選択の余地は
ラグがサイアムを診察台の上で熱心に調べ始め、私たちへの関心が完全にドラゴン……サイアムへと移ったのを見届けてから、シンがさて、と元気よく声を上げた。
「それで、シーサーペント退治の話をするぞ! 勿論引き受けてくれるよな?」
「そんな話もありましたっけ」
「いや、これこそが本日の主題だろ」
忘れてました、という空気を隠しもせずに零せば、シンが呆れたような顔をして突っ込んできた。
言われてみれば、シーサーペント退治の仕事を引き受けることの不安を取り除くという名目で、この研究所に来たのだった。
ラグから聞いた話を要約すると、どうやら私は特異体質的なものですごく強い、らしい。しかし、前例が無くて具体的なことはよく分からないところが多いから、自分で色々と試してみてね、ということだ。
何となく私自身の話がまとまった感じになったところで、シンが調子よくのたまった。
「そう! それで、今回お前が丁度力試しできるような案件を俺が持ってきたってわけ!」
「うーん。ここまで見越してたって言いたいんですか?」
「そうだ!」
「本当ですかね」
「まあ、正確にはコイツならいけそうって何となく思ってた感じだけど」
「何ですかその根拠の無い自信は……」
ラグの話を予測していたのなら大したものだが、先ほど一緒に私たちと驚いてたような。
大変調子の良いことばかり言うシンに返事を言いあぐねていると、
「大型魔物ですか、魔素の調整の練習相手には丁度良いんじゃないですか?」
とミミズク耳をそばだてていたのか、サイアムを見ているラグが背中を向けながら同調してきた。
ええ、常識人枠じゃなかったのか。マッドサイエンティスト枠っぽさはあるけど。
「にしてもなあ……この前ソイルワームってやつを何とか倒せた程度ですし」
「ソイルワームもシーサーペントも長いし似たようなもんだろ」
「いやいやなんという滅茶苦茶理論……」
そもそもアナグマってそんなに泳げるのか?という疑問も多いにあるぞ。
ローサもグレゴリーも割って入ってはこないがとても心配そうな顔をしている。
「別に絶対倒してこいってわけじゃないぞ。旅費も出すし見聞広めがてら観光気分で行ってこいよ」
それに……とこそこそ、アナグマの獣耳にシンが耳打ちしてくる。
「もし倒して来たら200万エル分借金削ってやる」
こしょばくてこそこそ声にアナグマ耳がぴくんと震えたが、聞き逃さなかった。
「えっ!? まじですか?」
「商業的な打撃を思えば、これくらい当然だろ」
「うーん」
まあ川といえば流通の動脈だ。言わんとすることはわかるしその免除額の大きさに目がくらむ。
でもそこに自分一人の命を賭ける意味はあるのか?という疑問はあるが。
ウンウン唸ってるとシンから追撃の爆弾発言が投下される。
「もしシーサーペントが王都まで遡ったら、物流が滞る。弱みにつけこんで、北国が攻めてくるかもしれない。つまり……大げさじゃなく戦争かもしれないぞ」
「ええ!? そんな話に飛躍します!?」
「これがつまんねーことに大マジなんだよなぁ」
シンは面倒くさそうに自分の髪の毛を指でくるくるいじっている。
これはマジそうなやつだ。
「わからなくもないけど、随分と物騒な話だね」
「ああ、こりゃ穏やかじゃないぞ……」
「冗談でこんなことは言いたかねーよ。流石の俺でもな」
ローサとグレゴリーもマジそうな反応だ。
シンもいつもの飄々とした態度を鳴りを潜めている。
戦争かあ、戦争……それだけは嫌だな……。平和主義者の日本人らしい感想しか頭に浮かばない。
滅茶苦茶悩んだ末に絞り出すように素朴な疑問点を述べる。
「竜とシーサーペントなら、竜の方が強いですか?」
「そりゃもちろん。てかお前の資質考えたら、シーサーペントとかでかい魚かヘビくらいに思っとけばいいんじゃね」
「考え方雑すぎません?」
「実際竜に比べりゃそんなもんだぜ」
雑に考えて済む人生が羨ましすぎる。竜よりは弱いからって駆除に駆り出される身にもなってほしい。
が、しかし世知辛い借金獣生、やれなくてもいいし、やれたら一気に借金が減ることを考えればやり得ではある気がしてきた。ので、やってみることにする。
「じゃあ、やってみるだけやってみます。あまり期待しないでくださいね」
「よっしゃ。交渉成立だなー」
気の抜けた交渉成立宣言である。
と、横からグレゴリーとローサのいやいや、とツッコミが入る。
「シーサーペントは俺達みたいな金クラスの冒険者でも手に余る相手だぞ……」
「別にムジナが行く必要は無いと思うけど……」
ローサはシンに不信感しか無いのか、切れ長の眼をさらに細くしてジト目になっている。
「まあまあ、私自身も色々試したいこともありますし適当に行きましょう……」
って、シンにつられてか私も相当適当なこと言ってるぞ。
借金返済に目がくらんでなんかいないんだからね。
ローサは私をちらりと見た後、シンと対峙する。
「でもシーサーペントはいくら力があっても海中の魔物だ。ムジナ一人で手におえるとは思えない。シン、あなたも何を考えている?」
「べつになにも? 全部善意の提案だが?」
なんだかローサとシンの間にバチバチとした稲妻が走っている幻覚が見えたような。
とりあえあず行く方向性でまとめたかったので、えーっとと声を大きくあげて注目を集めてみる。
「えーっと魔素操れれば何でもできる? んですよね。魔素パワーでなんとかできるかやってみましょう!」
「水中戦を想定するのはいい練習になるからいいんじゃないですか?」
ラグがこちらを一括もせず冷たく告げる。
くぅ、溺れ死ぬのは怖いが背に腹は代えられない。
「はい、やれたらやります」
「まあそんな心配すんなって。こっちもなんの対策もなく放り出そうってわけじゃない。水中戦に強い知り合いをつけてやるよ」
「水中戦に強い知り合い、ですか?」
一体どんなエラやヒレを持ってるヒトというか霊命種?なんだろうか。
疑問符を頭の上に浮かべるが、とりあえずアナグマ一匹海に放り出される無計画さではないらしい。
「何を企んでるか知らないけど……私もついていくよ」
「俺も行ってもいいもんかね?」
と、ローサとグレゴリーが保護者(?)を買って出てくれる。
「いいよいいよ、みんなで行ってきなー」
と、シンからは完全に遠足ムードが醸し出されている。
戦争の危機だというのにいいのかそれで。
ラグが一通りサイアムを研究し終わったのか、一区切りした空気を察したのかサイアムが起きたようだ。
「くるるるー」
「ありがとうございました。ドラゴンについてまた知見が増えました」
なんだか気が抜けるドラゴンとミミズクのコンビであった。
開発中のインディーズゲームプロジェクト『Midnight Banana Bar』の進捗や、Patreonの案内は公式X(旧Twitter)で発信しています。ケモ要素・人外要素が好きな方はぜひ覗いてみてください!
▼公式X(Twitter)
https://x.com/yashokubanana




