病室で整理、新たな目標
「それ信じてるんですか? 」
ゼーラは持ってきてくれた果物を一人で勝手に食べながらそう言うと、ムスリカに頭を叩かれてようやく食べるのをやめる。
阿久井がここにきて30分後に彼女たちは来てくれた。道中ですれ違わなかったのかと聞いたが、会う事は無かったらしい。今更彼女たちに、魔族のみんなに後ろめたさもないだろうに避ける必要なんて。
「次に会ったら一番にあたしに知らせるのよん! 」
うーん、例外者が居た。それでも避ける理由にはなりえないだろうに。
何か魔族たちに会いたくない理由でもあるのだろうか、向こうの世界で魔族に対して思うところがあるのか。阿久井に直接聞けば良いだろうけど、あの人喋るのだろうか。
「あの~ 」
三人のやりとりに割って入る。
「私にもそろそろ話して貰って良いですか? 」
そうだ、またしても何も知らない倉屋に対していい加減話をしてやるべきだ。
今回の一件に巻き込まれて、こちらの事情に探りを入れにくるのは当然なのだが。俺としては知らないままで、聞いてほしくはなかったけれども、こんな状況に巻き込んどいて何も知らないままでいるなんて本人としは納得しないという事で。
連れて来たらしい。
「倉屋…さん 」
「なんでさん付けてるの? 」
普段より大人しいというか、謎の圧迫感が倉屋から放たれている。それもゼーラやムスリカには何も向けられていないのに、ピンポイントで俺だけにそれが向けられている理不尽。怖い。
「とにかく! 今回の一件を話す上で倉屋にもいろいろ話していこう! な!? 」
右側からの圧迫感、それを左側に座る魔族の方々に打ち消してほしいのだが。俺だけに向けるこの視線は一体なんなんだ。せめてこれをムスリカ辺りが勘付いてくれれば。
「では病院での出来事について話してくれませんか? 」
あ、気づいてないっすね。
そこから病院内での出来事と顛末までの話をした。その中で掻い摘んでだが、俺が向こうの世界でどういう立場で、魔族たちとの関係性についてもそこで触れた。
妹…魔王に関しては深く言及はしない。きっと、倉屋自身も気を使ってしまうだろうからそんな事はさせたくない。この事はまだ話すべきじゃない、それは魔族のみんなにしても。俺とムスリカだけで暗黙しなければならない。
話をしている中で阿久井の事に触れると、魔族の、特にオミナが険しい顔をしていた。
話の中で話題に挙げなかった事は、二つ目の事。あのロボットが話していた創造主の話だ。俺の母があいつらを作った、それも俺たちが居た時代より前に。それなら母の事で話を広げる必要はない。俺はその事で何か期待をするべきでもないんだ。
なにより、もし母と妹が俺の知らないところで血を流し合っていたらと考えると、胸を締め付け、なのに安心を覚えてしまう。
そんな自分が嫌で話したくもなかった。
「お主の武勇を聞いてて思うが、よく生きてたわねん 」
「実際、俺一人じゃお前ら魔族と戦い抜くなんてできなかったよ。周りのサポートがあってこそだ 」
倉屋が黙ったままのが少し気になるが、いい加減話を前に進めなくちゃいけない。
「それで、俺が現状として気になってるのは 」
「魔王様から遣わされたという、偽物たちですか 」
「偽物…なのかはわからない。見覚えはないんだろ? 」
「私は軍の内部にはあまり詳しくはありません。それでもそのような風貌で統一された者たちの話は噂でも聞いたことがありません 」
「私もそんな話、見聞きした事ないわねん 」
「オミナ様は単独行動ばかりの猪でしたからね 」
「なによん、その猪ってのは 」
「後でお調べになれば良いですよ 」
この二人はなんでこう仲が悪いのだろうか、ゼーラに目をやってもわからないという仕草を返されるだけで迂闊に深入りも出来ない。
「ともかく、この病院を囲っていた魔力壁が解けた後我々も気付かれる前に事態の確認に走りましたが、そのような者達の死体はどこにも見受けられませんでした 」
「俺と戦った時も自爆してたし、証拠を残さないようにしていたのかもしれない 」
けれど腑に落ちない。どこか違和感を感じながらも話の流れに逆らうことが出来ずにそのまま次の話題へと身を任せてしまう。
「阿久井…彼についてはどう対応しましょうか 」
「それは 」
「信じられるわけないでしょう! 」
ここは病室だと言うのに、ゼーラが突然声を挙げた。
「私は、私たちはこの10年間ずっと消えるかもしれない、忘れられるかもしれないと怖がってたのに!それをあの…あの人は! 」
「ゼーラ、落ち着いて 」
「すいませんが葵さん。これに関しては私もゼーラと同じ意見です 」
逆に落ち着いている事が、より彼女の中の怒りを体現していた。
「私は魔族の皆を守る為ならこの身だって惜しくはありません。その為なら光剣者である葵さんとだって手を結びました。手段なんかに構ってられないほどなのに、それなのに 」
ムスリカはまだ暴走の兆候がない。現状ほぼ全ての魔族に抗魔力の処置は施されつつある。そんな中でムスリカにはまだ処置を施す事が出来ていない。
幾分か和らいだとしても、ムスリカ自身早くその恐怖から抜け出したい筈だが、それでも己を後回しにして他の魔族たちに処置を施している。
もしもの話だとしても、不可能だとしても。阿久井という協力者、外部からの支えがあればもしかしたらと思ってしまうのは理解できるが。
「俺は…正直、半信半疑だ 」
全てを信用してはいない。未来を見れるという話しにしても、それに近しい力を持って陣の出現を予測していたのなら、阿久井はそれを知って何をしていたんだ?目的も分からない以上、信用すべきじゃない。
それでも、今回の事件に置いて死者が出ていないというのが引っかかる。
あれほどの爆発。他にも転移陣を通して病院内に来た奴らもいた。それなのに、誰一人として死んでいない。俺にはどうすることも出来なかったのに。俺が一つ目と戦った後も何かしら回復魔術か何かを行使してくれたおかげでこうして左手も繋がっている。どうしても何か疑い切れない物を感じざるを得ない。
「3週間後、阿久井の言った事が正しいなら。市役所で何か起きる 」
黙っていた倉屋が顔を上げるが、何か言うでもなく。再び俯いてしまった。
「何か大変な事が起きるのかもしれない。魔族の皆には悪いけど、俺は阿久井の言葉を信じてみる事にするよ 」
「…葵さんを責めているつもりはなかったのですが、そう聞こえていたのならこちらも申し訳ありません 」
「ムスリカの言い分も理解してる。3週間後の事については皆安全な場所に退避してくれ 」
倉屋の方を見ながら、その中に彼女が入っている事は当然だという合図を出して。
「けど、少しだけ協力者も欲しい。結界魔術が行使できる奴っているか? 」
「心当たりはあります。媒体の作成者でもあるので役立つかと 」
「ごめんな。無茶言って 」
首を振って否定してくれたが、両隣の二人は不満な顔を残していた。
1週間後には退院。そこから残された時間、俺に出来る事をしていかなくちゃいけない。
ちゃんとした答えを、俺も知りたい。




