二回戦
審判を務める曼玲堂主による判定によって試合終了となり、ようやく皆我に帰ったようだった。中には未だ信じられないという表情をしている者も多い。
吹き飛ばされた黄鷹は、口から血を流して気絶していた。胸には、クッキリと凡吉の一撃の跡が残っている。
すぐさま玉修門の医員が駆け付けて彼を診るが、内臓破裂と肋骨骨折という診断が下された……死んでいないだけマシだろう。
「じ、次鋒! 次鋒を出すのだ! 何をしておる!」
王寿山大長老の言葉に急かされ、慌てて新たな挑戦者が舞台へ上がってくる。
今度は痩身の剣士だった。名を陳明というそうだ。
全身から殺気を漂わせており、先程までの茶番劇とは打って変わって本気で殺しにかかってきそうな雰囲気だ。
それを見て取った凡吉もまた覚悟を決めなければならないと思い、黒杖を握る左手にも力が入る。
ここからは生死を掛けた真剣勝負となるだろう。先ほどまでの子供の喧嘩とは全く違う次元での戦闘になるかもしれないという予感がした。
(油断せずに行こう……)
心の中で自分自身に言い聞かせながら、精神統一を図る……そして遂に第二戦が始まることになる。
凡吉は左手に持った黒杖を握りなおし、息を整えた。
「名乗る必要は無さそうだな……行くぞッ!!」
相手の男――陳明はそう言って、いきなり剣を抜いて斬りかかってきた。
――その速度は尋常ではなく一瞬にして間合いを詰めてくると鋭い斬撃を繰り出してくる。どうやら、寸止めをする気はないらしい。
凡吉はすぐに反応して、後方に跳躍しつつ距離を取りながら回避行動を取る。
しかし、それでも避け切れずに左肩口に浅い切り傷が生じてしまった。咄嵯に涅槃経を使って止血し、それ以上の追撃は許さない。
反撃の機会を伺いながら、隙を探していく作戦に出ることにする。すると案の定、相手にも焦りのようなものが見え始めたため、好機と見て一気に攻め込むことに決める。
今度はこちらから仕掛ける番だとばかりに、相手の懐深く踏み込み込んで接近戦に持ち込むと、そこで渾身の一撃を放った。
「くっ……!」
苦痛に耐えつつ辛うじて防御姿勢を取る相手だったが、完全に防ぎ切ることはできずにダメージを受けてしまう。
凡吉は続けてさらに攻撃を加えるべく、連続攻撃を浴びせ掛ける。
黒杖で相手の攻撃をしのぎ、素手で相手に攻撃する……玉修門や天雲門には、自分が飄雲派と覇雲派を壊滅させたことを悟られてはいけない。ゆえに、戦い方も工夫する必要があったが、これが意外に難しい。
先ほどのように油断した弱者が相手ならばまだしも、相手は初めから殺気に満ちた手練れだ。
それを相手に、殺さないようにうまく立ち回って勝利するというのは、ただ単に人を殺す事とは違う苦労を感じる。少しでも力加減を間違うと、殺してしまう可能性もあった。
殺してしまったら、自分の評価はもちろん、由緒正しい正道名門派である玉修門の名にも傷がつく……それは、凡吉にとって比武で負けることと同義だった。
そういう意味では、今の凡吉は、既に自分の実力以上のものを求められているに等しい。
それでも凡吉は諦めない――ここで負けてしまっては全てが水泡に帰してしまうことになるのだから――そう思うことで必死に奮闘していた。
(……そこっ!)
凡吉は陣明の一瞬のスキを突き、彼の顎に逆手に持った黒杖で二発当てた。
「うっ⁉」
脳震盪を起こした陣明は、そのままその場に倒れ込む……しばしの静寂の後、曼玲堂主が宣言した。
「勝者、凡吉っ!」




