Code11
アイズリー歴三二九年、八月十一日、カイルが姿を消して三年目の夏がやってきた。相変わらず、セミがシュワシュワと鳴き続ける暑い夏だった。
筆頭執事が用意してくれたアイスティーを飲む。最近、紅茶産業にも力を入れているアイズリーの新茶だった。少しずつ、アイズリー王国は変わってきている。
力をつけてきている。
新しい時代の変化を肌で感じ取っていた。新しい改革が始まっていた。
――カイルさん。
――アイズリーも変わりつつあります。
さて、とグラスを置いてスマートフォンとにらめっこをする。
イーリス病院付属診療所
プレア病院付属緩和医療ケアハウス
リベア病院付属緩和医療ケアハウス
――全然、ダメですわ。
――見つからないですわね。
サラはマーカーで病院の名前を消していく。調べて手紙をか書いているが、個人情報だから教えられないと答えが必ず返ってくる。お陰で、カイルの発見には至らない。
その間に学院を卒業してしまった。そろそろ、潮時だと思って公爵位の称号も返却をした。利用されないために会社も売った。生活するには困らないほどのお金は持っている。
お金なんかでは心は満たされない。
心は潤わない。
三年前に感じた煩いぐらい胸の鼓動を思い出した。あれはカイルが好きだったからこその反応なのだと実感をした。
――カイルさん。
――契約なんて関係ありません。
――どうやら、私は本気であなたを好きになってしまったみたいですわ。
――許してくださいませ。
ふ、とスマートフォンが目に入った。ある町の夏祭りの案内が飛び込んでくる。
フレイル王国夏祭りのお知らせ
ダンス披露
バンド演奏
レース教室
編み物の販売
温かい料理の提供もあります
ビールやジュースなどもあります
最後には花火が打ちあがります
皆で楽しみませんか?
お待ちしています
――夏祭り、か。
――行ってみましょう。
――たまには、遠出をしてみましょうか。
――気分転換にはいいかもしれませんね。
椅子から立ち上がる。
服は何を着ましょうか? とクローゼットを開ける。見ているうちに、一枚のドレスに目が止まった。
目に入った新緑のドレスは確か――。
レインを倒した時に着ていたドレスだ。もしかしたら、カイルと会わせてくれるかもしれない。
願いを込めて手に取る。
淡い期待をしながら髪をアップにしていく。靴を履いて駅へと向かう。フレイル王国行きの電車はまもなく到着となっていた。ホームは祭りに行く人で混んでいる。
『まもなく、フレイル王国行きの電車が到着致します。危険ですので黄色い線までお下がりください』
電車がホームに到着する。他の人たちと一緒に乗り込んだ。電車の揺れが気持ちよかった。
緑豊かな山々は目の保養になる。
『まもなく、フレイル王国駅。フレイル王国駅。落とし物・忘れ物にご注意ください』
駅に降りて目的の公園まであともう少しだった。広場に着くとちょうど、バンド演奏が始まったところである。
恋人、子どもを連れ、友人同士だろう。そんな人たちがたくさんいる。手をつないでいる人たちも多かった。皆、楽しそうに笑っている。
笑顔で溢れていた。
――なのに、どうして、私は一人なのでしょうか?
――私も皆みたいに手をつなげたら。
一つ一つが胸に突き刺さっていく。
それに、動揺をしてしまう。
――来なければよかったです。
――寂しい。
――寂しいですわ。
――カイルさん。
――体は大丈夫なのですか?
――休めていますか?
――会いたいです。
――声が聞きたいです。
――抱きしめて、好きだと言いたいですわ。
――その気持ちに偽りはありません。
伝えてカイルが驚く顔が見たい。
表情を独占したい。
感情を抑えきれない。
止められない。
立っていられなくなって、広場の隅にしゃがみ込んでしまう。
――神様。
――これは叶わない恋だとおっしゃるのですか?
――お願いです。
――大きな願いは言いません。
――欲張りません。
――成長をした姿を陰から見るだけでもいいのです。
だから、どうか、どうか。
――彼に会わせてください。
新緑の瞳からポロポロと涙が零れ落ちた。




