描かれていた世界
俺があの世界で見た景色は、凄惨の一言に尽きる。
一番が被害が少ないという王都ですら、難民で溢れて、街にはぼろ雑巾を纏ったような人々が街道押し合い、突っぱねるように行き交っている。それがどういう事なのかは高校生の俺でも簡単に理解できた。
「ここはまだ安全と言うだけで、魔族はもうすぐそこまで迫っているのです 」
俺を呼んだというサリィの手には一本の剣が握られていた。鞘に収まったその剣は柄の落ち着いた感じや頭の石から大事な剣だと一目でわかる。
「この剣は、いままでどんな人物たちであってもその刃に輝きを宿す事が出来ませんでした 」
そう言って俺に渡す。どうしてか懐かしい感じがするが、鞘から引き抜こうとする頃にはそんな事も忘れてしまい。自分でも異様なほど落ち着いてその剣の輝きを見つめていた。
そう。こんな事になったのは、魔族のせいに違いない。だってこんな状況、こんな境遇、全ての原因は目の前の魔族にしかないのだから。
倉屋のすぐ近くにも魔族がいる。この結界魔術を行使した魔族がいる以上はこんな奴の相手をしている暇はない。
「ふーん、だいたい理解したわん。あんたが確認したい事ってのが 」
「そうか、そりゃよかったな 」
この魔族から感じる魔力に少し気圧されながらも、いつもとやることは変わらない。そのまま抗魔力を纏わせて、距離を詰める。
地面から何本かの剣が飛びだす。まっすぐ突っ込もうにも、足元から次々と出てくるそれに先を阻まれる。
「あたくしじゃなかったら確実に殺されてたわねん 」
上から剣を振り下ろされ、それを弾く。
魔族と言葉なんか交わす必要はない。
距離が開けば再び剣が地面から生えてくる。立ち止まるとその場で貫かれ、剣山と化してしまうだろう。あまり距離を開き続けるのはまずい。
足に抗魔力を集中させて、タイミングを見計らって飛び掛かる。それを読まれていたのか、目の前に剣が現れるが無茶を承知でそこに突っ込み、腕で砕いて無理矢理押し通る。剣に抗魔力を集中させて、刀身を誤魔化す。同時その切れ味はより鋭くなり、間合いとしては一歩半も遠いが問題ない。
魔族がニタリと笑うと、それを剣で防ぐ。だが関係ない、鈍らなんていくらでも切れるくらいの切れ味に仕立てあげた。それで剣ごとぶった斬る。
そして一本、二本、三本、四本。防御の為剣が重なっていく。最初の数本は切り裂いたが、以降は砕いて押し込むような鍔迫り合いとなり、いつしか大きな大剣を一本相手にしているような構図になってしまった。
「ふーん。魔族に対しては確かに特攻なのねん 」
大剣のような剣の集合体は、光剣を飲み込み、手の形になってそれを俺の手から取り上げた。
まずい、あれの有無で抗魔力の出力は全く違う。だが、その為には。両腕に抗魔力を纏い、魔族の体に巻き付ける。これが魔族の肌に当たるだけでも焼けるように苦しいはずだ。こちらに引き寄せてその勢いで殴る。
それは上空から降り注いだ剣で阻まれた。手の形となった剣は光剣を握りそのまま結界の外まで飛んでいった。状況としてはこちらが不利となった、背には仲間もいない。俺一人でこの状況を切り抜けるしかない。
「これでも解けないのねん よっぽど強力なのか、陰湿なのか 」
そんな事をほざいている隙に距離を詰める。あの剣は結界の外、距離さえ詰められればこちらの物だ。
魔族もそれをわかって、地面から生えた剣を一本手に取って構える。それがあの魔族の魔力の限界。あの剣の魔術はこれ以上行使できない。
抗魔力を最大限腕に纏わせて、腕が赤黒くなりそれをオミナに叩きつけ…。
勢いを殺しきれず、そのまま砂浜に転がっていった。口の中に砂利と海水が入って気分が悪くなる。滴り落ちる水は赤く、鼻血は既に出ていた。
「お目覚めかしら? 」
挑発するように剣をこちらに向けながら、得意気に鼻を鳴らして。
「ああ、すまない 」
その剣を手で少し払いながら立ち上がり、砂に足を取られてまた倒れる。
確認できた、それが事実だと。なのに俺はそれを拒否している。どうしようもなくわかってしまった。じゃあ、俺は。俺が見ていた景色は。
上手く立ち上がれない、立てなくなってしまった。
「この光剣の頭の魔石、媒体としての機能が備わってるっすね。しかも、洗脳魔術の 」
「あたくしはその抗魔力ってのが今一まだ理解しきれてないんだけど。魔術行使出来るのん? 」
「無理っすよ。寧ろ滅魔力に近い物なんですから 」
オミナとバーゼア、二人の会話を流し聞きしながら呆然と海を見ていた。
違和感は一つ目の時、確信したのは二つ目の光剣を握った時。意識も思考も何も邪魔されるわけでも無いのに俺は当然のように魔族の皆を憎むようになっていた。
俺にはもう魔王を倒すという意思そのものが俺自身の物だと断言出来ない。それなのに、そこに僅かな安心感を持ってしまって、それが向こうの世界で駆け抜けたあの2年間をより深い空虚へと落とされる。
かつて笑顔を向けてくれた人々の顔が、ボヤけて滲んで溶けていく。




