飄雲派の情報
街道を歩いている間、凡吉は飄雲派の事について考えていた。
(……雷震との一件、放置しておくのは危険だな)
飄雲派という門派がこれほど無法を働いている以上、今後も玉修門や他の門派とトラブルを起こす可能性が高い。
それに雷震は自分が仕えている主人が直接対決した相手だ。復讐を企てる可能性もある。
(……やるしかないか)
凡吉は決意を固めた。
彼は北山城の城門を通り抜け、少し賑わいが落ち着いた市場で飄雲派について情報収集する。凡吉の聞き込みによって得られた情報は以下の通り。
飄雲派は天雲門に属する勢力の一つであり、帝国の各地に五つの支部がある。
北山城の支部は、南正門通りの一角にある楼閣とのこと。
総人員は不明だが、最低でも約百名の弟子が在籍しているらしい。ちなみにこの数字はあくまで表向きの人数であって実際にはもっと多いのではないかとの噂。
飄雲派は頂点となる掌門人の下に各支部を取り仕切る支部長が五人おり、その中でも筆頭格と呼ばれる男が最も危険視されているとのこと。
その男の名前は郭凱と言い、飄雲派内でも飛び抜けた実力を誇る人物なのだそうだ。おまけに、この北山城の飄雲派支部は、その郭凱が支部長だという。
(なるほどね……)
凡吉は得られた情報に満足し、今度は客桟――それも、少し治安の悪そうな所に出向いた。
あのようなアウトロー達の情報を得るには、こういった場所が的確だろう。
凡吉は適当な席に着き、給仕の丁稚に料理の代金とは別に銀貨を渡して、飄雲派について調べて欲しい旨を伝えた。
丁稚は『かしこまりました』と声を潜めて立ち去った後、料理を運んできた。
凡吉がそれを食べ尽くして水を飲んでいると、まるで見計らったかのように知らない男が一人やって来て机越しに凡吉に話しかけてきた。
「小僧、何を探っているんだ?」
凡吉は男の問いに正直に答えることにした。
「飄雲派について……色々と気になるもので……」
「そうかい……それで? おめぇは何者だ? 俺の勘じゃあ只者じゃないと見えるが?」
「……」(なかなか鋭いな)
凡吉が考えていると、男は言った。
「まぁいいさ。どうせすぐにわかるだろうしな」
そういう男は凡吉の肩にポンと手を置くと言った。
「飄雲派に一泡吹かせたいってんなら、今が好機だ。
ここの支部長は今、実力者達を引き連れて隣の風鈴城にいる。
今、この北山城の支部にいる奴らで実力者は雷震って奴なんだが、ちょっと前に弟子達を連れて行って、帰ってきた時には奴一人だけだった。
血相を変えてたところを見ると、誰かに因縁をつけた挙句、返り討ちに遭ったんだろうな」
「……」
「小僧が何者か知らねぇが、俺達――いや、俺も飄雲派の連中には散々煮え湯を飲まされてきた……誰かが、奴らにお灸をすえてくれると留飲が下がるってもんよ」
「……なるほど。色々と教えて下さってありがとうございます」
凡吉は男に礼を言うと席を立った。
彼の姿が扉の向こうに消えると、先ほどの丁稚が男に近づく。
「…この辺りでは見ない顔ですね。調べますか?」
その言葉に、男はフッと笑みを浮かべて答えた。
「いや…あの目、覚悟が決まってる奴の目だ。下手に関わって痛い目を見る必要はねぇ。それに、ウチのしきたりも分かってたみたいだしな」
そう言う男の視線は、凡吉が机の上に置いていった銀貨に移る。
「一見の奴らはたいてい、俺達『下汚門』を下に見てまともに金も払わねぇが、あの小僧は違う。それどころか、相場よりも多めに金を出しやがった…アイツよりも、アイツに目をつけられた飄雲派の方を見張ってた方がいいだろうな」
「分かりました。そのように手配します…」
そして、二人は客桟の騒々しさに溶け込むように姿を消した。
一方、そのような組織と関わっていたとは露知らずの凡吉は店を出ると、そのまま飄雲派の支部へと向かうことにした。道中、先程の男に言われた言葉を反芻する。
(今がチャンス……か)
凡吉は飄雲派について調べていくうちに、いくつか気になる点を見つけ出していた。その一つが門派内の派閥争いだ。
飄雲派は一枚岩ではない。飄雲派内にいる五人の幹部は各々自分の派閥を作っているらしく、互いに牽制しつつ、勢力争いをしているらしい。また、その中でも特に激しい対立を繰り広げているのが郭凱と雷震だというのだ。
雷震は天雲門の長老の身内らしく、郭凱と対立している支部長の弟だそうだ。
一方の郭凱は叩き上げで支部長まで上り詰めた強者……そのうえ、雷震は粗暴な性格に無能というので、いつまで経っても支部長にはなれずにいた。両者が対立するも、無理からぬことだ。
※
(――さて、どうしたものかな)
時刻は現在に戻る。
凡吉は北山城南正門通りの楼閣――飄雲派の支部を見つけ、その建物から少し離れた路地から、敗走した雷震が支部に入っていくのを目撃した。
支部は三階建てで、広さは凡吉が住んでいる小屋の十倍以上はあるだろうか。朱塗りの柱と瓦屋根が美しく調和しており、荘厳な雰囲気を醸し出していた。
入口には大きな扁額がかかっており、そこに「飄雲派」と書かれている。その扁額を守るように二人の門番が立っていた。
凡吉は路地裏の影に隠れながら、貯蔵していた『帰魂香』を『諸天万界』の権能の一つである『聚魂塔』に収められている飄雲派の弟子達にすべて使った――途端に、凡吉の脳裏に彼らの記憶が投射される。
郭凱と雷震の確執……婦女子への暴行に商店へのカツアゲ……やはり、飄雲派というのは、門派という看板を掲げたならず者の集団のようだ。少なくとも、この北山城の支部に関しては……。
凡吉は、用済みになった魂を別の権能『精錬塔』へ送り、消滅させた。代わりに、精錬塔に精錬値が溜まっていく。
今ので、支部の間取りや人間関係の状況は手に取るように分かった。あとは機会だが、とりあえずは先ほどの男の言葉を信じて、今日の深夜に決行することにした。
そのため、凡吉はそのまま路地裏の物置き場の中で山賊達から奪った着物を着て、頭部に予備の着物を加工して作った長尺手拭を巻きつけ、まるで浮浪者か乞食のような風体になって、その時が来るまで修練と『諸天万界』内の整理に集中することにした。




