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天尊降臨 ~神々の子は諸天万界を旅する~  作者: ポンタ
第二章 丐幇の乞食・乞凡
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乞食として

 数日後――凡吉の姿は玉修門ではなく、北山城の中央通りにあった。

 今の彼は、丐幇・北山城支部所属の乞食『乞凡』として、北山城で覇雲派やそれに関連する情報収集の密命を遂行中だった。

 精華門主とのやり取りの翌日、凡吉はいつも通り走り込みと掃除を終わらせて食堂の厨房に向かったが、王清から『あれ? あんた休暇中じゃないの?』という発言を聞いて、わざわざ本殿近くにある精華門主の居宅まで行き、事情を聞いた。


『昨日下した密命を遂行中の間、あなたは長期休暇ということにしておくわ。雑用の事は心配しないで』


 手短くそう言われ、凡吉は革袋片手に荷造りを済ませて朝早く玉修門を出発し、北山城に到着した。

 その時にはすでに『乞凡』の身なりになっており、門番は露骨に眉間にシワを寄せていたが、凡吉にとっては痛くもかゆくもない。

 その後、彼はお世話になっている丐幇北山城支部とでも呼ぶべき拠点に向かい、乞丐(きかい)に挨拶をしようとする。


「む? 凡吉?」


 運よく、乞丐は拠点にいた。

 彼は乞凡の全身をジロジロと見た後、『ふぅむ……』と考え込む……凡吉はその様子を黙って見つめる。


「お主、今までどこぞで厄介(やっかい)になっていただろう? 北山城での目撃談は無かったことから考えて、恐らく城外……北東古跡がある方の村々か?」

「……そんなところです」

「ふぅむ。まぁ良いだろう。しかし、今は北山城で乞食をするのは危険じゃぞ?」

「なぜです?」


 凡吉の質問に乞丐はため息をついて答えた。


「飄(ひょう)雲(うん)派の奴らが失踪した件は、お主も知っているな?

 その後釜(あとがま)にやってきたのが、天雲門の別の傘下組織である覇雲派じゃ。

 そして、丐幇の情報網によると、どうもこの覇雲派というのは飄雲派よりもタチが悪い。話を聞く限りでは、ゴロツキの集団とほとんど変わらん。それでいて、それなりの功法を身に付けているというのだから、なおのことタチが悪い。

 ワシらのような乞食を見かけたら、何をするか分からん。下手をすれば、命まで取られかねん」

「……」


 凡吉は考える……自分はその覇雲派も含め、天雲門の情報を集めなければならない。

 今、お嬢様は外門堂で修行の日々を送っているが、またいつ外に出てあのような出来事に遭遇するか……そう考えると、凡吉の心中は穏やかではなかった。

 少なくとも、覇雲派に関して何かしらの情報を得られれば、きっと役に立つはずだ。


「乞丐さん。その覇雲派が根城にしている場所は、飄雲派がいた支部ですか?」

「お主、まさか……行くつもりか?」

「……はい。何か恵んでもらえないかと……」


 凡吉のその言葉が嘘であることは、乞丐も長年の経験でよく分かっている。

 しかし、この年若い、謎に包まれた少年を、ゴロツキ共のそばに行かせて良いものか……老婆心が乞丐の口元で唸りを上げる。


「ふむ……危なくなったら、すぐに逃げるんじゃぞ?

 そうでなくとも、不穏な気配がしたなら、もちろん逃げるんじゃ。道中も気をつけてな」

「はい、ありがとうございます」


 凡吉はぺこりと頭を下げて礼を言うと、軽快な足取りで拠点を出ていこうとする。

 しかし、途中であることに気付いた。


「あの……他の方々は?」


 凡吉の質問に、乞丐は答える。


「場内のそこかしこに隠れておる。先ほども言ったように覇雲派の奴らが城内を練り歩いているのでな。おちおち乞食も出来んわい」

「はぁ、なるほど……では、行ってきます」

「うむ」


 そのまま拠点を出た凡吉は、中央通りへ向かった。あそこなら、それなりの情報が手に入るかもしれないし、小腹も満たせる。

 幸い、今の凡吉は風体は乞食だが、功法と称号効果のおかげでその存在を認識されることは無い。運が良ければ、丐幇の他の仲間達からも覇雲派に関して情報を聞き出せるかもしれない。


               ※


――案の定、中央通りは情報の宝庫だった。少なくとも、噂話に関しては。

 凡吉は通りの奥まった路地で胡坐(あぐら)をかき、『天耳通経』を使って通りを行きかう人々、料理屋で話をする人々の会話を盗み聞きする。

 幸運なことに、会話以外の雑音は功法によって抑えることが出来たので、凡吉にとってそれは苦痛ではなかった。

 そして、覇雲派に関していくつかの情報を得られた。

 彼らはやはり飄雲派の支部を拠点にして活動しているようで、北山城において飄雲派が仕切っていた事業のほとんどを継承しているらしい。

 ただ、同時に覇雲派は人員が少ないようで、そのほとんどが他の支部からやってきた者達とのこと。

 そして、派遣されてきた者達の中には、覇雲派の掌門人である万来安もいるそうだ。彼は、支部長も兼任するらしい。


(……)


 彼らがここに来た理由は、飄雲派の失踪事件が原因だろう。本格的な調査が開始されれば、最初に飄雲派の人間が失踪したのが、ここ北山城支部であることは分かる。

 掌門人自ら支部長を務めるということは、やはりこの北山城を中心に調査をするということなのだろう。

 しかし、ここで凡吉は困った。

 これからどうすればいいのか分からない。万来安を直接見てみるべきなのか、それとも飄雲派もとい覇雲派の支部に行って観察すべきなのか、あるいは一度玉修門に戻って門主に報告すべきなのか。


(うーん……)


 しばらく悩んだ後、もう少し情報収集を続けるべきだと判断した。現段階で精華門主に報告するには、情報量が少なすぎる。

 ちょうどその時、路地に二名の男が入ってきた。


「おいおい、なんだコイツは?」

「おっ、乞食じゃねぇか。こりゃいい、おもしれぇオモチャが見つかったぜ!」


 二人の男は明らかに酔っており、一人は大きな斧を担いでいる。もう一人は剣を持っており、その長衣を見る限り、どこかしらの門派に属しているようだが……凡吉はすぐ、その門派に思い当たる。


(覇雲派……)


 北山城周辺で、男が入門できる門派はそこしかない。

 あるいは、門弟(もんてい)を装ったゴロツキかもしれないが、今はそんなことなどどうでもよかった。彼らは凡吉を見てニヤニヤと笑い、寄ってくる。


(ちょうどよかった……)


 凡吉は立ち上がり、哀れな二人の犠牲者に歩み寄っていった……。

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