦めろ」
ジャロウが鼻で嗤い、ライトソードを構える。悩んでいる時間は…………ない。
「セレア、縄を解く。後ろを向いて!」
「わかったわ!」
俺はセレアの背中にある結び目に向かう。しかし、それを当然待ってくれない人もいる。
「無駄だと言っておるだろうが!」
ジャロウは魔導機械の力で俺たちの下まで一気に距離を詰める。そして高らかにライトソードを翳し、思いっきり振り下ろす。
ガキン、という金属同士がぶつかった音が研究室内に弾ける。ジャロウの切っ先が俺の頭の数ミリ上で止まっている。いや、止められているのだ。
「この…………小娘が」
憎々しげに吐き捨てるジャロウと、俺の間に割って入った一人の少女、セレアがジャロウのRSを受け止めていた。
「はっ!」
セレアは鍔迫り合いの均衡状態を崩し、ジャロウが距離をとる。
「いくわよ、カケル!」
「……ああ!」
俺は初めて会った時のように、紅い髪をたなびかせるセレアを見る。ジャロウに蹴られた痛みはいつの間にか消えていた。
俺は立ち上がり、セレアの横でRSを構える。
「……あと少し、あと少しなのに、あと少しで、計画が成功するのに、こんな、こんなガキ二人に……」
ジャロウは唸りながら、鋭く、歪んだ目でこちらを睨みつける。その瞳は酷く歪んでいて、寒気すら覚えた。
「邪魔はさせん! 儂が、儂が王となるんだ!」
ジャロウが狂ったように駆け出す。歪んだ目でまっすぐ見つめるものは王座への執着だった。自分の願いを叶える為にあらゆるものを利用し、捨てる。
「セレア、俺の後に付いてきて」
「へ? あ、ちょっと!」
俺の後に慌て続くセレアを視界の隅で確認して、ジャロウと客用のソファやテーブルを挟んで対峙する。
ジャロウがテーブルに乗って、こちらに接近する。
「行儀が悪い!」
「なっ……!」
俺はテーブルには乗らない。その代わり、テーブルを思いっきり蹴り上げる。足に鈍い痛みを感じて、思わず顔を歪める。しかし、その衝撃でテーブルが八十度くらい傾く。その後重心にしたがって、四本の足を地面に叩きつける。当然、上に乗っていたジャロウは予想外の衝撃に耐えきれずバランスを崩して、地面に倒れる。
「セレア、今だ!」
「全く、行儀が悪いのはあなたもじゃない」
セレアは愚痴をこぼしつつ、ジャロウにライトソードを降る。
「まだだ!」
しぶとくもジャロウは倒れ込んだままでそれをRSでガードする。恐ろしいまでの執念だ。
そのままジャロウは魔導機械の力任せにセレアを押しのけ、セレアは短い悲鳴をあげ、倒れる。腰を強く打ち付けたらしく、中々立ち上がらない。
「セレア、危ない!」
セレアの危険を感じてジャロウとセレアの間に割り込もうと駆け出す。
しかし、ジャロウはそんな絶好の反撃の機会に見向きもしないで、俺に敵意を向ける。
「貴様が、何処の馬の骨ともしれん小僧が……!」
まずい、狙いは俺か!
とっさにブレーキをかけるも縮めてしまった距離はどうにもならない。
ジャロウが俺に向かって鈍く光るRSを縦に振り下ろす。まさに渾身の一撃だった。これは防ぎきれない。唯でさえ急停止をしてバランスが崩れている。
しかし無理矢理バランスを戻し、俺はRSを横にして守りの体勢に入る。
「うおおおおおおおおおおお!」
ジャロウが繰り出す一撃を俺はギリギリまで引きつける。
「……はっ!」
「なんだと!?」
そして俺はジャロウのRSとぶつかる刹那、体を横にずらし切っ先も地面の方に九十度、ジャロウのRSに合わせて傾かせる。
ジャロウの一撃は虚しく空を切る。俺は一度、RSを停止させる。
「……は?」
俺の行動が理解できないジャロウは呆けた顔をする。当たり前の反応だ。なにせ敵が武器を仕舞ったのだから。
しかし俺は別に気が変になったわけでも、勝負を諦めたわけでもない。
俺が考えるに、これがRSの最大攻撃の準備なのだ。
俺はRSを自分の体に引き寄せる。そして、刀身なしの状態で突きを繰り出す。
「はあああああああああああ!」
「馬鹿にするのもいい加減にしろぉ! ガキがァ!」
遂に、というか割と前から怒っていたジャロウの怒りも最高潮に達したようだ。ジャロウは下から上へ切り上げようとする。
二つの雄叫びが研究室内で交錯する。
俺はタイミングをみて、ライトソードを起動させる。何度も見てきた光の刀身が、鍔から切っ先の順に瞬間的に伸びる。
そして、二つのライトソードが交わる。
瞬間、バキン、と金属物が壊れた音がした。
ジャロウは信じられない物を見る目で自身のRSだったものを見ていた。
俺やジャロウの目に映っているのは、ジャロウのRSの光の刀身が小さなカケラとなって宙に消えていく様子だった。
ジャロウの驚愕の表情を見て、俺は勝負の最中にもかかわらず勝ち誇った笑みを浮かべてみせた。




