Code14
――リー。
――ロット・ズ……リー
――聞こえるか?
――誰だ?
――誰か俺を呼んでいる?
ロットは水中を漂っていた。
――俺は死刑になったはずだ。
そう。
そうだった。
アイズリー王国王家騎士団の手によって、首を切られたはずだった。命は終わっているはずだった。それなのに、なぜ水中を漂っているのだろう。どうして、こんな場所にいるのだろう。
――ロット・ウィーズリー。
今度ははっきりと聞こえた。
――我々と手を組む気はないか?
――我々だと?
――闇の国・リージュと。
――お前には殺したい奴がいるだろう?
ロットの耳に子どもの声が聞こえてきた。まだ、小さい女の子の声だった。
「パパ! 早く!」
「こら! エリス! 走ると転ぶぞ!」
アイズリーにいた頃よりも成長をしていた。
――カイル・コールエン!
――あいつ!
「ねぇ、パパ! ママはいつ買い物から帰ってくるの?」
「もう少しで買い物が終わると伝書鳩がきたから、もう少しまってみようか?」
「うん! それまで遊んでいて大丈夫?」
「見ているからいっておいで」
――あいつ!
――あいつのせいで俺は……!
瞳に不穏な影が揺らめいた。
燃え上がる復讐の炎である。
こいつらが、平和に暮らしているのかといった湧き上がる嫌悪感があった。
滅茶苦茶にしてやりたい。
全てを奪ってやりたい。
絶望した顔が見たい。
――奴らに復讐がしたいか?
――ならば、我々の手をとれ。
悪魔の囁き。
こんな魅力的な話はない。
――利用できるのなら利用してやる
ロットは水中でアリスの手をとった。すると、ズブリ、と手が体の中に入ってきた。臓器をかき混ぜられる感覚だった。はっ、はっと荒い呼吸をしながら、耐えるために歯を食いしばる。
ロットの魂を抜き取っていく。胸元にはリージュの紋章が刻まれた。
契約が完了したのである。
――さぁ、俺たちの手の中で転がってもらおう。
ロットの意識は浮上していった。目を覚ますと服を捲り上げた。禍々しい黒いバラの紋章の花びらだった。確かに胸元にはリージュの国花が刻まれている。
カーテンを開けてみた。
住民に飼われている魔物が、あちらこちらを歩いている。あのまま、リージュに入国をしたみたいだった。トントンと扉が叩かれる。扉を開けると黒いフードを深々と被った男の姿がある。
「ロット・ウィーズリーさんですね? 魔物を手配いたします。着いてきてください」
「皆、飼っている魔物が違うな」
「好きな魔物を選べます。ここです」
ロットは足を踏み入れた。魔物特有の匂いと唸り声がする。歩きながらそれらを吟味していく。歩いていると一匹の魔物が頭を下げてきた。
忠誠を誓うみたいに。
あなたが主だと示すみたいに。
自分を必要としてくれている国と魔物がいる。そう思えば、ぞくり、と快楽が走る。これで、窮屈さから解放される。もっと、もっと高い場所へ――頂きへと登っていける。
「賢い奴だな」
「何匹に一匹の逸材かもしれません」
――気に入った。
にやりと笑う。
「こいつをくれ」
「かしこまりました」
ロットは檻から出された魔物を撫でた。
「ロットよ。もう魔物を見つけたのか?」
カツンと響く靴音と、低いソプラノの声が響く。バッと勢いよく顔を上げた。目の前で被っていたフードが取り払われた。紅い瞳と銀色の髪である。長身の女性で腰には剣が帯剣してあった。
ロットは頭を垂れる。
「アリス・リージュ女王陛下」
「よい。私は硬いのは苦手だ。そなたの余興を楽しみにしている」
――俺はあなたの望みを叶えてみせます。
――身も心もあなたの物です。
ロットはアリスの手に口づけをした。




