Code16
「アイル先生、開けて! カイル先生が死んじゃう!」
アイルは舌足らずの声を聞いた。カイルのケアハウスで、一番の年下だった子のはずだ。
「早く血が! 血が止まらないの!」
必死に訴えている。
普段はおっとり、のんびりしている子である。大声を出すなんて滅多にない。アイルの子どもの異常に全速力で玄関に向かった。ドアを開けると、カイルが若い騎士団員に抱えられている。
呼吸も浅く顔色も悪い。
腕にまかれている包帯には、血が滲んで腕を流れている。この子に、何をしたの! と騎士団員を睨みつけた。
「アイル先生! 違うの! カイル先生は魔物から僕たちを守って! 騎士団員の人たちが助けてくれたの!」
騎士団員からカイルの体を奪い取る。細い指が伸びてきた。アイルの白衣をキュ、と掴む。先生以外の人の治療は受けたくない。そういった意思表示でもあると思った。
握りしめている手をポンポンと叩く。さらに白衣を握る力が強くなる。ようやく、息ができたみたいだった。安心したのかアイルの腕の中で、意識を失ってしまう。ケアハウスにつくまで、よく意識を保ったものである。
「カイル君に触れないで……! 帰ってください!」
そんな姿に騎士団員を一喝した。ベッドの上で眠っている姿を見ると、出会った頃を思い出す。あの紋章は何なのか調べてみた。
コールエン家特有の紋章と、呪いの代償だと知った。両親はすでに亡くなっている。従兄弟に殺されたのだとわかった。どれだけの重荷を背負って生きてきたのだろう。
傷ついてきたのだろう。
けれど、口に出しては言えなかった。言わなかった。それで、正解だったと思っている。優しいカイルを傷つけてしまう。
さらり、と癖のない黒髪をすく。アイルが髪をすき続けると、ん、と小さく動いたが起きる気配はなかった。伝わる体温はカイルがここにいるのだと証明していた。
――紋章があってもなくても、カイル君はカイル君よ。
――私たちはあなたの味方よ。
――だから、生きて。
――生きてほしい。
汗を拭くと心音モニターと、人工呼吸器の様子をチェックした。血液検査をするために採血をする。結果を待った。結果の数値を見て、何もなくてホッとする。
やはり、傷口からきている熱だと判断できた。同時に騎士団へのやり方に怒りがでてくる。
――やり方が汚いわ!
騎士団は最初からカイルが、元暗殺者だと知っていたのだ。欲していた。銃の扱い方を知っている故に、付け込んで武器を持てと迫った。
命の重さを誰よりも理解しているのに。
――まだ、戦えと。
――戦えと言いたいの!
――どうして、この子だけ……!
アイルは机を叩いた。アイル先生と飛ばれた。振り返るとカイルが起きている。いつ、目覚めたのかまでは分からない。起こしちゃった? もう少し寝る? と尋ねると緩く首を振った。
「どうして……僕だけと思っているでしょう?」
心を読まれたかと思った。
痛い部分を突かれた。
カイルはどこまで人の心を、見透かしているのだろう。
丸裸にされてしまう。
嘘はつけなかった。
「どうして、分かったの?」
「何年付き合っていると思っているとでも?」
「カイル君には勝てないわね」
「僕は大丈夫ですから……サラさんやエリス……皆を失う方が怖いです。皆を守れるのなら……武器を持ちます」
アイルを見る瞳は静かなものだった。そこには、確かな愛情があった。ごめん、ごめんね、とアイルは大粒の涙を流した。




