旅っていいな
シンが異界人という、ふと落とされた呟きに私たちはどよめく。
しかし、よく考えたら色々と納得できる気はした。
「まあ、なんというかシンって妙に達観してたと言うか……」
「宗教に対しちゃ、ハジャリア国民とは思えんほど浮世離れした考えだったからな」
と、グレゴリーも己の顎の被毛をモフりつつ思案顔である。
「まあ、異界人なら色々納得できるよ」
ローサは妙な気配は感じていたらしく、シンにはずっと警戒気味だった。うさん臭さの真相がわかり、ため息をついて肩の力を抜いた模様。
「あのー、シンさん本当に異界人てこと言ってなかったんですか? 特別隠してる人ではないんですけど……」
コマタロウは気まずそうにおずおずと切り出す。
「全然言ってなかったねえ……なんでだろ?」
わざわざ隠すことでもない気がするが。
飄々としてて案外抜けてるところもあるんだろうか?
「とはいえ、今ここで予想したところで埒が明かんなあ」
「そうだね。喋っててもいいけど、野営の準備は進めないと」
そうだ、我々は野営をしようとしていたんだった。
内心シンがどう思っているのか今考えても仕方がない。
お腹も減ってきたし、今から火おこしを始めないと。
食べるころにはペコペコだろう。
サイアムもご飯はまだかなという顔をしている気がしてきた。
コマタロウは野営というワードに反応してか、不安そうに尋ねる。
「あのう、いつも全部使用人がやってくれてるんです。何かお手伝いできることありますか?」
「慣れてないなら最初は見てていいよ。私とグレゴリーでやるから」
と、ローサは特に手伝わなくてもいいよというスタンスの模様。
「私もなんかやりたい!」
「ムジナは、薪になりそうなものでも探してきて。グレゴリー、見ててあげて」
「あいよ。ムジナ、火おこしについて教えてやるから、一緒にやろう」
「僕も覚えます!」
コマタロウも一緒にやってくれるようだ。
ローサは食材を切ったりなんだりするようで、役割分担だ。火おこし係が人数過多な気もするが。
薪拾いに出かける前に、コマタロウは慌ててローサへ声をかける。
「あ、そうだ。ローサさん、よかったらこのお肉使ってください!」
「これは……?」
赤赤とした柔らかそうなお肉である。何の肉だろうか?
「使用人に持たされたお肉です! 牛の肉らしいです」
「部位的に、これはモモのあたりかな。凄く質が良さそう。量も4人分で不足しないね。ありがとう、コマタロウ」
「いえ、何もできないのでせめて」
コマタロウはローサにお礼を言われて気恥ずかしそうだ。
今度こそと、三人で薪拾いを始める。
なおサイアムはマスコット枠だ。小さいから仕方ない。
薪は本当はいくらかはマジックバッグに入ってるらしいが、いざという時のために基本は現地調達を優先するらしい。
食料に関しても同じ考えらしく、グレゴリーが食べられる野草を採りながら教えてくれた。
毒草もあるから初心者はうかつに採るなとも注意されたが。
薪になる乾いた木を皆で探したり、丁度よいサイズに砕いたり。
なお、私とグレゴリーは素手である。
フィジカルにまかせて道具を使わないスタイルだ。
コマタロウはその様子を見て恐れおののいていた。
薪を持ち帰り、たき火を起こすため木を組む。
そこを起点にコの字型に、風よけを石や土で作る。
火種はあらかじめグレゴリー達が持っていた細かく乾いた繊維質の植物を使う。
コマタロウが魔術で火をそっと杖の先から移すと、焚き火にも火が起こり始める。
大きい薪に火が移るまではまだ時間がかかるらしい。
ふとトントンと、木のまな板をナイフが接触する音にアナグマ耳が反応する。
くんくんと、生の野菜や肉の香りが鼻をくすぐる。
私はコマタロウとグレゴリーに火の番を任せ、ローサの調理の下ごしらえの様子を見に行く。
ローサは組み立て式の低いテーブルの上にまな板を置き、香草を細かく刻んでいるようだった。
お肉や野菜は概ね切られ、ボウルやトレーにそれぞれ置かれていた。
「ローサ、その葉っぱはなにに使うの?」
「これは肉に油と一緒にマリネしようと思って。火おこしはまだかかる?」
「うん、まだ大きな薪に火が移るまでかかるって」
「じゃあ漬け込む時間があるね」
「見てていい?」
「いいよ」
ローサは、トレーに塊からきり分けられた肉をトングで並べていった。
香草や香辛料を混ぜた植物油をまんべんなくかける。
「結構油使うんだね」
「うん、低温でじっくり焼くんだ。油にパンをつけて食べたら美味しいよ」
「パン好き!」
「今日のは今朝買った焼きたてパンだから柔らかいよ」
「やったー」
素直に喜ぶと、ローサは笑いをこらえてるようだった。
何かおかしかったかな?
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