旅はともあれ
シンに旅の準備もあるだろうから、と「明後日の朝に東門の前でな」と言われて解散となった。
さて、明後日までどうしようか?と、顔を見合わせる。
「ムジナ、私たちは買い出ししてくるよ」
「お前さんの分もやっておく、明後日までは好きに過ごしておきな」
旅慣れたローサとグレゴリーは余裕を持って旅の準備をしておくとのこと。
お言葉に甘えて好きに過ごしてもいいが、一つ、旅に役立つことを思いつく。
魔物に詳しそうな、ギルドの解体屋さんにシーサーペントについて聞いてみようと思う。
今日は長話をしているうちに日が傾いてしまっていたため、3人と一日で女神の止まり木亭へ帰り、いつも通りできたての美味しいご飯を食べ、ローサと一緒に眠った。
翌日、私はサイアムを連れてギルドの解体屋の扉の戸を叩いた。
「こんにちは。お伺いしたいことがあって来ました」
「おう、お嬢ちゃんか! 今度は何を狩ってきたんだい?そのトカゲは生け捕りにしたのか?」
「いや、サイアムは違くて。まだ狩ってないというか、今から狩りに行くというか」
「ほう?」
と、興味深そうにする狼の霊命種のお兄さん。
サイアムは獲物じゃないと抗議するようにきゅくわー!と鳴いた。
「あとお嬢ちゃんじゃなくてムジナです
」
「おう、それは済まなかった。俺はオルフだ。よろしくな」
「よろしくお願いします。話なんですけども……」
「何が聞きたいんだ?何でも聞いてみな」
と、そのへんの椅子にどっかり座って聞く姿勢を整えてくれるオルフ。
私もそのへんの椅子を引っ張ってきて座りながら尋ねる。
サイアムは肩に乗ったままだ。
「港町にシーサーペントが出たとかで、それを討伐しに行くんですけども、何か解体の観点から弱点とかわからないかなーって……」
「おう!それなら教えられると思う。シーサーペントはヘビっぽく見えるんだが正確には魚種と言われている」
「ほう。ヘビじゃないんですね」
「うむ。つまり魚相手ならやることは一つ。エラと尾に切れ目を入れて血抜きしろ!」
「そんなもんでいいんですか?」
「ああ! ついでに、お嬢ちゃん、魔物を食うことに興味はないか?」
「え?でも魔物は家畜の餌って」
「実は俺はなんぼか試しに食ったことある」
「え? 人間が食べれるんですか? 害とかは」
「今んとこ何もないな!ははは」
「ええ……」
と軽くその好奇心の強さに引くが、実は内心若干の興味もわく。
「まあ全部がうまいわけじゃない。獣としてうまいやつに似てるのがうまいな。ネズミ系は食えたもんじゃねえ」
「ほうほう。じゃあシーサーペントは」
「ありゃでかい魚だからきっとうまいだろうな。川をさかのぼるなら白身魚に近いだろう」
「スズキとかしゃけとかですか?」
「まああくまで経験則と予想になるがな」
「ほおー、食べれる、かあ」
最近というか、獣性になってから新鮮な海魚を食べた記憶がとんとないため、想像して思わず生唾をゴクリと飲み込む。
「生でもいけますかね?」
「シーサーペントくらいでかけりゃ寄生虫も目で見えるだろう。カルパッチョや魚醤で食えばきっとうまいぞ」
「ふむむ。柑橘系も合いそうです」
「ああ、港町メクメタなら貿易の拠点だからなんでもあるだろうな」
もはや前のめりである。
食に関しては妥協したくないどころか、異世界のうまいものとしたら話はまったく別なのである。
幸い目の前には生き証人もいる。
毒魚と聞けば警戒するが、毒のある部位を除去できるなら食べるのが日本人だ。
その後も魔物食についてかなり詳しくディープに話をし、夕方に宿に帰り着く。
ローサとグレゴリーも丁度買い出しも終わって明日の準備を部屋で行っているところであった。
本日も一緒に宿屋の美味しいご飯をいただき、ローサとサイアムと一緒にお風呂に入ったあと床につく。
サイアム座布団の上で丸くなって眠っていた。
私はアナグマの体で、相変わらずのローサからの猫抱きスタイルだ。私は猫じゃないのだが心地よいので文句は口のなかで立ち消えた。
翌朝。門の前に行くとおどおどした黒髪の少年と、腕を組んだシンが立っていた。
こちらに気づいた少年はシンを伺ってからぺこりとお辞儀し、シンはよう、と片手をあげてこちらに挨拶した。
私もわわっと、駆け寄って応対する。
「シン! この人は?」
「どうも、コマタロウ・ムラカミです。シンの紹介で来たのですが……」
「そそ、こいつが一昨日言った補助魔術のエキスパートだ」
「補助魔術?」
と、ここでローサとグレゴリーが駆け寄り追いついてくる。
「水中や水上戦を想定するなら補助魔術は心強いね」
「そうさな、俺達は前衛しかいないもんでなあ」
「ひえ、はい、よろしくお願いします」
と、少年は2人に圧を感じたのかたじたじである。
グレゴリーはその様子を見てシンに耳打ちするが、アナグマ耳はひと言残らず拾う。
「こんななよっとしてて大丈夫か?」
「まあおぼっちゃんではあるがやる時はやる奴だ。俺の顔に免じて信頼してやってくれ」
「といっても俺はお前さんのことをほとんど知らないんだが…」
「そういやそうか、はっはっは」
と、力の抜ける会話をこそこそとしている。
途中から普通の声量だったので聞こえていたであろうコマタロウは再度ペコリと、お辞儀をする。
「まあ、基本は後衛なのであまり期待しないでください。水中戦はこちらの魔術でサポートします。例えば、泡魔術で呼吸できるようにとかはできますよ」
「それは助かる」
と、ローサは素直に評価する。
それより私は最初にコマタロウの名前を聞いたときから放心していた。
とても気になることが一点あったからだ。
「え? 村上駒太郎……? って、私と同じ?異界人?」
と、心の声がそのまま出てしまった。
「いえ、先祖が異界人とは言われいますが……あなたは異界人なんですね」
「う、うん、そっか……あ、私はムジナで、こっちがローサとグレゴリー。肩の子はドラゴンのサイアム」
と若干期待を裏切られた感により肩を落としつつ、それぞれ自己紹介を済ませる。
コマタロウはドラゴンと聞いて目を剥く。
「え!? ドラゴンなんて連れてるんですか」
「いや、なんか懐いちゃって」
「懐いたなんて話ですみませんよ普通……はあ、なんかとんでもないパーティーに来ちゃったかなぁ」
コマタロウはなんだか遠い目だ。
それで、とシンは話を区切る。
「自己紹介が終わったみたいだな。で、俺の本題だがムジナ」
「んえ?」
「お前よく真性体になるみたいだからな。首都のミルラーンに連絡しておいて、伸縮式魔導スーツを発注しておいた。ほらよ」
「わわ、ありがとうございます」
と、布の塊をよこされる。
広げてみると、
「ん、水着?」
上下分かれた袖付きの水着に、金太郎みたいな前掛けがついたセットのようだった。
念のため、とくれた同じ服をいくつか受け取り、ローサにお願いしてマジックバッグに収納してもらう。
公衆の面前で着替えるのはごめん被りたいのであとで着替えてみよう。
「ありがとうございます。これでいちいち裸にならないですみます」
「お前みたいに真性体になりまくる奴って少ないんだぜ?変わってるってこと自覚しとけよ」
「シンも自分ちの庭でキツネだったじゃないですか……」
「俺は変わり者だからいんだよ」
「まあ確かに」
と、漫才じみたやり取りをそこそこに、そういえば、とシンは爆弾を投下する。
「先に首都ミルラーンに寄ってフォルティエの杖受け取っといてくれ。一本はコマタロウに使わせてやれ。本家には言伝しといたからよろしくな」
ん?とローサが、訝しげに尋ねる。
「ミルラーンに? 遠回りになるけど」
「それくらいの猶予はある。それにフォルティエの杖は何よりの戦力になる。相手は大物、万全を期せよ」
「まあそれならいいが……フォルティエの杖ってのはそんなに強力なのか?」
と、グレゴリーも訝しげに尋ねた。
「使わせてみりゃわかる。な、コマタロウ」
「ひええ!? そんな、僕なんかがいいんですか?」
「大丈夫大丈夫。ひいばあさんにも言っといたから」
「うう、当主様に、それはそれで緊張しますよ……」
「ただのたぬきババアだ、気にすんな」
「そんなこと言えるのはシンさんくらいですよ……」
と、シンとコマタロウは私が知らない人について話している。
話がまとまり、雑談をそこそこに、シンに門の前から見送られる。
フォルティエ家のマネーパワーなのか、レンタル馬車を借り、ローサが馬を操り、四人で荷馬車にて移動する。
コマタロウは、普段はもっといい馬車に乗っているらしく、腰と尻が痛そうにしていた。
夜の帳が下り、馬も疲れ、野営の準備をする。
ごそごそと各々、私以外がマジックバッグを取り出し漁る。
ローサとグレゴリーはシンプルなかばんだが、コマタロウはやたら小さくて装飾のついた道具袋だった。
おぼっちゃまっぽいしそんなもんかなとスルーしようとしたらグレゴリーが食いつく。
「そのマジックバッグは何だ!?
見たことねえぞ!」
「え?これは村上家の先祖から伝わるマジックアイテムです。これで部屋一つ分は入るそうですが…」
「部屋一つ分!? そんな価値のあるもん、下手したら国庫の何分の1かだぞ」
「そうは言われましても」
と、やいのやいのやりとりしてるのを尻目にローサに尋ねる。
「マジックバッグってそんなに貴重なの?グレゴリーとローサも持ってるよね?」
「私たちのマジックバッグはギルドから借りてるからね」
「借りものなの?」
「うん。担保として、かなりお金をギルドに預けてるよ」
「へえ!そういうシステムだったんだ」
グレゴリーたちもこちらの話が聞こえてたのか会話に参加してくる。
「要は保険だ。マジックバッグを返すとこれがまた退職金となる。だから、冒険者を終えた後に宿屋や酒場を経営するヤツは多い」
「え!? そうなの」
「ああ、女神の止まり木亭も亭主が冒険者だったってえ話だ」
「私もグレゴリーも担保分は払い終わってるけど新人冒険者はマジックバッグを借りれるまでは大変だね。借りることもできるけど返ってこなかったら遺族が大変だから」
「け、結構世知辛い……」
コマタロウも知ってはいたのかそれほど感動してる様子もなく、会話に入ってくる。
「このマジックバッグについてですが、うちは先祖が色々な異界の知恵で稼いだそうです。その恩恵ですね」
「はーなるほどな。そりゃ異界人なら筋が通ってる」
「ええ。フォルティエもそうだと聞いてますが」
「え?フォルティエに異界人っていたの?」
と、このパーティーにおける異界人代表の私がすかさず食いつく。
「え? シンさんが……あ」
「「「えー!?」」」
「えっと……これ言っちゃいけなかったやつですか?」
と、バツが悪そうなコマタロウを3人の驚愕の叫びが取り囲んだ。
開発中のインディーズゲームプロジェクト『Midnight Banana Bar』の進捗や、Patreonの案内は公式X(旧Twitter)で発信しています。ケモ要素・人外要素が好きな方はぜひ覗いてみてください!
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