旅の醍醐味
次の日、特に雨に降られることもなく、トラブルもなく夜になる前に野営となった。
野営二日目の拠点は、清流のほとりに決まった。
みんなごそごそとマジックバッグから荷物を出したり、水筒に水を汲んだりしてる。
その中で、私は清流に見え隠れする魚影に興奮していた。
「ねえねえ、ローサ、グレゴリー! あの魚食べれる?」
「川魚は基本的にワタを抜いてよく加熱すれば食べられるよ」
「おっ、嬢ちゃん捕れるのか?」
「やってみる!」
ふんすふんすと鼻息荒く、靴を脱いで冷たい川に足をつける。
サイアムは冷たいのは嫌らしくローサたちの方へ避難していった。
手をアナグマのするどいツメと被毛に変性させ、目を澄ます。
ここだ!というタイミングで川から掬い上げローサたちのいる方へ跳ね上げた。
「ひえっ」
コマタロウの悲鳴が聞こえた気がする。
人数分確保したかったのでその後もチャポチャポ移動しながら華麗に魚を陸の方へ跳ね上げ続けた。
「よくやった! 嬢ちゃん! これで今日は新鮮な魚を食えるな」
「早速締めて血抜きするよ」
「え? 血抜きですか?」
コマタロウが青ざめた。
陸の方に戻るとローサとグレゴリーはナイフでを突き刺し魚の命を刈り取っていた。
「ひえ、血が……」
相変わらずコマタロウがドン引きしているが私も教えてもらい、一匹締めをやってみた。
暴れに暴れるため、頬に血がはね飛んでしまい、手で拭う。
エラに刃を突き立て、尾の付け根に切れ込みを入れ、川の水を使い血を濯ぐ。
ナイフの刃で鱗を軽く取り、腹を切り、エラと内臓を取り出す。
これで下ごしらえは完了らしい。
木の枝を粗く削り魚に突き刺してパラパラと多めに塩を振ったらあとは焼くだけ。
一日目と同じように焚き火を育て、串を地面に刺してじりじりと焼く。
シンプルな塩焼きだ。
本日のもう一品は大鍋に野菜と保存肉の欠片、卵をとき入れたオートミールスープだ。
そう言えば卵って結構常温でも持つよなあ。
タンパク質多めの栄養抜群キャンプメシ!
今日は深めのお皿にスプーンをつけて、みんなの分を取り分ける。
川が近くにあるし皿をケチる必要もないのだ。
それではいただきます、とまずは魚からかじってみる。
コマタロウも恐る恐る背中の方を食む。
「美味しいです……」
「頭まで食べれるよ!」
「えっ、頭もですか!? 食べたことないですが、やってみます」
と、頭のほうをパリパリかじるコマタロウ。
ふむむ、と咀嚼した後、
「ほろ苦ですね」
と、目を丸くした。
「オトナの味わいだね」
「ムジナさん僕より年下なんじゃないですか?」
「こう見えて君よりお姉さんだよ!」
「ええ!? すみません!」
「え?なんか謝られることあったかな……いいよー」
食後、ローサとグレゴリーとコマタロウはお風呂にしようかと話していた。
お風呂というか、大桶はないので体を蒸しタオルで拭いたり、毛皮はドライシャンプーをするようだった。
女性陣は、木陰の方でで体を拭くのは済ませ、焚き火に戻ってドライシャンプーを始める。
グレゴリーは全身被毛なので全身ドライシャンプーしてしまっている。
ちょっと笑った。
ローサがやってあげるよ、と言うので頭を預けた。
粉をふりかけなじませ、串ですき取り、最後に蒸しタオルで拭くという工程だ。
蒸しタオルでぽんぽんされてたら気持ち良すぎて脱力する。
「ああー……」
と身を任せてたら気づけば視線が大分低くなっていた。
なんと気持ち良すぎて魔素の扱いが緩んでついアナグマ形態に戻ってしまった。
ローサは気にしていないのか膝に抱き上げて、引き続き全身の被毛をお手入れしだす。
「よしよし、いい子だね……」
あまりの心地よさに喉の奥から獣的なため息がぷすーと音を立てた。
ふと視線を感じた方を向くと、コマタロウが熱心そうにこちらを見つめていた。
「どしたん? コマタロウもローサにやってもらいたいの?」
「いや違います! いやなんでもないです!」
なんか違ったらしく、めちゃくちゃ否定されてしまった。
たしかに思春期の男の子が綺麗なお姉さんにドライシャンプーしてもらうのは気が引けるよな。
ノンデリですまぬ。
グレゴリーがガハハと笑う。
「お嬢ちゃんがよければ、明日から毛の世話をコマタロウにやってもらったらどうだ?」
「はえ?」
「いやいやいやそんな恐れ多い!」
え? そっち? と変な声が出てしまった。
ローサは私にチラリと視線を向けて、
「ムジナは、どう思ってる?」
「え?別に気持ちよかったら何も気にしないけど」
と、アナグマメンタルで答える。
「ええ…でも、その、ムジナさんは僕よりお姉さんで、女性で……体にみだりに触れるのは……」
と、顔を赤くしてモニョモニョしてしまった。
す、すまない。それこそ思春期の男の子に対して配慮がなさすぎたかも。
「まあムジナがいいなら好きにしたら?」
「僕はつつしんで遠慮しておきます……」
と、暖かいキャンプのなかに少年の切実な断り文句が落ちた。
夜も深まってきたが、まだ眠くなかったので焚き火が落ち着くまでの見張りを買って出た。
「僕もご一緒してみていいですか?」
「お、話し相手になってくれる? いいよ!」
なんか修学旅行の夜更かしみたいでワクワクするな。
「俺達は何かあればすぐ目が覚める。火が落ち着いたらそのまま寝ていいぞ」
「サイアムはもう寝てるみたいだから、荷馬車の方に連れてくね」
と、グレゴリーとローサは荷馬車の方に行った。
コマタロウと私、2人で焚き火を囲みながら座ってぽつりぽつりと雑談をする。
「コマタロウって育ちはどこなん?」
「これから向かう首都ミルラーンです。ムラカミ家の本家があるので」
「へえ。ミルラーンってどんなとこ?」
「ひと言で言うのは難しいですね。川沿いなので、色んな品や職人が集まって面白いかもしれません」
「おお、じゃあ他の国の物とかあるんだ」
「はい。僕はほとんど出たことが無かったので、逆にこういう野営は新鮮です」
「イヴシル来るときはどうしてたの?」
「使用人と来てました。ミルラーンに行く行程は、パーティーに馴染むため一人で合流しろとシンさんが」
「なるほどね」
あの飄々とした男も色々気を使って考えてるのだろうか。
実際この2日間でコマタロウはかな馴染んだと思う。
おぼっちゃまだからとふんぞり返らず、何でも学ぶ姿勢なのも好感が持てる。
「お魚解体とか見るの初めてだったんだね」
「はい、料理も支度も全部使用人がやってくれてたので」
「冒険者だと魔物とかも解体は切っても切り離せないみたい」
「そうなんですね。僕は冒険者は向いてなさそうです……」
「まあお金あるなら、無理冒険者にならなくていいとは思うよ。でも冒険者ギルドは解体サービスあるしマジックバッグあればいけそうだけど」
「マジックバッグは時間が止まらないので、多分血抜き?とかは必要だと思います……」
「そうなんだ!?じゃあ血と内臓くらいは現地で抜かないとだろうなあ」
と、なんだか後半は血なまぐさい話になってしまった。
焚き火が燻り、もう大丈夫かなとなったところで土をかけ消す。
火の元用心火の用心だ。
私たちも荷馬車で寝よう。
明日もまた旅だ。
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