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フロランス・フォルティエ

 コマタロウと分かれた私たちは宿屋で湯浴みを済ませ、部屋でまったりする。

 サイアム、お風呂好きなんだな。

 爬虫類ってそんなだったっけ? ……まあ、源泉に浸かるくらいだし、ドラゴンはドラゴンで生態が違うのか。

 アナグマ形態になった私はローサの膝の上で毛づくろいをしてもらいながら、寝る前の雑談をしていた。


「ミルラーン面白いね。イヴシルとも全然違うみたい」

「うん。良かった」

「ローサもグレゴリーも、ミルラーンには詳しいの?」

「私たちは昔住んでたから」

「へええ。そこでもう知り合いだったんだ」

「そうだね。その時は母さんも一緒だった」

「お母様はいまは?」

「もういないんだ」

「そっかあ、ごめんね」

「いいよ」


 ローサはもう肉親との別れの悲しさは乗り越えているのか、終始湿っぽくない空気感だった。

 毛を整えてもらい、サイアムもついでに鱗をタオルで拭き上げてもらって、二人と一匹で一緒に眠る。


 翌朝、宿で早めに朝食を取りロビーで待っていると、コマタロウがやたら豪奢な馬車に乗りやってきた。


「皆さんおはようございます! 今日もよろしくお願いします」

「おはよー」

「おはよう」

「おはようさん」

「きゅるるー」


 と、それぞれ朝の挨拶を交わす。

 サイアムに至っては挨拶なのか謎だが。

 ムラカミ家の乗り心地のよい馬車に恐縮しながら乗り込む。

 快適な馬車の中、暇だったので、コマタロウたちと雑談をする。


「フォルティエ家って、なんかすごいって印象あるけど実際どんな感じなの?」

「ハジャリア王国は王家と有力氏族で政治を決める国なんです。貴族制ではないんですけど、フォルティエ家はその有力氏族にあたります」

「へー、皆で相談して決めるみたいな感じ?」

「そうですね。ムラカミ家も会議に出ています。父上やお祖父様が」

「コマタロウはまだ見習いみたいな?」

「恥ずかしながら。今回シーサーペント討伐隊に組み込まれたのは、次期当主として経験を積んでほしいのだそうです」


 次期当主の重みを感じてか、ため息をつくコマタロウ。

 話を聞いていたグレゴリーとローサが感想をこぼす。


「俺はしがない市民だが、力を持つとそれはそれで面倒くさいもんなんだな」

「その点冒険者は気楽ではあるね。冒険者ランクが上だとそれ相応の責任もあるけれど」


 その後もわやわや話していたら、フォルティエ家に到着した模様。

 コマタロウは顔パスなのか、馬車から顔を出すと特に何もトラブルなく門の中に通される。

 玄関前で馬車から降りると、大きくて絢爛な屋敷が見えた。

 使用人が大きな扉を開けると、エントランスには狐女神シュマリルフス様の彫像が置いてあった。

 こちらです、と客間に通され、やたら横に長いふかふかのソファに座る。

 少し待っていたら、妙齢の美しい女性がしずしずと入室してきた。

 狐耳と尾は金色の被毛に覆われ、少しだけ白い毛が混じっている。

 何となく圧を感じ、立ち上がってぺこりと出迎える。


「あらあら、良いのよ座っていただいて。わたくしも座りますから」


 と、先に座ってみせた狐耳の女性。

 機嫌よさそうに、ふさふさの尾をゆったりと一振りする。

 言葉に従って私たちはソファに座り直す。


「わたくし、フロランス・フォルティエと申します。お話はシンから伺ってましてよ」

「よろしくお願いします」

「シンが言っていた、あなたがムジナさんですのね」

「はい」


 なんで初っ端から私が注目されてんだろ? と素朴に疑問に思う。フォルティエ家に借金してるからか?

 と、俗世じみた思考をしつつ、サイアムが挨拶するように「きゅる!」と喉を鳴らしてフロランスの方を向いた。


「ムジナさんは、可愛らしい相棒をお持ちなのね」

「サイアムです。ドラゴンです」

「ドラゴン。それはめずらしいですわね。大切になさってください」


 フロランスは邪気のない笑みを浮かべた。


「そちらの方々はムジナさんの保護者かしら?」


 と、フロランスは私たち以外にも話を向ける。


「こっちはローサ。俺はグレゴリー。冒険者だ」


 ローサは紹介されてぺこりと会釈をした。


「お噂はかねがね。あとは、ムラカミさんの所のコマタロウさんですね」

「はい。お久しぶりです、フロランス様」


 二人はさすがに旧知の仲だったらしい。


「ふふ、シンも随分と顔が広くなったものですのね」

「フロランスさんは、シンさんとは親戚なんですか?」


 と、親しげな様子を見て、素朴な疑問をこぼす。


「シンはわたくしの曾孫ですのよ」

「えっ!? 曾孫!?」


 フロランスさんは一体何歳なんだ。

 私の内心を察してか、彼女はカラカラと上品に笑ってみせた。


「フォルティエ家当主は、わたくしフロランスがここ百年以上務めさせていただいておりますわ」

「すごいですね……」


 と小学生のような感嘆しか出てこない。

 霊命種の寿命ってすごいんだな。

 さて、とフロランスは話を切り替えた。


「フォルティエの三本杖のうち二本は、王様のグルテハインさんに預けていますの。せっかくご足労いただいたところ申し訳ないのですが」

「え? 王様ですか?」

「はい。先んじて言伝を送っていますので、王城の方まで受け取りに行ってくださいませんか?」


 急に出てきた国の最高権力者の名前に思わず戸惑う我々である。


「私たちそういう身分の人と縁遠いんですけど、会いに行って大丈夫なもんですかね?」

「大丈夫、大丈夫。わたくしとシンのお友達として紹介しましたから」

「友達ってそんなノリでいいんです?」


 くすくすと笑みを深めるフロランスさん。


「元々、シーサーペントの討伐ともなれば、国策の一環となる規模ですから。グルテハインさんにお目通りしておくべきですのよ」

「なるほど」


 なんかすごい大事になってきたぞ。

 ちょっぴり遠足気分だったのは否めなかったので、背筋が伸びる思いだ。


「シンにどう言われたかは存じ上げませんが、王様も成功の暁には、討伐者へ褒賞を出すおつもりですのよ」

「報酬ですか!?」


 おや、シンには元々三千万エルの借金だったところを二百万エル減額という話だった。

 その上、討伐報酬も貰えるということか。

 さらなる借金減額に期待感が膨らむ私である。


「本来ならシーサーペント討伐について冒険者ギルドにお触れを出すところ、フォルティエ家とムラカミ家が先にお仕事をいただきましたの」

「じゃあ報酬あるのは元々の話だったんですね」


 俄然やる気が出てきたぞ。な私ことムジナである。

 ローサは会釈しながらよそ行きの口調で話す。


「御心遣い感謝します。精いっぱい努めてまいります」

「ああ、俺たちも気合い入れていかんとな」

「はい……!」


 グレゴリーはいつも通りのノリでやる気を示した。

 コマタロウは元気よく返事するものの少し自信なさげだ。


「お話は以上となります。この後、王城の方へそのまま向かっていただけると良いかと思いますの」


 そう言ったフロランスさんに見送られながら、私たちは馬車に戻った。

 王城に向かう道中、といってもフォルティエ家は王城のそばにあったのでそれほど時間はかからなかった。

 王城は荘厳なたたずまいではあるものの、どこか親しみやすさも感じる、やや小ぶりな城だった。

 門の前で兵士に止められ、全員の名前や身分を確認された後、確認役が一人奥の部屋に引っ込む。ほどなくして入城が許可された。

 馬車は門のそばにある馬車や馬を停めておくスペースで預かってもらい、徒歩で城の中へ案内される。

 しばらくまっすぐな廊下を進み、階段を登ると謁見の間にたどり着く。

 大きな扉の前で隣のコマタロウに声をかけられる。


「王様に会うのは久しぶりなので緊張しますね……」

「いやいや私なんか人生初めてだから」

「私とグレゴリーも見たことはあるけど会ったことはないよ」

「城下町の方の祭りでたまに見たもんだなあ」


 と、各々、王様についての話をした。

 そうか、祭りだと民衆の前に姿を現して市内をまわったりするのかな。

 市民に近い、いい王様だといいなあ、と一般人的感想が思い浮かんだ。

開発中のインディーズゲームプロジェクト『Midnight Banana Bar』の進捗や、Patreonの案内は公式X(旧Twitter)で発信しています。ケモ要素・人外要素が好きな方はぜひ覗いてみてください!


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