まだ続いている
自分は臆病者だ。血を見るのも嫌だし、誰かが嫌がる事を見るのはもっと嫌だ。あの時も村を制圧しろと言われて、誰も手伝ってくれない事に文句も言えず。いざ攻め込んだ村の人たちもむやみに傷つけられなかった。
あの村に自分より強い存在がいたのは幸運だった。誰も傷つかせない大義名分を得られたし、そもそも自分は戦うためにあの場に居たわけじゃない。魔術についての知見を広められればそれでよかった。それなのに、どうしてあんな目に合わなきゃいけなかったのか。
今でもあの日の事を夢に見る。この夢を見る限り自分にはきっと戦う事なんてできないのだろう。
外ではどんな騒ぎが起きているのか気になるが、確認の為に念話を使うわけにはいかない。この装甲を前に単純な攻撃は通じず、抗魔力を纏ったところで機械側がそれ以上の抗魔力でそれを完全に弾いてくる。
そしてなにより。
「こんな巨体なのに小回りきく武装持ってんじゃ、ねぇ! 」
頭部のうち二つが胴体から分離して、そこからさらに内部から小さな端末のような物を飛ばしてくる。高速で飛び回るそれを回避、破壊をしつつ、そもそも通じない脚部への攻撃をしながら、脚部その物をぶつけてくる質量攻撃をぎりぎりで躱す必要がある。
「どうすりゃ良いんだこれ?! どうやったら動きを止められるんだ! 」
当の本体は脚部を動かして少しづつ移動をしている。どこを目指しているのか分からないが、結界の端まで行かれると破られる可能性がある。そんな事させない為ににもタゲを取りたいのだが、俺に気を取りつつも移動をしている。
端末は先から魔力による照射を吐きながら、鋭利な本体をぶつけてくる。
気を抜けば直撃するような連続攻撃に移動の片手間で脚部をぶつけてくる。文字通り足蹴にされているような状況下はやり過ごしては駄目だというのに。
今何分経った?どこまでこいつは移動した?足止めすらままならないのに、焦りは増し、力みと悔しさで歯軋りをする。
こんな事にかまけている場合ではない。仕方がない、もうこうなったらやるしかない。
光剣に意識を集中させ、抗魔力で刀身強化、より鋭く、長く伸ばす。脚部の関節部に狙いを定めて振り下ろす。それと同時に端末がこちらに飛んできて、それごと切り裂いた。
判断ミス。真っ二つに切り裂いた端末の片側はそのまま俺に飛んできて脇腹を貫かれた。
衝撃で飛ばされて、地面に転がされながら、尚飛んでくる端末をなんとか防ぐ。
痛みは光剣を振るう度に全身に広がり、飛んでくる端末の全てを防ぐ為には抗魔力での防御を強いていた。
しかし良かった点が一つある。先程までは冷静さを欠いて不自然な事に気がつけなかった。
この機械。これまで相対した機械達と同じタイプなのは概ね理解出来ている。ただこいつだけ、こいつだけが。
魔力による攻撃をしてきていた。抗魔力だけを駆使するのではなくわざわざ通常の魔力を。理由は知らないが一つ考えが浮かびそれを試す。体感だがもう3分は経過している筈だ。
痛みを無視して走り出す。飛びかかる端末を避け、打ち込まれる魔力の熱線を。
「上手くいけよ! 」
ジャンプして回避、ではなく踏み台にした。打ち込まれる熱線の勢いに抗魔力で防御しながらその勢いでさらに飛び上がる。
行ける。この勢いでまずは頭部を破壊して。
映り込んだのは、歪み。金属が波打ち、ひしゃげてその形状を粘土のように変えた。腕部は蟹のハサミのような心許ない者から一本の大剣。いやもう一枚の大きな鉄板と表現する他ない物へ変貌した。
それは光剣だった。
胴を回転させ、分厚すぎるあまり却って鋭利さを無くした刃物を叩き付けてきた。
当然防げるわけがない。重量、勢い、負けてないのは抗魔力だけ。世界を何周したのかと錯覚するような体の感覚は、叩きつけられた頭から方向感覚を奪う。
駄目だ、規格が違いすぎる。足元にたかる蟻を払うような扱いに体以上に心を叩きつけられた。
純粋なスペック差。何も通じなければ、させもしない。こちらの考えも目論見も全て予期するかのようにねじ伏せられる。何か閃けと思う今もこうして端末での攻撃を繰り出していた。もう防ぐ事しか出来ない。
三つの頭のうち一つがこちらを見つめていた。機械からの視線なんか気付けない、いやもっと余裕をもって周りを見ていれば。
一線の光は体を包んで、熱を与え、光剣に鉄本来の赤を灯した。
防御はした、光剣に纏わせる程余裕はなかったがそれでも全身を一瞬で赤い抗魔力で纏わせた。それなのに、だと言うのに。
遠のく意識。己への失望と情けなさを見せつけられ、いや本当は俺はこんな存在だった。
向こう世界で何を成し得た?何も出来ていなかった。
この世界で何が出来た?全ては後手に回ってばかりで。
膝から崩れ落ちていく。何もかもがボロボロで零れ落ちて、手の中には何も無い。
地響きが体を揺らし、不甲斐ない自分を笑うように何度も何度も攻撃が飛んでくる。完全に完璧なまでに、俺は死ぬのだとゆっくり瞼で眼前の全てから背けた。
だから聞こえただけ。頭の中で響いて、その声は次第に耳の中に届いてきて、そして大きな衝撃を体に与えた。
体を激しく揺さぶられ、傷口を広げられた痛みで無理矢理目を覚まさせられる。
「葵! しっかりして葵! 」
「っ?! ゼーラ!!? 」
なんで結界内に。いや、それより攻撃は?!あの機械の近くに来たら。
答えるように端末は飛んできていた。けれどこちらまでその攻撃は届いていない。周囲を魔力壁が囲っている。滅魔力による媒体無視とだけでこんな事出来るわけがない、かと言って滅魔力をを過剰に使い過ぎれば体を蝕みかねない。何をどうすれば。
「葵!! ムスリカとオミナが襲われてるの! 」
こんな事はありえない。何が、いったい何が起きているんだ。夢を見ていると言うのならどうか。




