玉修門は、やるときゃ、やる
「私は玉修門の外門堂・堂主、王曼玲である! 至急、支部長殿に面会したい!」
凡吉がその声に反応して飄雲派の支部に目を向けると、そこには王曼玲を筆頭に外門堂の護法や師範代、果てには執法堂の護法や執法までいるではないか。しかも、全員馬に乗って。まるで戦争でも始めそうな勢いだ。
支部からは飄雲派の弟子達がぞろぞろ集まってきて、何やら騒ぎ立て始める。その人ごみの中には、雷震の姿もあった。衣服が乱れているのと表情から察するに、未だに恐慌状態の様子だ。
「ぎょ、玉修門が何の用だ!?」
雷震が威嚇するように問うと、曼玲は落ち着いた様子で、しかし怒りを露わにしながら、静かに言った。
「とぼけないで。あなた達、中原帝国の公主様とその侍従達を襲撃でしょ?」
「な、なんのことだ⁉」
雷震は明らかに狼狽した。それを聞いた周囲の人々も、同様に騒ぎ始める。
(結局、こうなるのか……)
凡吉はため息をつきながら、雷震を見る。
雷震が狼狽しているのを見て、曼玲は冷たい笑みを浮かべて剣を抜き、雷震の首筋に刃を当てる。
「とぼけても無駄よ。既に調べはついているんだから」
「や、やめろ!」
「あなたがすべきことはたった一つ。凡吉という使用人を解放することよ」
「そ、そんな名前の者はいない……!」
「……そう?」
曼玲が氷のような表情を浮かべると、それに恐怖を感じた雷震は反射的に叫んだ。
「どうせあの根暗な小僧だろうっ!? あいつのせいで、俺様も、俺様の子分達もやられたんだ! お互い様じゃねぇかっ!!」
「ふざけないでっ!」
――曼玲は一喝する。
「街道には凡吉どころか、あなた達の弟子達も見当たらなかった……おおかた、公主様を身を挺して庇った凡吉を捕らえたのでしょう? さっさと解放しなさいっ!」
「だからっ! 知らねぇって言ってんだろ!?
あんたら、由緒正しい門派だろうがっ!? あんたらこそ、あんな怪物放っておいていいのか、あぁん!!?」
雷震が悲哀を漂わせるほどの虚勢を張っていると、通りからまた一人、馬に乗った女性が現れた。しかし、彼女のいで立ちを見るに、どうやら玉修門の者ではないようだ。
彼女は玉修門の者達の間を丁寧に礼を言いながらすり抜け、曼玲の横に並ぶ。
「あなたは?」
曼玲が尋ねると、少し日焼けしているその女性は答えた。
「『大山緑龍』の配下の者です。そちらは、玉修門の方々ですね?」
『大山緑龍』……その単語が聞こえた瞬間、周囲のざわめきはさらに激しくなった。女性は雷震に視線を向けて言った。
「『大山緑龍』からの伝言です。凡吉を解放して生き永らえるか、北山城ごと消滅するか、選べと……」
「だから……」
雷震はもはや精魂尽き果てた様子で言った。
「あいつのことなんて知らねぇって言ってんだろ!!? 俺様達はっ、俺様はっ! あいつのせいで人生めちゃくちゃだっ!!」
その様子を見て、曼玲とその女性は目を合わせる。
「どう思います?」
「……嘘じゃなさそうね」曼玲はそう言って馬の方向を変える。
「今から班に分ける。
まずは、凡吉の捜索を担う班。
次に北山城城主に今回の事を知らせる班。
さらに、玉修門に現在の状況を伝える班よ」
曼玲は続けて名前を呼んで三つの班を編成した後、彼女自身は城主に会いに行く班の班長となってその場を後にした。
女性はその光景を目撃した後、雷震に向かって冷徹な声色で言った。
「嘘をついているようには見えませんが……あなたが凡吉を襲ったのは事実です。
もし、『大山緑龍』の縄張りに入ることがあれば、そのことを思い出してください」
「っ!」
脅迫が効いたのか、何も言えずにいる雷震と飄雲派の弟子達をしり目に、女性も馬の手綱を器用に操ってその場を後にした。
雷震達は、今日は厄日だとかなんとか言いながら、支部の中に戻っていく……その光景を見ていると、凡吉は後ろから声を掛けられた。
「とんでもないことになったのぅ……」




