Code2
春、夏、秋、冬……。
季節は巡って話は十年後へと移る。黒髪と新緑の瞳の少女――サラ・ユーズベルトは、貴族院イージス高等学院に通う第一学年だ。
公爵家の娘でもある。
サラが暮らすアイズリー王国は、鉄道もあって独自のスマートフォンも開発されていた。家への近道をしようと、いつもの近道をした瞬間だった。
ドンッと誰かとぶつかる。
歩いていた足を止めた。
一人の少年とぶつかったのである。暑いのに長袖のタートルネックを着ていた。
「ごめんなさい。怪我はなくて?」
サラから見ても瞳には光はない。深い、深い闇がある者の瞳だった。
危うさすらある。
小さい頃から、宝石や花を奇麗だとは思わなかった。血の流れる殺人をテーマにした本にはまっていく。図書館の本を読み漁った。感覚は世間一般では珍しく、狂っているとまで言われていた。ついたあだ名が『狂愛少女』である。
何を言われていたとしても、惹かれていくのは闇を持った人物だった。まさに、目の前にいるカイルがそうだった。早く手に入れたい衝動にかられる。
――私にぴったりな人物を見つけましたわ。
――獲物は逃さなくてよ?
サラは唇を舐めた。
口元に笑みをのせる。
飢えていた心が満たされていく。駆け抜けていことするカイルの腕を掴んだ。腕を掴んだまま、スマートフォンで電話をかける。
『お嬢様! また、帰りの車を無視して!』
筆頭執事の声がキィン、と耳に響く。
「あら? 私は堅苦しいのは嫌いと言っているではありませんか。そうそう。迷子の子猫を一匹拾いましたの。準備をしておいてくださいませ」
『どういったおつもりで――』
最後まで聞かずに電話を切る。数分も経たないうちに、高級車が横付けされた。腕を掴んだまま車に乗り込む。
はい、使ってください、とタオルを渡す。何の反応もなかった。じれったくなって、雨でぬれた頭を拭き取っていく。サラの手をパシリと弾いた。それだけで、背筋がゾクゾクしていくのが分かる。
――そう。
――そうですわ。
――私はこれを求めていましたの。
――待っていたのです。
「ねぇ、あなた。学校は? 家族は? 家は?」
「お嬢様。そんなにストレートに聞いても、答えてはくれないと思いますよ」
それでも、サラはジッとカイルを見つめる。興味津々といった眼差しだった。
答えてくれるのを待つ。
「――てくれ」
「え? 何か言いまして?」
聞き取れなくて、問い直した。
「降ろしてくれ」
まだ、家までは距離がある。駅も遠い。中途半端な位置で降ろすわけにはいかない。仕方がないと、車を道の端に寄せて降ろす。
「これ以上僕に関わるな」
サラはカイルを引き留められなかった。それから、しばらくして、家について車は駐車場に入る。着替えもせずに、父・レインの書斎に入った。サラに母親はいない。病気で亡くなっていて、レインに育てられていた。
「お父様!」
「ただいまぐらい言いなさい」
「私、新しい子猫を見つけましたの! 黒髪で茶色の瞳を持つ子猫でしたわ!」
「茶色の瞳と黒髪?」
何か疑問でも? と首を傾げる。
サラの前にタブレットを投げた。
コードネーム:キサラギ。
変装をしながら、凶悪犯罪者だけを狙う暗殺者。
家族を殺した犯人を捜しているとも言われている。
「まぁ、この資料も噂でしかないけどな」
――面白そうじゃないですか。
――楽しめそうですね。
胸がときめく。
「決めました! 私、この人を婚約者にします!」
「ダメだ! 仮にこの少年が<キサラギ>だとしたら、お前が傷つくだけだぞ!」
「お父様。私が狙った獲物は逃さないとよくご存じではなくて?」
「会社の人工知能を使って検索してみでほしいと?」
ご名答と、にっこり、とサラは笑う。
名前:ゼイン・アーガイル
性別:男
年齢:十六
学校:私立ガーベラ高等学院第一学年
家族:交通事故で死亡。
ふぅん、と眉間に皺がよる。
ざらり、とした感触がある。
けれど、レインが開発をした人工知能が突破されるとは思えない。それでぞ、不穏な影を感じるのは確かだ。心からワクワクが止まらない。
――やっぱり、面白いですわ。
新緑の瞳がキラリと光った。




