体質
最初は、その言葉の意味が分からなかった。
しかし、玉修門の診療堂からやってきた医員が言うには、僕の経絡はすべて機能しておらず、あるべきはずの丹田がないとのことだった。
それを聞いて泣き崩れた義母上の姿は、今も目に焼き付いている。
「虚無……」
僕がボソッと呟いた言葉に、医員の女性――江陽媛は静かに頷いた。
「そうね。私も初めて見る体質だけど……名付けるなら、虚無体質といったところかしら……」
その後、陽媛さんと義母上はなにか話し合っていたが、僕は窓の外を見てボーッとしていた。
翌日、いつも通りに雑務をしていると、すでに僕の虚無体質の事が知られていたようで、好意的な者達からは同情され、嫌悪していた者達はその思いをさらに強くしていた。
だが……僕は体が動くようになってから、一つだけ誰にも言っていない秘密がある。
(……)
それは、前世で得た知識を活用して玉修門を観察し、そのすべてを模倣することだった。
早朝は誰よりも早く起きて門内や山道をランニング。
それからは外功の修練を掃除しながら観察し、内功の修練があると分かればそちらも観察し、皆が寝静まった深夜にそれらの修練に励んだ。
診療堂や煉丹房、煉器房、符術房での雑務があれば、内心喜んで引き受けた……そう、『技術は見て覚えよ』の言葉を実践したのだ。
しかし……その努力は実らなかった。正確に言えば、内功を修練することが出来なかった。
修練している最中に、練った源気は塵の如く消え失せる……そんなことを、幾度となく経験した。
その事実は、この世界において致命的な出来事だったが、得たものもある……毎日のランニングと自重トレーニングによって鍛えられた肉体と、盗み見た功法と各種技術である。
かつての僕なら、内功が修練できないことを悲観して部屋から出ることも出来なかったろうが、この世界に来てから、どこか自分の事を第三者的な視点から見ているような感覚がして、そのおかげか、あまり悲観しなかった。
それどころか、僕は以前よりも前向きになり、いよいよ雑務の最中も修練する方法を思いつき、それを実践していた。最初は変に思っていた周囲の人々も、心を患っている僕がやっていることだからと、すぐに関心を失くしていった。
そして……忘れもしない、あの日がやってきたのだ。




