Code23
――……イ。
――ル……い。
――アイル先生。
アイルは呼ばれている気がした。洗濯物を干す準備をしていた手を止める。カイルが帰って来たのかと周囲を見渡してみたが、誰もいない。おかしいわね、気のせいかしら? と首を傾げる。
――聞こえていますか?
――アイル先生。
もう一度、聞こえてくる。呼吸は苦しそうだったが、カイルの声だった。
「カイル……くん」
――話しかけているのが、ようやく僕だと認識をしてくれましたね。
「この大バカ者―!」
カイルだと分かった瞬間に、叫ばずにはいられなかった。心臓が煩いほどの鼓動を立てている。全身の血圧が上がっても気にもしなかった。
「怪我がまともに完治していなくて、診察に行っている間に騎士団に合流するなんて何をしているの……! 勝手な判断をするのはやめて……!」
――先生、声が大きいです。
――魔法石が壊れてしまいます。
「魔法石よりも自分を優先させなさい!」
――だって、先生の声が聞こえなくなるじゃないですか。
――せっかく聞けたのに。
アイルの耳が小さい声をひろった。この無自覚の人たらし……! 憎めないじゃないと! と言いながらも表情が緩む。いじらしくてかわいらしい。年甲斐もなくときめいてしまいそうだ。エリスとサラに嫉妬されてしまいそうだ。
内緒にしておこう。
「無事でよかった……!」
――勝手な判断をしてごめんなさい。
――でも、魔物に飲み込まれていく町を、見ているだけなんてできませんでした。
――エリスやサラさん、ケアハウスの子どもたちの未来すら守れなかったら、僕は親として後悔をしてしまうでしょう。
――そう思いました。
――そうね。
――あなたはそんな子だったわよね。
アイルは先ほどとは一転して、切実なカイルの声に声を詰まらせた。そういえば、こんな子に成長したなと実感をする。意思の強さには勝てないなと洗濯物の準備を再開する。
――サラちゃんやエリスちゃんとは話せたの?
――ええ。
――怒られてしまいましたが。
二人に怒られているカイルを想像してしまう。特にエリスの性格はサラによく似ている。それなりのダメージは大きいだろう。まぁ、家族の仲はいいからよしにしましょう、と結論付けた。
「それはそうでしょう。怪我の調子はどうなの?」
すぐに、医者としての表情に戻る。
――今はライエル騎士団長に手当をしてもらって、落ち着いています。
「ねぇ、カイル君」
――アイル先生?
「奇麗な空をしているわね」
――僕はこの日を忘れないと思います。
「私も。じゃあ、受け入れ準備をしておくわね」
――ありがとうございます。
――それでは、後ほど。
通信を終了する。
――カイル君のお父様、お母様。
――この子の成長が見えていますか?
――届いていますか?
――安心してください。
――人思いの素敵な子に育ちましたよ。
アイルは窓から入ってくる零れ日に、瞳を細めるのだった。




