首都ミルラーン
次の日、夕方前に大きな橋を渡り、首都ミルラーンへ着いた。
門に着く前から大分街道が整備されているようだった。
門の前では荷馬車が入街待ちで列をなしてたので、最後尾に並ぶ。
川の方では、船がたくさん生き来していた。
門の前に来たら、サイアムを見咎められかけた。が、コマタロウを見てすみませんでした!と逆に兵士に謝られてしまった。
コマタロウ、ミルラーンでは有名人なのか。
門の側にある系列の貸し荷馬車屋に、レンタル馬車を返す。
身軽になった私たちは宿屋をとることとなった。
コマタロウは良かったらうちに泊まりませんか?と誘ってくれたが、肩ひじ張った良家だったら馴染めないと思うと、三人で丁寧に断った。
宿屋の道中、人でごった返した石畳の大通りを抜けていく。
安いよ安いよ!など、店の売り込みも盛んだ。
焼きたての肉や魚、パンの香り。イヴシルでは嗅いだことない不思議な香辛料の香りもする。
活気があると思いきや、兵士や騎士のような人が多く見られ、多少の物々しさも、感じた。
ローサとグレゴリーはミルラーンに慣れてるのか、特に悩むこともなく1件の宿屋で部屋を取る手続きを済ませる。
さて、とローサが振り返る。
「ご飯はどうする? 折角だから宿屋以外で食べてみる?」
「なんかおすすめある感じ?」
ローサは当たりをもうつけてるらしく、グレゴリーに話をふった。
「グレゴリー、あそこの麺屋はどうかな」
「いいんじゃないか? 俺も久々に食いてえ」
「僕もそこまではご一緒していいですか?」
「みんなで行こうよ!」
どんなところかは分からないが旅は道連れである。
帰るまでが遠足とも。
荷物を一旦部屋に置いて、ロビーで再集合する。
ローサとグレゴリーの後を、コマタロウと
一緒にチョコチョコついていく。
たどり着いたのは街の外れ、少しミルラーンの大通りなどと、ムードの違う街並みの場所だった。
建物と言うより、テントやパオのような、遊牧民的な建造物が大半を占めている。
石畳もこの辺は無いようだ。
「なんか変わった街並みだね?」
「ヤハト街。ヤハトから逃げてきた難民の街だよ」
「それってビレンガルトとかいうところから?」
「そうさな。ハジャリアともビレンガルトとも文化が違うから中々面白えぞ」
「僕は来るの、初めてです!」
と、コマタロウは少し緊張した面持ちだ。
まあ良家の人なら難民街に来ることは中々無いだろう。
ローサは安心させるように少し柔らかくコマタロウへ声をかけた。
「治安も悪くないし怖がらなくて大丈夫」
「いえ、そんなことは! すみません」
頭を振り、コマタロウも肩の力を抜いたようだ。
「ヤハト街がミルラーンにあるのは、ミルラーンがそもそも国境に近い街だからだね」
「なるほど。最初の受け入れ先ってことね」
命からがら国境越えしたら、ヤハトを受け入れてくれるハジャリア王国の首都がすぐあるということか。
ハジャリア王国の懐の広さに感心しきりだ。
道行く露店に、先ほどと違うテイストの物が置いてあり、非常に興味をそそる。
広場のような空間につくとそこの中心には、
「狼の、女の人の神様……の、像?」
「ヤハトでは狼神ルプスが信仰されてるから」
「へー、狼かあ。そういえばイヴシルのギルドの解体の人、狼の霊命種だったなあ」
「ああ、あいつもヤハトの民だぜ」
「え!そうだったん?」
グレゴリーは知っていたらしく、オルフがヤハト民であることを教えてくれた。
今度会ったらヤハトのこと色々聞いてみようかな。ヤハトだから魔物食に意欲的とかではないよな?
「ん、ここの店だよ」
「ヤハト麺屋、ですか?」
コマタロウは初めて知りましたという顔だ。
引き戸を開けると鶏と魚介だろうか、合わせだしのような炊いたスープの香りに包まれる。
「へいらっしゃい! お、ローサにグレゴリーじゃないか!今日は何名様で?」
「ようおっちゃん、今日は4人だ!」
「奥のテーブル席あいてる?」
「あいてるよ!そちらへどうぞ!」
カウンター席を横目に、奥の4人がけのテーブルにかける。
カウンターの中はところ狭しと調理用具がおかれ、寸胴鍋でスープを炊いているようだった。
背もたれのない丸椅子がいい風情である。
テーブルの丸い筒状の入れ物にはお箸がさしてある。
おや、これはにおいといい、ムードといい
、思い出す店のジャンルがあるな。
「ヤハト麺ってどんな食べ物?」
「ああ!魚介や鶏、豚とか、店によって違うだしを炊いたスープに、茹でた小麦面を入れた食べもんだ」
「お箸で食べるんだよ。お箸は知ってる?」
「うん!使い慣れてるよ」
「お、お箸?ですか……フォークじゃないんですか?」
コマタロウだけ一人不安そうだ。
お箸初心者にスープ麺は厳しいだろう。
後でお店の人にフォークを借りれたら借りてやろう。
メニューを見て相談した結果、おすすめの全部トッピングヤハト麺を全員食べることにした。
サイアムの分は燻製肉丼にしてみた。
注文する時に忘れずにフォークを一本頼んだらコマタロウが恥ずかしそうにしていた。
「お待ちどうさまです! ヤハト麺4丁! と、燻製肉丼1丁!」
「やっぱりどう見てもラーメンだ!それにチャーシュー丼!」
「ラーメン?チャーシュー?」
「くるる?」
と、ローサは不思議そうにしている。
サイアムも釣られて疑問顔だが、すぐにチャーシュー丼に食いつき始めた。
ヤハト麺のどんぶりに盛られているのは、どう見ても日本風のラーメンだった。
黄金色の鶏油が浮く茶色の醤油らしいスープに、煮卵や叉焼、メンマのようなもの、そして葉物野菜やネギが添えてある。
いたたぎます!と、興奮してまずはスープを一口。
うん、これはまごうことなき清湯系!
鶏や魚介だしを低温で温度管理してじっくり炊く繊細なスープ。
ちなみに強火で炊くと白濁した白湯系になるらしい。
「久しぶりの清湯スープ、うーんこの透明感たまらない」
鶏と魚介の豊かな旨味の染み出たスープに感動し、ちぢれ細麺をお箸でつまみちゅるりとすする。
小麦の香りが口いっぱいに広がる。
スープの塩気がいい塩梅だ。
「美味しすぎる!」
「こんなおいしいスープ麺、初めて食べました」
ローサとグレゴリーと、腕組みした店主は、うんうんと素直な感想にうなづいている。
特にローサが特別に嬉しそうである。
トッピングと麺とスープ、交互に口に入れて気づけばスープまで完飲してしまった。
サイアムもちゃんと完食したようだ。
満足そうにゲップをけぷりとひとつしている。動物のゲップってなんで可愛いんだろう。
会計を済ませ、ミルラーンの大通りに戻ったところでコマタロウは、
「僕はこれで一旦本家に帰りますね。明日は宿屋まで馬車で迎えに来るので、その足でフォルティエ本家に行きましょう」
と、提案してくれた。
徒歩で行くより楽なので、私たちはお言葉に甘えることにした。




