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古跡に集まる勢力

 凡吉が華鈴達と山門へ向かうと、すでに他の人々は集まっていたようで、華鈴の伯母である龍如姫大長老が凡吉達の方を一瞥(いちべつ)して言った。


「来たわね。これで全員かしら?」

「はい、大長老」


 如姫大長老の言葉に、護衛として随行する護法の女性が答えた。彼女達の近くには、馬車が四台もある。それに、何人か見知った顔もいた。


「あ、凡吉」


 その中の一人であるハルが、凡吉を見るなり声をかける。


「おはようございます、ハル公主」

「もう、『公主』はいらないって言ったでしょ」

「申し訳ありません」


 思ってもいない凡吉の言葉に、ハルは『だったら直しなさいよ……』と一言言って、懐から古跡への入場権の証となる玉牌を見せた。


「どうよ、これっ! 手に入れるのに苦労したのよっ!」


 ハルの言葉に嘘はない。

 天雲門との比武の後、彼らがあらかじめ皇帝から賜っていた玉牌二枚をもらい受け、玉修門は計五枚の玉牌を手に入れた。

 その五枚を巡って、外門堂で改めて比武会が開かれたのはつい最近の事だった。

 実は……凡吉はその比武会に参加することなく、玉牌を手に入れた。

 ズルをしたわけではない。公式には、『天雲門との古跡入場権を賭けた比武で勝利した褒美』として、精華門主から賜った物だった。

 いつもは小言を言うような人達も、この時ばかりは凡吉の事を大いに賞賛してくれた……それだけ、凡吉の功績は大きかったのだ。


「それなら、私も持ってるわ」


 そう言って、華鈴も懐から玉牌を出す。彼女も、外門堂での比武会に勝利して玉牌を手に入れた一人だった。

 これで、凡吉、華鈴、ハルの三名が玉牌を手にしていることになる。残り二枚の玉牌の持ち主達の姿はいずこだろうか……凡吉がそう思って周囲に目を向けると、その者達はにらみ合いの真っ最中だった。


「……ふん。相変わらずのようだな」

「ええ。そちらも……」


 どちらも、絶世の美女……なのだが、声を掛けられる男はほとんどいないだろう。いるとすれば、彼女達の家族くらいだ。

 二人の名前は、南宮(なんぐう)勝美(かつみ)と慕容(ぼよう)貴燕(きえん)。どちらも玉修門の外門弟子であり、それぞれ南宮世家、慕容世家という絶世の名家のお嬢様である。

 しかし……この二人、いかんせん仲が悪い。

 というのも、二人の出身家である南宮家と慕容家の中が悪い。それも、功法――特に剣法の在り方について、両家は真っ向から対立していた。

 南宮世家は、自身が作り上げた絶世の剣法を至上のものとし、それ以外の剣法は無意味とさえ公言してはばからない。それは、玉修門の天羽剣法も例外ではなかった。

 一方の慕容世家は、様々な剣法を吸収し、一つの剣法として作り直し、場合によってはそのまま修得することによって最強を目指そうと考えていた。

 どちらも『最強』を目指していることには変わらないが、それゆえに、何かあれば激突する……凡吉も、何回か彼女達の喧嘩を外門堂で見たことがある。

 だから、今日も……と思っていたら、如姫大長老の一声で喧嘩が鎮火した。さすがは、大長老である。


「それじゃあ、出発しましょうか」


 如姫大長老の言葉を合図に、一行は各々(おのおの)に割り当てられた馬車に乗った。


「出発っ‼」


 そして、先頭を行く護法の号令と共に馬車が動き出し、凡吉達は古跡へと旅立ったのだった。


               ※


――馬車に揺られること、早数日。

 一行は玉修門から北山城を通って北東の町や村々で休息を挟みつつ、北東山古跡へ向かっていた。

 道中も、勝美と貴燕の二人は何度か言い争いをしていた。一度だけ、本当に抜刀しかけたことはあったが、その時は龍如姫大長老が二人の頭上に鞘(さや)に入ったままの剣を振り下ろした。気絶こそしなかったものの、それ以降は二人とも口を利かなくなった。大長老恐るべし。

 しかし、古跡までの道中に野盗に襲われることもなく、順調すぎる道程を進んでいた。これまでの騒動や事件で、多少は治安が改善されたのだろうか?

 凡吉はそんなことを考えながら馬車に揺られていた。

 華鈴は……意外にも眠っていて、馬車の窓により掛かっている。

 しかし、その手はしっかりと凡吉の袖を握っていた。それだけ信頼されているのかなと凡吉は思うと、少し気恥ずかしくなりながらも、静かに微笑んだ。

 それからしばらくして、ようやく馬車が停止した。どうやら目的地に到着したようだ。

 華鈴も目を覚まし、彼女が眠そうな目を擦るのを眺めながら凡吉は馬車を降りると、そこには……渓谷に挟まれた石造りの建物があった。

 それは巨大な扉のようなものが中央にあり、その上には金装飾の紋章が施されていた。ここが目的の場所なのだろうか?

 そんな疑問を抱きつつも凡吉は小媛や護法達と共に馬車から荷物を取り出すと、目の前の建造物に近づいた。

 巨大な扉には取っ手のような物もあるが、とても人の力で開けることは出来ないと思える大きさだ。また、その両脇には二体の獅子を模した石像が置かれている。

 他にも、壁面や柱に文字が刻まれているようだが、読める者は少ないようだ。おそらくは古い時代のものだろう。

 その文字も風化して消えかけている部分もあり、全てを解読することは困難だと思われた。

 一体誰が……いつの時代に作ったものなのだろう?

 そんな疑問を抱きつつも凡吉達は周囲を見渡すと、古跡を中心として他門派の人間や露店、簡易的な宿屋などの商業施設が乱雑に配置されているのが見えた。まるで、即席の街のようだ。

 凡吉が呆気にとられていると、随行していた小媛が華鈴に説明を始めた。


「あちらの荘厳な建物が、北東山古跡になります。あそこに見えます通り、毎年この時期になると古跡に入城する門派を相手にした商売が成り立つのです」

「まぁ……儲かるのかしら?」

「それなりに需要があるようですよ?

 それに、宿などは特に売れ行きが好調のようです。まぁ、馬車や野宿に比べたら、当然でしょうね」

「ふぅ~ん」

「あとは、古跡で怪我を負った者のために、町医者が医院を開いていたりします」

「お医者さん……」

「はい。ですが、お嬢様の場合は玉修門から医員の方々が同行しているので、あまり関係ないかと」

「そう……」

「あと、賭場もありますね。あくまで、ここのような大きな古跡に限りますが」

「賭場?」


 凡吉が聞くと、小媛は向き直って答える。


「そうよ。門派の中には、古跡で手に入れたものを質屋で換金して、そのまま酒や賭け事に使ってしまう人達もいるの。ウチには、そんな人はいないけどね」


 それはそうだろう。玉修門は、元の世界で言えば名門の女子高のようなものだ。

 ちなみに、この辺りの賭場は元々は飄雲派が仕切っていた……彼らから奪った資料に記載があった。帳簿を見る限り、田舎にある賭場にしては儲かっているようだ。

 今は、凡吉が動きを見せないために、その利益を各賭場で内々に分配しているのだろう……この辺りの事も、いずれ決着をつけなければいけない。


「それでは、私達も宿へ参りましょうか?」


 小媛の言葉に我に返った凡吉は、玉修門の皆と一緒に宿屋へ向かったのだった。

 一行が訪れた宿は、一般のものとは異なっていた。

 三階建てのその建物は、一般客を受け入れていない。入口には女性の番人が立ち、鋭い眼光を光らせている。建物は灰色を基調としており、華やかな装飾もない。それは、外門堂に少し似ていた。


「こんにちは」


 如姫大長老を筆頭に、玉修門の者達がその建物に入ろうとすると、背後から声を掛けられた。

 凡吉達が見ると、そこには異なる衣服を着た女性達と数人の男性達がいた。


「あなた達は……」


 その人々を見るなり、如姫大長老は一瞬戸惑ったような様子を見せるが、すぐに取り繕い、挨拶をする。


「お久しぶりです。天武府に太極宗、それに往生寺や魔蓮宗、白蓮府や玉清宗の方々まで……」


 如姫大長老がそう応えると、男女は思い思いに挨拶をする。中には、女性に付き従うように歩く男性もいた。

 それにしても、かなりの大人数だ。少なく見積もっても五十人くらいはいるのではないだろうか?

 その半分以上が女性ということは、玉修門となんらかの関わりがある門派なのだろうか?


「近頃大変だそうで……この前は、あの天雲門の奴らに散々な目に遭わされたと聞いています」

「ええ、そうですね…」


 如姫大長老は言葉を濁して答える。その表情からは複雑な感情が見て取れた。何か嫌なことでも思い出しているのだろうか?

 凡吉は彼女を心配しながらも、とりあえず小媛達を促して自分達の宿へと足を踏み入れた。幸い、こちらへ絡んでくる人はいなかった。


「あの人達は?」


 宿へ入り、各自部屋へ入る支度をしていると、華鈴が小媛に尋ねているところだった。


「ほとんどが玉修門と関係がある門派です。色々事情があって完全に仲がいいというわけではないのですが……」

「どういうこと?」

「実は……あれらの宗派はみんな、玉修門から分派した門派だそうです」

「そうなの?」

「はい。往生寺は魔道系の仏教門派で、元々仏門で生まれ育った女性が玉修門で修行したのち、開祖となったそうです」

「魔道? 玉修門で修行してたのに魔道に堕ちたの?」

「堕ちた、というより、悟ったというほうが正しいかもしれません」

「何を?」

「曰く……仙道は世俗に寄りすぎている。真に清浄なる世界で修行をしたいと。

 そして、元居た仏門に一時戻って修行していたそうですが、そこで『死』について何かを悟ったらしく……」

「それで、門派の名前が『往生寺』なの?」

「そういうことになります」

「へぇ~」


 小媛の説明に感心する華鈴。そして、小媛は話を続ける。


「次に魔蓮宗ですが、こちらは名前にあります通り魔道の門派ですが、その性質は従来の魔道門派とは大きく違います」

「違う?」

「はい。通常、魔道は欲望を肯定し、力を求める傾向にありますが、魔蓮宗は魔道でありながら戒律を重視する門派で、所属する者は皆、宗徒と呼ばれているそうです。宗則も独自のもので、修行内容も特殊なものが多いとか……」

「特殊なの? どんな?」

「う~ん……例えば、『他者への依存を断ち切るための孤独修行』とか?」

「孤独修行ってどんなの?」


 その時、如姫大長老が口を開いた。


「確か、霊山に登り、そこで何年も過ごすというものだったはずよ」

「え? 閉関(へいかん)修行ということですか?」

「ええ。ただし、閉関期間中の全ての食糧を事前に準備しなければならないという条件つきだけど」

「準備? それを運び込むのも一人で、ということでしょうか?」

「そうみたいよ。自分の食糧はもちろん、仮設の家屋や寝具まで……」

「でも、途中で足りなくなったりしたらどうするのでしょう?」


 華鈴の疑問に、如姫大長老は首を横に振る。


「さあ? 私はそこの門弟ではないから知らないわ」

「そうですか……」

「まぁ、そういう特殊な修行を積む門派よ、魔蓮宗は」


 如姫大長老の話に、華鈴だけでなく小媛も驚いた顔をしていた。その様子を見て、凡吉は自分の知らないところで他の門派にはいろいろあるのだと実感した。


「それでは、玉清宗は?」

「玉清宗は、元々玉修門の門弟であった者が独立し、別派としたものよ。特徴としては、男女共学を行う門派であることね」

「男女共学?」

「ええ。玉修門と同じく仙道を修めるけれど、そこに男性も加えて修行させる宗派よ」

「なるほど……」


 華鈴は興味深げに頷くと、さらに質問を続けた。


「他の門派は、玉修門とどのような関係があるのです?」

「強いて言えば、友好関係にあるということくらいかしら?」

「そうですか……」


 そして、如姫大長老は玉修門の人達に向かって言った。


「さ、早く休みましょう。明日はいよいよ、北東山古跡入城の日よ」

『はい』


 こうして凡吉達は自分達に割り当てられた部屋に向かい、夕食までの時間を潰すことになった。

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