始
「あなた……よくもやってくれたわね……」
この世の果て――人間の言葉で言えば天上世界において、二柱の女神とそれを取り囲む神々の姿があった。一方は膝から崩れ落ちて涙を流しており、その顔は憎悪に歪んでいる。
「これは異なことを……姉上も、私の子に同じようなことをしたではありませんか?」
もう一方の女神は勝ち誇ったような笑みを浮かべているが、どこか卑屈な態度が窺い知れる。その二柱を中心に、取り巻きの神々は二項対立というハッキリとした構図の中で相対していた。
そして、二柱の女神の中心にある螺旋を描く渦の中には、一つの光景――現世が見えた。
そこには、たった今、境地を突破した女性と、たった今、その世界に生まれ落ちた赤ん坊の二人が映っていた。
「……残念ながら、一度生命として誕生した以上、あの子は手遅れかと……」
「……ええ、分かっています」
近くに控えていた女神に言われ、崩れ落ちていた女神は涙を拭って凛々しくも険しい表情で相手の女神に言った。
「この事は……決して忘れないわ」
「奇遇ですね。私も、あの日の事を昨日の事のように思い出せるのです。姉上も同じ気持ちを感じたようで、実に喜ばしいですわ」
その言葉に、姉上と呼ばれた女神は今すぐ目の前の女神を引き裂きたい衝動に駆られたが、同時に自身の責務と天命を思い出し、唇を噛み締めて堪える。
「……失礼するわ」
そう言って去った背中には、『憤怒』の二文字が刻まれているような気がした。
残された女神とその取り巻き達は、渦の中に映る世界に目を向け、そのうちの一柱の女神が言った。
「……よろしかったのですか? 復讐を果たしたいというのは理解できますが、あの子もあなたの子……もっと言えば、我々の子ですが?」
その言葉を聞いて、女神は一転して真剣な面持ちになる。
「……分かってるわ。今更だけど、迷惑をかけたわね」
「いえ……あの者達に対する復讐でしたら、我々も賛成ですから……ですがやはり、そうなると外の――」
「それは向こうも考えてると思うわ。ひとまず、この件はこれでおしまい。これからは前向きに生きましょう……私達なりにね」
その女神の邪悪な微笑みに、相対する女神は同じような笑みをもって応えた。
「ええ、ご随意に……」




