Code13
カイルは皆にプロポーズをする予定だからと宣言をした。爆弾投入にフリーズをしている人がたくさんいる。
紹介はしていた。
サラがフレイルに来てから数ヶ月がたっていた。まさか、こんなに早く結婚の言葉を聞くとは思ってもいなかったらしい。
「え? 待て、待て、待って。待ってください。プロポーズって結婚!?」
「結婚だと? カイルさん、今、あなた結婚すると言いました?聞き間違いじゃないですよね?」
「僕は結婚すると言いました」
ストレートな言い方に周囲がどよめいた。あの小さくて、弱かったカイルが結婚なんて――そんな声が、あちらこちらから聞こえてきた。
「裏切り者ぉ。結婚はもっと先だと思っていたのに」
それは、カイルが聞いても悲鳴に近かった。それから、皆さん、聞こえていますからね? と笑顔で対応する。さらに、子どもも生まれるので、とさらりとのけ賜った。
「子ども? 子どもかぁ」
「え? はぁ? 子ども!?」
「カイルが俺たちよりも先にお父さん……。嘘だろう。誰か嘘だと言ってくれ。俺たちを打ちのめすのはやめてくれ」
「勝手に打ちのめされるのはやめてください」
現実ですよ? 僕、お父さんです、性別は生まれるまで楽しみにしておいてください、と答える。二回目のフリーズにまたカイルは笑う。何回固まれば気が済むのか、と横目で見る。皆さん、そろそろ、復活をしてください、との声でフリーズがとけた。
「僕は不思議に思います。何でひねくれた方にもっていくのでしょうか? もったいないですよ?」
首を傾げながら、カラカラと氷が入ったお茶のグラスを回した。長いまつげがブラウンの瞳を隠した。
「もったいない?」
「ものは考えようです。地道にコツコツやっていれば、チャンスはきます。人はちゃんと見てくれていますよ」
あなたたちなら、大丈夫、僕は来ていた時からみていますから、とふわりと笑う。優美でとてつもない色気を放っていた。
「カイルー!」
お茶のグラスを持って瞬時に立ち上がる。抱き着かれる。そう感じ取ったからだった。
それから、真顔になって飲みすぎです、と用意をしていた吐き気止めと水を配り始める。そこは、アイルの仕事ぶりとよく似ている。ちゃんと、そこには理由があった。
「カイル。お前がそんな性格だったなんて。あの可愛かったカイルはどこに……」
「皆さん、何かとさっきから失礼ではないですか? 僕は僕ですよ?」
これが、素ですか、何が? とさらりと言ってのける。昔みたいに仮面をつける必要が、なくなったわけで――困ったなとサラに聞く。
「ねぇ、サラさん? 君も僕の本性や性格を知っていますよね?」
「ええ。知っていますわ。カイルさんはカイルさんで間違いないですが」
「何だよぅ。惚気やがって。アイル先生には報告をしたのかい?」
もちろんです、一番に報告しました、僕の命の恩人ですから、あの人がいなかったら、ここにはいません、ブラウンの瞳には輝きがあった。
輝きに満ちている。
出産はアイル先生にお願いするつもりです、お願いしますねと声をかける。専門が内科だからね、お願いされました、と返事が返ってきたのをしっかりと聞いた。
カイルはアイルに医師の勉強を、教えてもらっていた。専門的な実習もさせてもらった。お陰で、一発で医師の免許を取得した。今はもう一つあるケアハウスで働いている。
サラさん、と呼び寄せる。
先ほどよりも表情がもっと甘い。花が綻ぶ――その表現とはまさのこのことだ。
「カイルさん。フレイルの皆さんは面白い人たちですわね」
「面白いでしょう?」
カイルは酔いつぶれている皆を、ちらりと見ながら外に出て月を見上げる。サラが冷えないためにと、肩に上着をかける。
近くに海があるから行こうと誘う。暫く砂浜を歩いて足を止めた。
振り返って膝をついた。
まさに、騎士がお姫様にするみたいに。
「カイルさん。どうしましたか?」
「サラ・ユーズベルトさん」
「はい」
「再会をした時言えなかったので、言わせてください」
指輪が入った箱を取り出す。待っていてくれた君に、永遠の愛を誓おう。一つの家族として形にしよう。
「僕と結婚をしてください」
「喜んで」
サラの左手薬指に指輪をはめる。
「よく似合っています」
「言われるとくすぐったいですわ」
「幸せになりましょう」
「あなたとなら幸せになれますわ」
顔を見合わせる。二人の幸せな笑顔がそこにはあった。
カイルは突然、眩しいぐらいの光に包まれた。光りに包まれている場所は、ふわふわとして心地よかった。
嫌な感じはしない。
むしろ、懐かしさがあった。
大切な人に呼ばれていると自覚はある。
――もしかして。
その予感は的中した。
――カイル。
名前を呼ばれて振り返る。
間違えるわけがない。
紛れもないアンとジルの声だった。
――父さん、母さん。
――大きくなったね。
――ごめん。
――ごめんな。
――カイルに負担をかけてしまった。
――父さんと母さんが謝る必要はないよ。
――あれは、僕自身が下した決断だ。
今なら分かる。
いずれ、敵になる危険分因子が近くにいる。気を付けろと命と引き換えに、警告をしてくれていたのだ。
――もう、大丈夫?
――苦しくない?
――僕は大丈夫。
――だから、ゆっくり眠って。
「ル……ん? イ……さん? カイルさん?」
――ほら、呼ばれているわ。
――いきなさい。
カイルの背中をとんと軽く押す。数回、瞬きをした。アルコールの匂いと風に揺れているカーテンが、そこにあった。見慣れたサラの病室に戻ってきていた。
短い夢を見ていた。
アンとジルに会えた気がする。
「どうかしましたか?」
「ううん。何でもないです」
「変なカイルさんですわ」
「もうすぐですね」
あの時のことを思い出す
「カイルさん……! 子どもが……! 子どもができました!」
「やっぱり。最近、しんどそうでしたし、家事をやりながらもしかしてと思っていました。専門部署は違ってもピンとくるものはあります」
「あら? 気付いていたのですか?」
「一緒に暮らしていますし、気付かないほど鈍くはないつもりです」
「勘がよさすぎて怖すぎるぐらいですわ」
「アイル先生に取り上げでもらうでしょう?」
子どもができた時の騒ぎが、すぐ最近に思えてくる。あれから、一年が過ぎたのだ。その間に、カイルはアイルのアドバイスを受けながら、出産に向けてのフォローに入った。
大きくなったお腹を撫でる。
小さな命の息吹を感じていた。感じる鼓動に瞳を細める。愛おしくて仕方がない。サラに似てお転婆で、力強くお腹を蹴っている。
――元気に生まれてこい。
――待っている。
女の子よ、とサラから聞いていた。名前はエリスを付けると決めていた。フレイルでは光の意味が込められている名前だ。光みたいに明るく育ってほしい――そう言った。
「カイルさん。私はあなたに再会をするまで、とてつもない長い夢を見ているみたいでしたわ。こうして、私の傍にいてくれてありがとうございます」
『エリスを含めて大好きだよ』
二人の声が重なって笑う。愛を証明するかの如く、結婚指輪がキラリと輝いた。
つないだ手は二度と離さない。
離れはしない。
この人と生きていくと決めたから。
覚悟はあるから。
フレイルにしては珍しく、柔らかい日差しが二人を照らしだしているのだった。




