二度目
(さてと……)
凡吉は門番の魂魄――いわゆるステータス的なものを確認すると、『龍神眼』の効果で彼を絶命させた。同時に、その遺体と武器を貯蔵塔に収納する。
そのまま素早く支部内に潜入し、一人でいる弟子を見つけては次々に殺害と収納を繰り返す。同時に、覇雲派の持ち込んだ宝物や生活用品に至るまで、ほとんどの物品を貯蔵塔に収納する。
――そして……未だに事態を察知していない覇雲派掌門人、万来安はノックが鳴らされて『入れ』と言う。
現れたのは、覇雲派の長衣を来た弟子だった。彼の盆の上には、淹れたてのお茶がある。
万来安は事務作業しながら、その弟子から渡された茶碗を手に取り、すする。
「ほう、いい茶だ。どこで手に入れた?」
「たまたま茶葉を扱っている旅商がいたので、一番いい茶葉を買いました」
「ほう……」
弟子が淹れてくれた茶は、事務作業や飄雲派の件の調査で忙しかった来安にとっては、まさしく至福のひと時だった。その一服で心が洗われていく。
……しかし、異変に気付く。
「……ぐぼぉっ⁉」
万来安は吐血し、イスから立ち上がってそのまま倒れ込む。
「誰だっ? 貴様っ……⁉」
万来安は突然のことに驚き、相手を警戒して立ち上がる。そして、腰につけた剣を抜こうとするが――次の瞬間、弟子の姿をした者……凡吉が一気に近づき、万来安の喉元に『裏切』を突き刺した。
「あ、ぐぅう……き、貴様は何者だ……この私が……いったい……なぜ、こんな……」
「……」
凡吉はうめき声を上げる万来安を、その瞳に宿る生命の灯火が消えるまで、ジッと見据えていた。
万来安は、まるで信じられないような表情を見せていた。自らの死を予感させる最後の言葉が、彼の口からこぼれ出ている。
「ぐぁっ……!」
喉元に深く突き刺さった『裏切』がさらに押し込まれ、万来安の身体は崩れるように床に倒れ込み、最終的には完全に息絶えた。
(ふぅー……これで終わりか。とりあえず、なんとかなった……)
凡吉は深く息を吐きながら、足元に横たわる万来安の亡骸を見下ろす。つい先ほどまでの激しい攻防戦とは打って変わり、今は不気味なほどの静寂が支配していた。
(さて、次は……)
凡吉は周囲を警戒しつつ、建物内にある物品をすべて貯蔵塔に収納し、覇雲派支部を後にした。夕焼けが空を赤く染める中、凡吉は再び闇に紛れて走り去る。
(次は、他の支部だ)
凡吉は覇雲派からの収奪品のうち、地図と資料を取り出し、覇雲派の支部を確認する――幸いなことに、覇雲派は飄雲派と比べて規模を大きくないため、滅門させるのは簡単だった。
※
――翌日の朝、覇雲派が滅門したという話は、帝国中に広まった。当然、その話は覇雲派の上位組織である天雲門・門主の周青雲の耳にも届いた。
「おのれっ!」
青雲は部下からの報告を聞いて、思わず腕を預けていた机を破壊する。彼の力に耐え切れなかった机の脚は折れ、音を立てて崩れた。
「門主……」
「くそっ! 飄雲派に続いて、覇雲派までもが……‼」
青雲の声には深い怒りと焦りが滲んでいた。
飄雲派が滅門され、次いで覇雲派までもが同じ運命を辿ったことで、青雲の心中には黒い煙のように憎悪が立ち込めていた。部下もまた、どう対処すればよいか分からず困惑していた。
「いったい、何が起きているんだ……!」
青雲の呟きは、部屋の中に響き渡る。彼の視線は宙を彷徨い、次なる策を模索するように鋭く光っていた。
しかし、今のところ彼には確かな答えが見つからない。ただ、胸の奥に渦巻く不安と恐れだけが、彼を支配していた。
「飄雲派も覇雲派も、誰かの恨みを買ったのか……? それとも、もっと大きな勢力が動き出しているのか……?」
青雲は深い息をつき、拳を握り締めた。背後では、部下たちが沈黙の中に険しい表情を浮かべている。彼らもまた、今後の展開にどう対応すべきか悩んでいたのだ。
「すぐに情報を集めろ! 何としても、犯人を見つけ出すんだ!」
青雲の命令は鋭く部下たちに伝わり、彼らはそれぞれに動き出した。部屋を出て行く部下たちの背中を見送りながら、青雲は胸の内の不快感を払い除けようと努める。
「どこの誰がやったかは知らんが……必ず、復讐してやる!」
青雲の心は揺らぎつつも、強固な決意だけは崩れることなく、彼自身を支えていた。
それこそが、彼が門主として生き残るために必要なものであり、今や失うわけにはいかぬ武器となっていた。




