混迷
騙された、陥れられた。そう考えてしまうのも無理はない、目の前に現れた数名の魔族と人間は葵が入院してた病院で見たことのある装備と武器を持ってしてオミナに立ち塞がっていた。
葵に窮地を伝えようにも連絡機器も魔術の行使も出来ない。直接ゼーラに伝えて貰うしかないと判断した。
「ムスリカ、貴方はそのまま隠れてなさいねん! 」
「貴方なんかに任せきる訳にもいかないのです! 」
そうは言ったが、闇雲に魔力を使うわけにはいかない。抗魔力の処置をまだ受けていないこの身では滅魔力に侵されてしまう。まだ兆候が無いからこそ慎重になってしまう。
相手は腕の魔術媒体から炎や風、氷に雷といった多種多様な属性の魔術を行使する。いずれも地を抉り、空気を変質させるほどの威力を持っていて迂闊に近寄れはしない。もっとも、オミナにはそんな事は関係なかった。
滅魔力による媒体無視と、持ち前の魔力の特性。周囲に展開する魔力により生成された剣を縦横無尽に振り回し、既に何人かは地に倒れていた。
それでも相手は止まらない。まるで死ににきているように仲間さえ踏みつけてオミナに襲いかかる。オミナにとって戦意を高揚させ、その小さな顔を半分以上に割くほどの笑みで持って迎え撃つ。
ムスリカも魔力媒体を使って、他の魔族に連絡を試みていたが。依然として繋がらない。やはりあの装備には魔力を阻害する魔術媒体があるのだろう。
戦況はオミナが優勢なままで、ムスリカを守りながら上手く立ち回っていた。ムスリカに目掛けて飛ぶ魔術を防ぎ、大剣や短剣で波状に攻め立てる。七将としての戦いをまさに展開していた。抗魔力を受けながら尚も戦いぶりは健在だった。
周囲は開けており、グラウンドで四方から攻撃を受けざるを得ない。本来なら不利に運ばれるこの状況をオミナはものともせずに戦っている。
また一人オミナの魔術を受けて倒れた。このままいけば押し切れると、ムスリカはどこか安心をしていた。
だがオミナは次第に押し込まれている事に感づいていた。先ほどより奴らとの間合いが近い、ムスリカを守りながら戦うのには限界がある。最初に取り囲まれたタイミングで逃がすべきだったと自身の判断を呪う。
表情から察しきれない焦りがオミナにはあった。そして、時刻はまもなく正午となり、県境のここからでもその巨体は視認出来た。一瞬とはいえ、二人の目を引いてしまう程のそれ。
「あれは! 」
「なんなのよん?! 」
その隙はムスリカに魔術の行使をさせてしまう。媒体を使って防御魔術を行使したが、相手の雷の魔術を防ぎきれなかった。
そこからの相手の動きは歯車が噛み合い回るように、ムスリカに間髪入れず近づいて、オミナが気を取られてしまった隙を属性を風や炎の魔術で動かす事なく。あっという間にムスリカを人質に取ってしまった。
いや、人質などではない。オミナが剣を飛ばすより早く、その胸を氷が貫いてしまった。
「ムスリカっっ!! 」
「オミナは?! 」
「戦ってるけど、ムスリカさんを庇いながらよ! 」
攻撃がより過激になるが、三つ目はその足を止めていた。脚部に何か問題が起きたんじゃない。もしこいつが今までの機械と同じなら。
端末から降り注ぐ熱線は激しさを増し、魔力で生成された岩の防御を溶かしつつある。俺の時ですらこんなに激しい攻撃をしなかった。
頭の一つがこちらを見ている。
「ゼーラぁ! 」
彼女にとびかかり攻撃をなんとか回避した。空けられた穴から端末が侵入してゼーラに攻撃を向け続ける。
「ゼーラ! これ以上はもうお前が危ない!俺もすぐに向かうからここから離れろ! 」
「違う、貴方が早く離れるべきよ! 私を狙っているんでしょこいつは?なら私が足止めを! 」
「無茶言うな!お前一人でか! 」
抗魔力を周囲に展開して無理矢理攻撃を防いでいるが、それも間もなく破られる。
「良いか!お前らに敵う相手じゃないんだ!俺が足止めするから早く 」
背後からの衝撃で吹き飛ばされる。視界が徐々に赤く染まり始める。濡れた頬から血が地面に零れる。
喋る余裕は、もう目の前の彼女を助けることにしか向けられない。
「ゼーラ…。すぐに向かうから、頼む… 」
「私は大丈夫だから!ムスリカ達を助けて、お願いだから… 」
「ゼーラ、頼む。ここから逃げてくれ… 」
そもそも外にいるバーゼアはどうしてゼーラを中に入れたんだ。危ないのはわかっていた筈なのに。
とにかく、逃がさないといけない。魔王…妹の願いをこれ以上無下になんかできない。妹の為にも。
立て。もうこれ以上誰も。
赤く霞む視界に映るあの幻影。いつものように俺を笑い、そして今はゼーラを笑っている。
こんな時になんでこんな物を見なきゃいけない。俺はどうしてこんな物を見るようになったんだ。俺はどうして。
目の前でゼーラが立ち上がり、攻撃を必死に躱している。なのに、俺には今それらが一切飛んできていない。狙いは魔族、そしてそれを全て滅ぼす。脳裏に過るのは相対した機械たちと、自分。
違いなんてない、ただ滅ぼす。誰かを守るためになんて、自信を持って言えない俺にこの機械達と何が違うというのか。言われるがまま、流されるがままに目の前の敵を倒すだけの存在、そこに意思なんてものはない。俺は違う、そんな否定すらもうできないのに。
言い訳をただ頭の中で連ねて、手を伸ばしたその先に。
ゼーラが俺の方を振り返って、俺を呼んで。彼女の全身を赤い光が。
「ゼーラぁ!!!! 」
その慟哭は届く事なく。




