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北東山古跡へ入城

 翌日、凡吉達は朝早くに宿を出ると、北東山古跡の正面に位置する広場にやってきた。

 そこには既に多くの人達が集まっており、各々が自分の知り合いと話していたり、あるいは談笑していた。中には鍛錬をしている者もいる。


「これって……」

「ええ。今日は古跡に入城できる日ですから」


 華鈴の呟きに、小媛が答える。


「そうよね、そうよねっ!」

「楽しみですか?」

「もちろん! だって、ずっと憧れてたんだもの!」


 華鈴は胸を張って答える。

 どうやら彼女にとって、古跡探索というのは特別な意味を持っているらしい。

 それからしばらくして、ようやく開門時間が訪れたようで、周囲に鐘の音が響き渡った。そして、巨門がゆっくりと動き始める。


『おおっ!』


 周囲の見物客たちが歓声を上げる。

 そのざわめきのなか、如姫大長老は古跡に入る五人に聞こえるように言った。


「いい? 古跡には練気境円満以下の修練者が入れるわ。

 入城する時は、かならず玉牌を肌身離さず持っていること。

 そして、古跡の門は約一週間で閉門するから、それまでに必ず外に出てくること。いいわね?」


 彼女の言葉に、その場にいる誰も思い思いに肯定の返事をする。

 そして、門が完全に開ききったタイミングで、周囲の人々は駆け足で入城した。

 凡吉達もそれに続いて城門へ向かう。

 門が開く間際に凡吉は広場の方を振り返ったが、そこには即席で作られた町の人々と、それぞれ随行で来ていた門派の人達で溢れかえっていた。

 おそらく、彼らは自分達が出てくるまでここで生活するのだろう……最低でも一週間は。

 それを考えると、少し申し訳なくなるが……これが、古跡探索というものなのだろう。


「さあ、行きましょう」


 華鈴を先頭に、凡吉達は門を潜った。

 入城してすぐの場所は広場になっており、その中央には直径十メートルほどの石製の塔のようなものが存在していた。

 そして、その四方には階段があり、上のほうはトンネルのようにくりぬかれた空間があった。

 そして、広場の周囲は広々とした森林や山岳、林野が広がっていた。

 遠くには、古くなって朽ちかけた建物などが軒(のき)を連(つら)ねている。何百年、或いは何千年と放置されて朽ち果ててしまった、文明の残骸のようなものだ。


「すごい……」


 華鈴は、その壮大な景色を見て息を飲んでいる。凡吉も同様の反応を示していた。

 これほどの規模の遺跡を実際に目にするのは初めてのことだったので、正直驚いている。同時に、この場所がどれほどの歴史を持っているのか想像するだけでワクワクしてきた。

 周囲の木々は生命力に満ち溢れており、まるで大地と一体化しているかのようだ。


「さ、早く行くわよ!」


 華鈴がそう言って歩き出したので、凡吉達も慌ててその後を追う。

 その時、何者かの怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい! これは俺達が先に見つけた宝なんだぞ!」

「ふざけんな! そんな証拠なんてどこにもないだろ!」

「黙れ! こっちの方が先に見つけたんだよ!」

「どっちが先だなんて、わかるわけねぇだろうが!」

「いい加減にしろ!」

「うるせぇ!」


 言い争っているのは複数の男達だった。どちらも歳若く見えるが、その目は血走っている。

 どうやら互いに譲れない何かがあるようで、今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気だ。


「始まったわね」


 その様子を見て、ハルがボソッと呟く。勝美や貴燕も頷く。


「どういうこと?」


 華鈴が尋ねると、ハルが答えた。


「こういう遺跡探索では、よくあることよ。財宝を奪い合うの」

「う、奪い合う?」

「ええ。特に、この北東山古跡みたいな古い古跡には、貴重な財宝が隠されている可能性が高い。

 この古跡は、少なくとも百年以上前にとある強者が作り出した洞天で、ほとんどの財宝は今日に至るまであらかた持ちされてらしいけど、アイツらが奪い合っているものみたいに、まだ発見されていないものもあるの」

「そういうことね……」


 華鈴は納得したように頷く。


「とりあえず、私達も探しに行きましょう」

「そうね」


 華鈴の言葉に全員が同意し、凡吉達は奥へと進んでいくことにした。途中、何度も同じような光景を目撃するが、構わず探索を続ける。

 そして、とある山岳の山頂に建物があるのを発見し、荒く掘られた階段を上ってその山岳の頂上にたどり着く。

 そこは広い空間になっており、中央に神殿のような建物があった。その周囲には石像が並んでいる。


「何かしら、ここ……」

「確か、修練塔と呼ばれる場所です」


 貴燕が答えた。


「修練塔?」

「はい。あの神殿にある祭壇に触れると、意識世界に飛ばされるそうです。そこで、その修練者に見合った功法が手に入ると言われています」

「本当?」

「ええ。ただ、個人の希望通りの功法が必ずもらえるわけではなく、その修練者に適した功法が授けられるだけなので……あまり期待しない方がいいかと」

「そう……残念ね」

「まあ、確かに期待外れだと思いますが、それでも役に立つ功法も多いようですし……試してみませんか?」


 貴燕の提案を受け、華鈴は『そうね』と言ってスタスタと神殿に入った。

 凡吉達も彼女に続いて神殿に入ると、中は思ったより広く、中央に祭壇があった。

 華鈴はすでに修練している者達に混じって座禅を組む。

 その時、勝美が口を開いた。


「ハル公主」

「なに?」

「私は他の所に行ってきます。集合場所はさっきの広場でいいですよね?」

「…ええ、いいわ」


 ハルがそう言うと、勝美は『それじゃ』と言ってその場から立ち去る。

 貴燕の方も同じ意見で、その場から立ち去った……勝美とは反対の方向に……仲が悪いのに、行動だけは息ぴったりのようだ。

 そんな二人の背中を見送った後、ハルが口を開いた。


「さて、何を手に入れるんでしょうね?」


 そう言って、華鈴の方を向く。彼女はまだ修練中だった。ハルは言った。


「しばらく待ってみましょう」

「はい」


 しかし、そうは問屋が卸さなかった。


「お前が凡吉か?」


 その声に凡吉が振り返ると、数人の男達が徒党を組んで彼の前に立ちはだかっていた。


「……はい」

「俺達は天雲門だ。ウチの門徒が世話になったな。ちょっとツラ貸せ」

「なによ、アンタ達――」

「分かりました」

「凡吉っ!?」


 ハルの言葉を制して、凡吉は彼らと一緒に修練塔を後にする。

 彼らが何を考えているのか、凡吉には手に取るように分かる……自分を殺そうとしているのだ。

 だが……幸い、自分と同等の境地の者はおらず、ほとんどが格下だ。問題はないだろう。

 凡吉が黒杖を突きながら男達と共に下山し、自然豊かな森林の人気のない場所まで来ると、男達は凡吉に向き直る。

 そして、先頭に立っていたリーダー格らしき大男がニヤリと笑った。


「ここなら誰にも聞かれねぇな」


 大男の言葉に周囲の男達が頷き合う。そして、次の瞬間、いっせいに武器を抜いて凡吉に向かってきた。

 凡吉は黒杖の柄を逆手に持ち――素早く抜刀する。同時に、黒杖から放たれた斬撃と『雷霆神功』による雷気が、男達の体の部位を切り落としていった。

 そして、続けざまに繰り出された第二撃で、リーダーの首を切り落とす。一瞬の出来事だった。

 凡吉は刃についた血糊を払ってから黒杖を再び仕舞うと、後方に振り返る。


「……なにか?」

「……」


 そこには、凡吉達の一連の動きを見届けていた一人の少女がいた。彼女は両手を胸の前で合わせると、深呼吸をしてから口を開いた。


「す、すごかったわ!」


 その瞳はキラキラと輝いている。

 凡吉は思わず後ずさった。なぜなら、目の前の少女からは圧倒的なまでの狂気を感じ取ったからだ。

 普通、目の前で殺人が起きたら逃げ出すだろう……いや、この世界の常識からすれば、日常茶飯事なのだろうか?

 凡吉は警戒心を抱きつつ、少女の顔を観察した。

 年齢は十三、四といったところだろうか?

 身長は華鈴より少し低い。服装は簡素で地味だが、腰に帯びた剣はかなり高価なものだと分かる。おそらく名工による逸品だ。鞘には精緻な彫刻が施されており、刀身も相当な業物(わざもの)なのだろう。

 その少女は凡吉の視線に気づいたのか、恥ずかしそうに俯(うつむ)いた。


「あの……あなたはどなたですか?」

「私? 私は血魔教の晩(ばん)蓮児(れんじ)よ!」

「血魔教……」


 凡吉は内心舌打ちをした。

 また厄介な相手に出くわしたものだと嘆きながらも、表面上は平静を装う。


「それで、僕になにか……?」


 凡吉の問いに、少女は嬉しそうに目を輝かせて答える。少女は興奮気味に早口でまくしたてた。


「私、雷術を使う人初めて見たの! しかもあれほど速い斬撃なんて! どうやって習得したのっ⁉ 」

「あー……えっと、その……」


 凡吉は困り果ててしまう。

 まさか、自分が異世界転生者だなどと言えるはずもない。

 それに、目の前の少女はどう見てもただ者ではない雰囲気を纏っている。下手に刺激すればどんな反応を示すか分からない。

 だが、ここで無下にするわけにもいかなかった。もし機嫌を損ねれば、最悪の場合、敵に回してしまう可能性がある。そうなれば面倒極まりない。

 そこで、凡吉はこう提案した。


「とりあえず、一緒に来ませんか?」


 少女はパッと顔を明るくさせると、大きく首肯した。まるで散歩にでも行くような気軽さだ。

 こうして、二人の奇妙な旅が始まった――。

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