戦元帝国第三皇子の公主 ダエンオロン・グンジ・ハルアヤンガ
眠気眼で箒を動かす凡吉は、相変わらず蒼い画面に夢中だった。
あの山賊達を倒した結果、どうやら経験値が入ったらしい。
その数値、1600点……つまりは、一人100点ということだ。人を殺した対価にしては、安いような気がする。
経験値はどうやら『功法』に使用することが出来るらしいが、先の事を考えて今は温存しておくことにした。
それよりも気になるのは、称号だ。
もし、この世界に同類の力が無ければ、これこそが自分にとってのチート能力の真髄だと凡吉は感じ始めている。
称号がもたらす効果は、この世界における功法や技術と同等か、それ以上の恩恵がある。
そして、称号を弄繰り回している時に凡吉が感じたのは、『精錬塔』で称号をどうにかする場合、主に二つの事が出来るということだ。
一つ目は融合……凡吉の経験則としては、似たような名称、効果を発揮する称号を融合し、より強力な称号を創り出す権能だ。
この場合、元となった称号は『諸天万界』から消えてしまう。
二つ目は精錬。こちらも、称号を融合することには変わりないが、元になった称号の片方もしくは両方がシステム内に残る。
徹夜で『諸天万界』の整理を終えた凡吉は、改めて『称号』の項目に目を向ける。
彼が新たに獲得した称号は以下の通り。
『人殺し』+『人斬り』+『人狩り』=【羅刹天】
『護衛』+『討伐者』=【御者】
『護衛』+『掃討者』=【守護者】
『追剥』+『虐殺者』+『屠殺者』=【阿修羅】
『凶手』+『誅殺者』+『掃討者』=【迦楼羅】
『破落戸』+『悪人』+『人殺し』=【殺人鬼】
『人殺し』+『虐殺者』+『屠殺者』=【夜叉】
それぞれの効果はこうだ。
【羅刹天】
効果1:地獄卒
生命体を殺害した場合、体力・気力を一定量回復(小)
効果2:毘沙門天の加護
人間に対する斬撃の攻撃力・命中率上昇(大)
効果3:羅刹天眼
人間の位置測定能力付与(特大)
効果4:蘭華島の住人
生命体を殺害した場合、獲得経験値が倍加。
【御者】
効果1:運ぶ者
馬術(上級)・御車術(上級)
効果2:守る者
自身が指定した人物を守る行動をとった場合、自身の防御力を上昇(大)
効果3:救う者
自身が指定した人物の怪我・病気を回復(小)
効果4:仕える者
自身が指定した人物に敵対的な言動をする生命体に対する攻撃力の上昇(大)
【守護者】
効果1:鉄壁
自身が指定した人物に対する攻撃の無効化
効果2:鉄心
自身に向けられた精神干渉行為の効果減少(中)
効果3:鉄血
自己回復能力向上(特大)
効果4:鉄風
自身が指定した人物に迫る危険の感知能力向上(大)
【阿修羅】
効果1:修羅道
瀕死の状態で全能力上昇(特大)
効果2:阿修羅王達の加護
この世にある全ての存在に対する攻撃力の増加(中)
効果3:戦場の祝福
生命体と戦闘している限り、死亡しない。
【迦楼羅】
効果1:金炎の翼
飛行能力付与・空中飛行時、機動力上昇(中)。火炎属性付与
効果2:金剛の鷹爪
飛行生物に対する攻撃力の上昇(大)
効果3:黄金の嘴
食物を捕食すると、経験値・精錬値を獲得(小)
効果4:龍喰らい
蛇・龍に関するあらゆる功法・技術の無効化
【殺人鬼】
効果1:殺人の快楽
人間を殺害した場合、体力・気力を一定量回復(小)
効果2:連続殺人の冥利
人間に対する攻撃力の上昇(特大)
効果3:死の領域
自身の周囲三丈(約10メートル)にいる人間の知覚能力低下(中)
【夜叉】
効果1:人喰らい
人間の肉体の一部をたべた場合、経験値・精錬値獲得(中)
効果2:森林の神霊
木気の功法の習得速度・修練速度・威力上昇(大)
効果3:水辺の守護者
水気の功法の習得速度・修練速度上昇(中)
効果4:夜叉権眼
暗視能力の付与・生命体の気配探知能力付与(中)
効果5:魔声聞
人間の負の感情を察知・解読
(……良いような悪いような……少なくとも、称号効果がえげつないことはよく分かった……)
そう考えながら、凡吉は掃除を続ける。幸いなことに、称号の効果は自身で切り替えができるため、使い方を誤らなければ問題ないだろう。
その時――背後から声を掛けられた。
「凡吉っ!」
その声に振り返ると、見覚えのある顔があった。お嬢様こと龍華鈴だ。
彼女の隣では、浅黒い肌をした美少女が自信ありげな笑みを浮かべて仁王立ちしている。
「ちょうどよかったわ。あんた、あたしと比武をしなさいっ!」
その美少女――ダエンオロン・グンジ・ハルアヤンガという名前だったはず――凡吉は、彼女に拱手をしながら応えた。
「かしこまりました。グンジ・ダエンオロン・ハルアヤンガ公主」
「ダエンオロン・グンジ・ハルアヤンガねっ!?……あと、ハルって呼んでいいわ」
「かしこまりました。ハル公主」
「……公主はいらないわ」
「それは恐れ多いことです」
あっさり断られて、ハルはムスッとした表情を浮かべた。華鈴が彼女を諫めるように口を開く。
「凡吉を困らせないでよ。あんたのお兄さん達だって、呼び捨てにはされてないんだから」
「そりゃ、お兄ちゃん達は公子だから当たり前でしょ。でも、あたしは違うじゃない!」
……そういうものなのか? いや、仮にも皇族相手に呼び捨てなんて、とても出来ないだろうと凡吉は内心首をひねる。
「ところで、何故いきなり比武をすることになったのでしょうか?」
「なによ? 怖気づいたの?」
白い八重歯を見せて挑発的な笑みを浮かべるハルに対して、凡吉は淡々とした口調で答える。
「いえ、公主様の提案に異論などございません。ただ、理由が気になりまして」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたわね」
ハルは得意げに笑うと、手に持っていた二本の木剣の内、一つを凡吉に投げ渡した。
「華鈴が言ってたわ。大勢の山賊を、あんた一人でやっつけたらしいじゃない?
それであたしの興味が湧いたわけ。それでね、あなたがどれだけ強いのか直接確かめようと思ったのよ」
「なるほど。承知いたしました」
「えへへー。これでも、あたし結構強いんだからっ!」
その後、凡吉達は外門堂にある比武台へと移動した。
ここは、普段から外門弟子達が自身の成果を確かめるため、もしくは自分の実力を門派内に示すために使用されるが、今は誰も台の上におらず、代わりとばかりに周囲に見物客であろう人だかりが出来ていた。
「これは……」
「驚いたでしょ? あたしがあんたと比武をするって外門堂主様に言ったら、こんなに取り計らってくれたのよ!」
(なんてこと、してくれてんだ……)
そう思う凡吉だったが、グッと言葉に出すことを我慢し、女性達のざわめきの中を華鈴とハルの二人と共に歩み、比武台へと上がった。すると、女性達の視線が一斉にこちらへと向けられる。
(緊張するなぁ……)
凡吉はそう思いながら、木剣を握り直す。
(お? これは……)
手に持った木剣の感触は軽く、また妙にしっくりとくるものだった。思わず、そのまま素振りをしてみるが、やはり違和感はない。
「どう? あたしが用意させた木剣は?」
どうやら、ハルが用意した木剣は高級品のようだ。その心遣いに、凡吉は心から礼を言った。
「はい。公主様の配慮、感謝いたします」
そうして、凡吉とハルの比武が始まろうとしていた。
しかし、この後に起きた出来事は、のちに『玉修門の使用人・凡吉』の名を天下に轟かせる最初の出来事になることを、今は誰も知らなかった……。




