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英雄は帰る場所を求める  作者: 紅蒼べにあお
導に従っていく

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告げられる未来、選択肢の有無

 目を覚ますとそこは知らない天井。同じ感想と左腕の痛みから夢を見ていたのかと錯覚するけれど。壁にかかっている時計に日付が記載されていて、あの出来事が現実だと言うのなら、まだ1日と経過をしていない事になる。


 部屋も昨日までと同じ間取りのようで、まもなくしたらあの三人が入って来そうな予感すらした。


 「よ! 」


 そんな期待を裏切るように、阿久井は入ってきた。困惑する俺を他所に躊躇いもなく横に据わりながら。


 「まぁまぁだな 」


 「何がだよ? 」


 「体調だ。爆発は完全に防いだし、後は火傷で1週間ってところか 」


 「貴方だって、見かけによらずキツそうですけど 」


 入って来た時から少しだけ足を引きずるように歩いていた。いつもの疲労困憊状態の阿久井、そう見えるけれど。


 「こんな状態だ。これじゃ体があと二つ欲しくもなる 」


 「だから俺なんかに助けを? 」


 「そんなに卑下するなよ。仮にも世界を救った英雄だろ?」


 「やっぱり、俺の事を知ってたのか 」


 「全てじゃない。だが、大雑把には把握しているつもりだ 」


 敵意はない。自分の事を知っているのならやはり俺が帰還した後、向こうの世界に飛ばされたのか最初から向こうの世界からやって来たか。


 どっちにしてもこいつの事を知らなくては始まらない。


 「残念だが、全てを話すことは出来ない。今のお前に話せば… 」


 「なんだよ 」


 阿久井の目はまるで吸い込むようにこちらを見つめてくる。探っている、確認しているその目を見つめ続けると、自分でさえ知らない深層の底まで知られてしまいそうで。


 「この町が火の海になる。それはもう取返しのつかない凄惨な程に 」


 「あんたが起こすって事も俺としては考えられるんだが? 」


 「そうだな…、結果としては俺のせい、だ 」


 瞳が陰る。相変わらず表情が変わらないのに、目だけは物をよく語る。


 「だからその責任として、情けない事だがお前に頼む事にした 」


 「まるで俺が頼りなかったような言い方だ 」


 「そりゃあそうだろ 」


 「よし、話は終わりだ 」


 信用できない、信頼できない。何一つ取ってもその話に信憑性を感じられない。こんな奴の世迷言なんか信じられるわけがない。


 「戻ってきたばかりのお前に、身内があっちの世界に居るだなんて突然告げても俺の事をはいそうですかと信じるか? 間違いなく拒否一択だろ 」


 「…どこまで知っている 」


 「大雑把だと言ったろ 」


 こいつは信用できない。どこまで知っているのか、知ったふりをしているのかわからない。だが、こいつから話を聞く必要があるのは事実だ。


 「今回の件が済んだら俺の知っている事を全て話す。お前だって知りたいだろ、自分の身内を今も探しているんなら 」


 「そんなの、それこそお前は知ってただろ 」


 「それならこれから話す事だけは信じもらうしかないな 」


 自らを胡散臭いと理解していると。それならまず笑うところから始めてほしいところだが。いや、こんな細い目をした奴が笑うとよけいに怪しいな。難しい。


 「まず、ここ数日お前の前に現れたロボットについてだ 」


 「あーあの機械な、あいつらがどうした? 」


 「これから3週間後、市役所にあいつらが直接現れる 」


 「なんでわかるんだよそんな事 」


 「俺は未来が見える。だからこれから先、何が起こるのかを知る事が出来るしそれを防ぐ事も出来る 」


 驚いた。本当に驚いた。未来を見るなんて事、そんなの向こうの世界では聞かなかった魔術だ。いや、時を止めたりした奴もいからこっちと比べたらいささか凄さで劣るのか…?


 つまり、未来を見てこれまでの転移魔術。魔術陣の出現を予想してあの地図に書き込んでいたという事か。


 「だが、見えた未来はかなり悲惨な状況だった 」


 「それを俺に防げって言いたいのか 」


 「いや、お前には無理だ 」


 「流れとしてはそうだったろ 」


 「お前だけじゃ無理だ 」


 阿久井は身を乗り出す。今まで合わせてこなかった視線を無理矢理合わせにくる。


 「魔族の中に結界を敷くような魔術を使えるやつがいる。そいつに同伴して貰ってそのロボットの動きを少しでも封じてほしい 」


 「そんなやついるのか? 」


 「ムスリカに聞け。最悪、そいつに結界を張れるような道具なりを作ってもらえ 」


 目線を無理に外そうとして首が痛んでくる頃には、阿久井は既に立ち上がり、窓辺の方に歩いていく。


 「お前はどうして、光剣者になったんだ? 」


 突然そんな事を聞かれて、言葉に詰まる。少なくとも阿久井が光剣者を知っているだろうという事はわかっていたが、どうして光剣者になったかなんて。


 「どうしてって、そりゃ 」


 いきなり向こうの世界に飛ばされて、何もわからないままに世界を救ってほしいと請われ、そして世界の惨状を見せられて。


 「俺にしか、出来ないと思った。剣を握った時、俺だけがその剣をちゃんと扱えるってわかったから 」


 「世界を救える力だと? 」


 「そこまで確信はなかった 」


 「なら、その力がなかった時。お前はどうした? 」


 「…わからない 」


 力が無いのなら。俺には世界を救う資格がなかったとして、断っていたかもしれない。あるいは、力があるにしても俺はあの場に流されただけなのかもしれない。


 深く考えようとすると、そこに俺の意思は介在したのか疑問に思えてしまう。


 「まぁわからなくて良い 」


 窓を開けながら、その風を一身に浴びつつ俺の方を向く事無く。


 「お前がまだ自分を光剣者だと思うなら、この町は火の海にはならないだろうさ 」


 そう言い残して、窓から飛び出した。


 下から悲鳴が聞こえてくる、そりゃここ三階だもんな。

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