一回戦
曼玲堂主の一言によって空気が一変し、張り詰めた緊張感が辺り一面に広がる。
凡吉も心臓の鼓動を抑えつつ集中力を高める。黄鷹は最初から全力を出すつもりなのか、大きく息を吸い込み、気勢を上げる。
「喰らえっ‼」
黄鷹は両掌を広げて攻撃態勢に入った――。
「泰山轟雷掌っ‼」
それはまるで地鳴りのような轟音とともに強烈な衝撃波となって凡吉へ襲いかかる。
大地を揺らし、周囲の石畳さえも砕き散らす恐ろしい威力を持つ技だった。その迫力たるや圧倒的で、普通ならば避けることすら困難だろうと思われた。
だが次の瞬間――驚愕すべき光景が目に飛び込んできた。
凡吉は何とその場から一歩も動かず立ち尽くしていたのである。しかも表情には一切動揺すら見えない。そしてついにその時は訪れた……。
――地面全体が激しく揺れ動き、粉塵が舞い上がり視界を覆うように広がっていく。
「何っ⁉」黄鷹は驚愕する。
「ほう……これは……」
曼玲堂主は感心した様子を見せ、黄鷹の顔が青ざめ、その場に硬直する。
煙の中から現れたのは、ほとんど無傷で佇む凡吉だった。わずかに袂が汚れている程度で、呼吸一つ乱れていない。
「バカなっ⁉ 泰山轟雷掌だぞっ⁉ そんじゃそこらの町娘なんかに防げるわけがねぇ!」
黄鷹は、自慢の得意技をいとも簡単に破られたことに、心底驚いているようだった。
あまりに堂々としている凡吉に、改めて気圧されたのか、次第に後ずさっていく。
「なぜだ……一体何故……⁉」
(この男、散々喚き散らして『コレ』か……)
凡吉は『いや』と自己否定し、考え直す。
(たぶん、『諸天万界』のおかげだ。コレはこの世界の法則には当てはまらない、もしくは別の法則として扱うべき力……)
凡吉は興奮気味に拳を握り締める。
(だが、今はまず目の前の相手を倒さなきゃ…)
そう思い直した彼は意識を切り替えて再び黄鷹へ向き直る。
するとそこにはまだ驚愕したまま固まっている男の姿があった。どうやら完全に混乱状態に陥っているらしい。
このチャンスを逃すまいと思い、すぐに行動に出ることにする。
――素早く距離を詰めて、懐へ潜り込むと同時に腹部目掛けて強烈な一撃を叩き込んだ。
「ぐふっ!」
鈍い悲鳴と共に巨体が吹き飛ばされるように宙を舞う。そのまま比武台を飛び出して壁際まで転がっていく様子を見届けた後で、凡吉は改めて曼玲堂主に視線を送った。
「曼玲堂主、相手は気絶しているようです」
冷静かつ丁寧に報告する少年に対して、驚きの声があちらこちらから上がる。
「……勝負あり! 勝者、凡吉!」




