証明
その見た目は俺が入院して頃よりずっと酷いもので、包帯は肌に張り付いているのかひびが入ったように割れていた。顔半分にも包帯が巻かれており、剥き出しの箇所には見慣れたバツの傷が刻まれている。
「今更来たって…もう 」
「大分酷い無理をしたなゼーラも。これじゃまた俺だけのワンマン営業に逆戻りだぞ 」
俺の言葉も聞かず。その手に持った媒体で阿久井さんは魔術を行使する。ゼーラはそのまま開かれた移動魔術の穴に消えていった。
「外にはムスリカ達も待機させてる。俺たちは目の前のこいつを 」
「なんで今来たんだよ!! ゼーラがあんな風になったっていうのに! 」
阿久井さんの方が高いせいで、身長差的に引き寄せるように胸ぐらを掴む。服の隙間から覗いた箇所はそんな動作だけで血がにじみ出し、古びた白い包帯を錆びさせる。
「これでも全速力で来たんだ。多少無理をしてでもな 」
「わかった…わかったから 」
まだ言ってやりたい事はあるが、時間を割いていられない。手に持った光剣を強く握りしめるとそのまま機械の方を向く。
「これは今どうなってんだ 」
「見たことあるだろ。魔力壁、それであいつの攻撃を防いでいる 」
「これはいつまで保つんだ 」
「かなり急ごしらえで展開したからな。そろそろ割れる 」
指さした方向を見ると既に割れはじめ、そこから透明なガラス片と化した魔力が落ちていた。
「ああ、一応言っておくと俺の最大火力はさっき見せた技だ。あれ以上は出ないし、もう出せない 」
阿久井さんの右足は赤い靴下でも履いているかのように真っ赤に染まっており、何故ちゃんと歩行が出来ているのか不思議なほどのケガをしていた。
そう思っていると俺の左足を突然触りだして、飛びのく。そんな変な趣味を持っていようがいまいが、誰だって冷静な対応は無理だろう。
「まだ痛むか 」
「…いや、普通に動ける 」
「なら良い 」
まともに歩けなかった左足からは麻酔を受けたように痛みが消えていた。何をしたのかわからない。魔術を行使するような気配も動きもしなかった。そもそも、阿久井さんからは魔力は一切感じない。なのに何故。
「あとでいくらでも教えてやる。お前らの疑問全部 」
そう、今はそんな細かい事を聞いている暇はない。
「何か策はあるのか 」
「あいつの頭があるだろ、俺が潰した 」
「残りは二つ…、あいつ頭が再生してる? 」
「どう考えても他の頭を当てがっただけだろ 」
「それがどうしたって言うんだ 」
「あの首が直接あいつの動力炉に繋がっている。そこにお前の抗魔力を流し込めば内部から破壊が出来る 」
「えらく知ってるな 」
「ブルーム…お前が病院で話してた二つ目の機械がその辺りの情報をな 」
ああ、ああ!あいつまだいるのか。そういえば阿久井さんが首だけになったアイツを持って行ってたな。まさかまだいたのか。
「あいにく俺にはもうあの頭を砕く力もないし、とどめもさせない。これ以上はお前を信じるしかない 」
「俺はあんたを信じきれない。背中を預けるなんてそう簡単に出来はしないぞ 」
「違うな、お前のすべき事に俺への信用なんて関係ない 」
「は? 」
「俺も俺のやりたいように動く、だから俺はお前を信じて動くだけ 」
阿久井さんは顔の包帯を外し、腫れた左目に切創をつくると大きく開いた。
「お前は自分だけを信じて動け。それ以上は俺も求めない 」
こちらを見る事なく、開かれた瞳には煌々と輝きが宿っていた。
「何しても知らないぞ 」
「あと、残り3分を切ってるぞ。バーゼアの奴も限界だろうな 」
「なんで焦らせるような事も言うんだよ! 」
「事実だ。それに3分なんて、怪獣退治なら持ってこいの縁起時間じゃないか 」
くだらない会話をしていると、魔力壁が砕け散る。それに合わせてお互いに飛び出した。
万全の状態となった光剣のおかげで、余裕をもってその力の全てを振るう事が出来る。込める一撃も、防御も、その全てに今まで以上の動きとなって現れる。
それでも、三つ目の頭は遠い、残り二つを破壊している時間もない。まずは首についている方を破壊する事に専念する。リペアが戻ってくるより早く首だけの体に攻撃を叩きこむ。
その為にもっと高度が欲しい、跳躍すれば一足で到達するがそれを簡単に許すほどこの機械はあまくないのも知っている。なにより、光剣に変形するあの腕をどうにかしない事には。
それを読まれているように、三つ目は腕を展開する。しかも腕をさらに出現させて六本の腕を俺たちに見せつけた。何故だ、足元にいる俺にはその腕も、光剣も届かない。それをわざわざ六本も、機体に収納されていたであろう箇所から持ち得る腕を全て展開してまで。
その理由は遥か上空にあった。翼ではなく、まるで空を蹴るように駆ける存在が。自らへの攻撃を全て躱し、寄る端末の全てをいつのまに持ち出したのか棒を一本振りかざして破壊していく。
その攻撃の矛先は目に見えるほど阿久井さんに集中していた。
空を駆り、体を捻り、向かってくる光剣を羽のように躱しながら。その腕の付け根に目掛けて自身の棒を突き刺した。関節部にも抗魔力が纏われているはずなのに、それを貫通して深々と刺さる。
無理に動かそうして軋む腕。それを見た瞬間、阿久井も俺を見ている事に気付いた。
その意図に気付くと、腑に落ちない物を感じながら光剣を赤く滾らせる。雄叫びをあげて、その腕の関節目掛けて光剣を叩き付けた。
腕を切られた機械はそれを確信していたのかわからないが、別の腕でその巨大な大剣を掴み、俺に振り投げる。
投げてきた、間違いなく。けれど、その先に俺はいない。真っ直ぐに迷いなく風を切りながら飛んでいく、阿久井さんの魔力壁が砕ける音と共に。何をしたのかわからないが、何も気にせず、ただ俺はこの機械の頭を破壊する事に集中すれば良い。
残り五本の腕は完全に阿久井さんへと向けられて、空を踏みながら自身に標的を定めさせていた。それでも体に直接くっついたままの頭は俺を見ている、いくつかの端末を飛ばして動きの邪魔をしてくる。
一飛びでは狙えない。確実に狙うなら脚部を破壊して体勢を崩してから確実に決めたい。そう決めたのなら、そうするだけ。三本ある脚部のうち、一本が地面から僅かに浮かび上がり、足をつける。その踏み込む瞬間が一番体勢を崩しやすい。
その足は先に着地する俺を足蹴にしようとした一番近くの足だった。
その絶好のチャンスを逃したくない、今この瞬間斬りかかりたい。地に着いては間に合わない。
意識していたより早く足が地面に着いて、バランスを崩しかけたが、その直後に脚部に阿久井さんの棒が突き刺さる。
阿久井さんの方を見てはいられない、ただ俺がこれからしたい事を先回りして動いたんだ。この足が着いているのも阿久井さんの魔力壁が足場となってくれている。迷っている余裕もない。絶好のチャンスを確実に、活かす。
赤く練られた光剣は関節の、僅かに裂けたその個所から脚部を切断せしめた。
踏み込む足を無くし、そのまま体を地面に倒す。
狙える、光剣に纏う抗魔力の色は赤いままに頭部を狙って斬りかかる。そんな事をやすやすと許さないと三つの目がこちらを見つめてきた。赤い閃光、その中に飲み込もうと俺に放った光。
それを遮るようにもう一つの頭が俺の前に飛んできて、俺の代りに飲み込まれていった。爆風と熱波、煙を一切気にしない。このまま行って叩き切る。
「これで、終わりだぁ!! 」
胴体から離れていく頭に目もくれず、そのむき出しの内部と抗魔力の光で溢れた内部。そこに赤く、赤く、青く、やがて一切の色すら無くして光る剣を突き刺した。
機体には一瞬振動が伝わり、それは大きな爆発として連鎖していく。その爆炎は結界内全てに行き届いて、俺たちを包み込んでいった。




