誕生
ここは地球と同じような惑星――その中央辺りにある、ひときわ大きな大陸……人呼んで東亜大陸には、古来より隆盛と衰退を繰り返してきた歴史のある中原帝国という勢力がある。
勢力というのは、規模や実力に応じて階級が分かれている。
一番小さい勢力である派。派がまとまる、もしくは派の本家となる門。
その次に宗と、それらが集合した府。その後は都、国、帝国となっている。
つまり、中原帝国は勢力で言えば最高峰の勢力ということになる。
しかしその歴史は非常に血生臭いもので、その生い立ちも一概に良いものとは言えない。
すでに帝国を興した勢力はこの世になく、残っている勢力は『中原帝国』という存在のために日々しのぎを削っているようなものだ。
そんな帝国の北西には、他の帝国との国境線となる山脈――盤山山脈があり、中原帝国側の麓には女性だけで構成されている門派――玉修門がある。
そして、僕はその玉修門で唯一の男性かつ唯一の役職である『使用人』に転生した。そう、『転生』したのだ。
『哀れよな……』
前の世界で、地元の廃れた神社でこの世から去りたいと願った瞬間に意識を失い……目覚めた時に言われた最初の言葉と、その言葉を放った女性……今となっては、僕にとって大恩人である彼女だが、当時の僕は完全にパニック状態になっていた。
だが……不思議なことに、自分が赤ん坊の姿で転生したというのは理解できても、体は思うように動かせなかった。
赤ん坊だから当然だろうとも思うがそうではなく、全身がマヒしたような、そんな感覚がしたのだ。
しかし、頭の方はいわゆる前世のままであり、人々の会話を聞くことは出来た。僕が自分を取り巻く状況を理解出来たのも、そのおかげだ。
だが体の方は……一向に、思うように動かせなかった。
幸いなことに、五歳になる頃には同年代の子供と同じぐらいに日常生活を送ることが出来たが、それでも一日の大半をぼんやりして過ごしていた。言葉は良くないかもしれないが、軽い廃人状態というものだったのだろう。
残念ながら、僕が今いるこの世界には、まだ国民皆保険制度もなければ精神医学という学問も存在しなかった。
そんな世界でそのような状態で生活しているうち、気付けば僕の名前は『凡吉』となり、心と体を患っているということになってしまった。
しかし、そんな状態の僕を、玉修門の人達は暖かく迎え入れてくれた。
その中でも特に良くしてくれた人が、僕が最初に出会った女性――玉修門の太上長老である艶香蘭だった。
彼女曰く、僕は彼女が渡劫した際に天劫の雷と共にこの世にやってきたらしい。
そんな馬鹿なと一笑に付したくなるが、実際にこの世界では人がタネも仕掛けもなく空を飛んだり、岩を砕いたりするのだから、まぁ……そういうものなんだろう。
とにかく、彼女――義母上は僕が自分と縁のある存在だと思っているようで、そんな僕を養子にし、惜しみない愛情をもって育ててくれた。
しかしこれが、玉修門の一部の人達にとっては面白くなかった……義母上は太上長老――つまりは玉修門で一番偉くて、一番強い人だ。
僕がこの世に来るまで修練一筋だったらしく子供もいないため、その分の母性も僕に注いでくれたのだろうが、門派の実力者が修練もせずに半ば廃人同然の人間を何年も養っているのは、この世界の人々や玉修門の人達には受け入れがたかったのだろう。
玉修門は、男の弟子を取らない……では僕をどうするのかということで、義母上と門主、長老達はかなり激しい議論をしたようだった。
そして、最終的に僕は玉修門で唯一の役職である『使用人』となった。




