死体漁り
街道での虐殺の後、小媛はさらに驚愕することになる。
凡吉は、無表情でさもそれが当然であるかのように、山賊達の持ち物を奪い始めたのだ。武器や雑多に物が入った皮袋に、血に染まった衣服まで……。
そして、おもむろに一枚の着物を手に取ると、なんとそれを重ね着し始めた。
「ちょ、ちょっと凡吉! 何してるの!?」
小媛は慌てて凡吉を制止しようとした。いくら山賊相手とはいえ、血に染まった衣服を着るなど、正気の沙汰とは思えない。
「……これしかないんです」
凡吉は事もなげに言うと、自らの衣服を見せた。確かに、元々凡吉が着ていた着物は山賊達の返り血で真っ赤に染まっており、とても綺麗とは言えない代物だった。
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「気にしていません。むしろ防寒になります」
「そういう問題じゃない! 心の問題よ、心のっ!!」
小媛は頭を抱えた。この少年は、本当に色々な意味で常識外れすぎる。
結局、凡吉は奪った山賊の荷物の中から比較的マシな着物を見つけ出し、それを重ね着することで落ち着いた。
「はぁ……あ、お嬢様? お怪我はございませんか?」
小媛は、うっかり忘れていた主人の事を思い出し、彼女に目を向ける。
「え、ええ……平気よ……」
言葉とは裏腹に、主人――龍華鈴は呆然自失といった様子だった。
無理もない……皇宮で何不自由なく育ったお嬢様が、あんな凄惨な殺戮を目撃してしまったのだから。実際、小媛自身も緊張で震えていた。
だが、やらなければこちらが酷い目に遭っていただろうし、彼らが殺されたのも、ある意味天命と言える。ただ、小媛にとって理解できないのは、凡吉の態度だった。
「……あの、凡吉?」
「なんですか、小媛さん」
「もう少しこう……罪悪感とか、こう……何か感じない?」
あまりにもケロッとしている凡吉を見て、小媛は率直な疑問をぶつけた。
「罪悪感ですか?……」
凡吉は、相変わらず無感情な声で答えた。
「……僕が彼らを殺さなければ、お嬢様や小媛さんが死んでいたかもしれません。それなら、僕が手を汚すだけで済んだほうがマシでしょう?」
その言葉には、一片の迷いもなかった。まるでそれが当然の結論であるかのように……。
小媛は凡吉の異常な精神構造に戦慄を覚えた。
彼は自己犠牲的な善人でもなければ、冷酷な殺人者でもない。
ただ、状況をありのままに受け入れ、最適解を導き出しているだけなのだ。それはあまりにも合理的で、いささか感情が欠落しているように見える。
「まあ、いいわ……とりあえず、今は無事を喜びましょう。
お嬢様、まだ玉修門まで距離がありますが、歩けますか?」
小媛は無理やり気持ちを切り替え、龍華鈴に声をかけた。
「え、ええ……ありがとう、二人とも……」
華鈴は弱々しく微笑んだ。まだショックからは完全に立ち直れていないようだが、それでも気丈に振る舞おうとしているのが見て取れた。さすがは皇室の娘というべきか。
そのまま玉修門目指して街道を歩きながら、小媛はふとした疑問を凡吉にぶつけた。
「そういえば凡吉……あの包丁、いつも持ち歩いてるの?」
「はい、外出時に」
「どうして?」
「護身用です」
……小媛は、それ以上何も言わず、凡吉達と共に玉修門への帰路についた。




