Code12
「本当に一人で行くの?」
「思い出を作っておきたくて」
呪いの再発動もない。成長してコントロールできるまでになっていた。
「はい、これを持っていきなさい」
カイルの手に予備の解熱剤を強引に渡す。
「何かあったら周囲に助けを求めなさい! 私も駆け付けるから!」
「アイル先生、心配しすぎです。まるで、お母さんみたいです。僕ももう子どもじゃないです。フレイルの成人年齢は十八でしょ」
クスクスと肩を震わせて笑う。
「カイル君、茶化さないの! ほら、花火に間に合わないわよ」
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
行く前に騒動はあったが、カイルは車いすを押して、祭り会場に入った。三年の間、住民たちが心配をして、代わる代わる来てくれた。
新しく入ったカイル少年? 全く出て来ないし、何者だ? と酒場では話題になっていたらしい。体が弱いみたいだな、わざわざこんな田舎町に流れてきたのも、暴かれたくない過去があるのだろう、負担になるし余計な検索はやめようぜ、と落ち着いたわよ、とアイルから聞いていた。
穏やかな性格の気質もあるのだろう。一年目には機構に慣れないだろう? 寒くないか? ともこもこのセーターを編んでケアハウスまで来てくれた。二年目は夏祭りの話を耳にした。
開発が終了した野菜や胃に優しい食事を届けてくれた。三年目は花火だけでもと夏祭りに出て来られた。
こうして、住民たちとの絆ができていった。はしゃぐ姿を眺めふと、目元が和らいだ。輪の中に入っていく。天気や日常、話題のニュースなどの何気ない話をする。
どこにでもいる青年だった。
ただ、一人、アイルには全部を話していた。
ある少年がいました
仮にKとしましょう
彼は両親を殺されて代々続いている家系の暗殺者となります
しかし、その少年の体は呪いに蝕まれていました
呪いをとくには「人を愛すること」が鍵だと知っていました
けれど、少年は「人を愛すること」をよく知りません
それは、そうでしょう
少年は「人を愛すること」を教えてくれた大人を失ってしまったのですから
そんな中でKはとある少女と出会います
仮にSとしましょう
Sは変わっていて奇麗な物が嫌いで、闇が好きな狂愛少女でした
Sの力を借りてKは宿敵を倒します
しかし、Sの前からKは姿を消してしまいます
Sの幸せだけを祈って
「そうね。少年は少女を少女は少年を好きだったのだと思うよ。私は話を聞いてそう思う」
カイルの胸にアイルの言葉は、すとんと落ちてきた。入り込んできた。
――好き?
――僕がサラさんを?
理由が分かった。
あの二回感じた胸の痛み。
あれは、そうだったのだろう。
――会いたい。
――会ってごめんねと言いたい。
――好きだと伝えたい。
――神様。
――お願いです。
――姿を見るだけで十分です。
――願いを叶えてください。
カイルは夏祭りのメインの花火を見ながら祈った。
『ねぇ、カイルさん。あなたはこの空をどこで見ていますの? 私の思いは変わりません。私はあなたの体温が恋しいです』
花火にのってサラの声が聞こえた気がした。
とても、切ない、切ない声が。
弱々しい声が。
――サラ、さん?
いるはずがないと分かっている。
分かっているのに。
周囲を見渡してしまう。
サラの姿を無意識に求めて。
求め続けてしまう。
捜してしまう。
――え?
数度、瞳を瞬かせた。花火の光で見えた隣の女性に目をやった。隣にいる女性がサラに、よく似ているからである。
似ているどころではない。
間違いない。
サラ本人だ。
あの時と一緒のグリーンにドレスを着て、瞳は涙で潤んでいた。初めて会った時よりも、身長が伸びている。三年見ないうちに、大人の女性になっていた。
「サラ、さん?」
カラカラの喉からサラの名前を絞り出す。好きなのだと自覚をしたからこそ、声をかけずにはいられなかった。かけなければ、一生後悔する。この広い世界で再び巡り合えたのは、奇跡みたいなものである。
「カイ……ルさん」
カイルとサラの三年ぶりの再会だった。
「ごめん、サラさん。ごめん」
「会いたかった――会いたかったですわ! カイルさん! よかった――生きていてくれてよかった……生きていてくれてありがとうございます!」
カイルは飛び込んできたサラの体を受け止めた。
「僕も会いたかった。サラさん、聞いて。僕はサラさんが好きです」
「私もカイルさんが好きです」
気持ちは通じ合った。
これで、もしかして、と首に巻いてある包帯を外してみる。首筋からツタが消えていく。幻でも見ているみたいに、立て続けに胸元が光った。
一枚、一枚花びらが散っていく。
最後の一枚がはらり、と落ちた。
全体の紋章が薄くなっていく。
数分かけて紋章もツタも消滅した。
呪いから解放されたのである。本当の「愛」を手に入れたからだった。熱は下がっていないが、息苦しさはなくなっている。全身で呼吸ができる。こんなに楽に酸素を取り込めるなんて、どれぐらいぶりなのだろう。
「紋章が消えた」
「これで、はれてあなたは自由ですわ。また、どこかに行ってしまわれますか?」
「行かないです」
――もう、どこにも行かない。
気持ちを込めてグイッとサラの腕を引っ張る。カイルはサラの唇をなぞった。
二人の唇が重なっていく。
「契約はまだ有効ですか? お姫様?」
「当たり前ですわ」
二度目の口づけを交わす。
お互いの存在を確認するみたいに。
離れていた時間を取り戻すみたいに。
そんな二人を祝賦するみたいに、花火は上がり続けていた。




