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やり直し:エルフの王  作者: Ritch_Richie
第一章

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第14話 初めての戦闘経験(後編)

第14話 初めての戦闘経験(後編)


ダンジョン。


それは、かつて堕ちた裏切りの神ゴルゴトの肉体の一部が埋められている場所だと伝えられている。


だが、長い歴史の中で、実際にゴルゴトの体の一部を見つけた者はいない。


それでも、ダンジョンはただの洞窟ではなかった。


古い時代、すべての種族がまだ共に生きていた頃、彼らは必死になってダンジョンを浄化していた。


理由は単純だ。


長い間放置すれば、ダンジョンの中に生まれた魔物たちが増え続け、やがて外へ溢れ出す。


それは“波”と呼ばれた。


あるいは、“魔物災害”とも。


ダンジョンに満ちた魔物たちは地上へ這い出し、生きるものすべてを襲い、破壊と悲しみだけを残していく。


アデルは、そのことをベスティアリで読んでいた。


『第五十九章

ダンジョンの魔物について』


今回たどり着いたダンジョンは、すでに昔に一度浄化された場所だった。


だが、浄化されたからといって、ダンジョンが完全に死ぬわけではない。


奥では今もなお、新たな魔物が生み出され続けている。


馬車から降りる前、ヴィレンが静かに口を開いた。


「アデル」


その声は弱かった。


だが、真剣だった。


「我が弟子よ。お前ならきっとやれる。だが、もし少しでも無理だと思ったなら、すぐに引き返しなさい」


ヴィレンは視線を落としていた。


目はほとんど見えていない。


それでも、その顔には不安がはっきりと浮かんでいた。


無理もない。


長い時間をかけて育てた弟子が、初めて一人で魔物と戦うのだ。


心配しないはずがなかった。


だが、ヴィレンの不安とは反対に、アデルは恐れていなかった。


むしろ、胸の奥は高鳴っていた。


初めての実戦。


初めてのダンジョン。


初めての魔物狩り。


(ついに来た……)


アデルは自然と口元を緩めた。


まるで、長いチュートリアルを終え、ようやく本編に踏み出すプレイヤーのように。


「心配しないでください、師匠」


アデルは自信を込めて言った。


「むしろ見ていてください。あなたの一番弟子が、運命に与えられたこの試練をどう乗り越えるのかを」


ヴィレンには、アデルの表情は見えない。


だが、その声に宿る確かな自信だけは感じ取れた。


不安が、少しずつ薄れていく。


代わりに胸に満ちたのは、誇りだった。


「……そうか」


ヴィレンは小さく笑った。


「ならば、行ってきなさい」


アデルは馬車を降り、マーヴィンとヴィレンに軽く頭を下げた。


「行ってきます」


彼は短剣と小さな盾を身につけると、ダンジョンの入口へ向かった。


目の前には、岩肌にぽっかりと開いた暗い穴。


その奥からは、湿った空気と、かすかな魔力の気配が漂ってくる。


アデルは深く息を吸った。


そして、一歩を踏み出した。


入口から十メートルほど進むと、視界が一気に開けた。


そこにあったのは、洞窟の中とは思えないほど広い緑の草原だった。


草は青々と茂り、木々は静かに枝を広げている。


人の手も、エルフの手も入っていない、自然そのままの空間。


天井は高く、どこからともなく淡い光が降り注いでいた。


(すごい……)


アデルは思わず足を止めた。


(外から見ればただの小さな洞窟なのに、中はこんな場所になっているのか。まさにファンタジーだな)


だが、その美しさに見とれていられたのは、ほんのわずかな時間だけだった。


草むらの向こうから、耳障りな鳴き声が聞こえた。


ぎゃあ、ぎゃあ、と。


アデルは視線を向ける。


そこにいたのは、ゴブリンの群れだった。


醜い顔。

痩せた手足。

汚れた武器。


数は八体。


小さな一個隊と呼ぶには十分な数だった。


だが、アデルは怯えなかった。


彼は剣の柄を強く握る。


(八体……最初の相手としてはちょうどいい)


待つつもりはなかった。


相手が動き出す前に、こちらから仕掛ける。


アデルは地面を蹴った。


(まずは目の前の一体)


一番近くにいたゴブリンへ一直線に迫る。


ゴブリンが反応するより早く、アデルの剣が走った。


刃が、ゴブリンの足を断ち切る。


「ギャッ!?」


悲鳴が上がる。


それを見たほかのゴブリンたちは、一瞬で混乱した。


ばらばらに散り、距離を取る。


アデルはすぐに状況を確認した。


(弓が三体。剣持ちが五体。なるほど、役割は分かれているのか)


一番離れた場所にいた弓持ちのゴブリンが矢を放った。


狙いはアデルの足。


矢はまっすぐ飛んでくる。


だが、アデルは避けなかった。


その場に立ったまま、静かに呪文を唱える。


「風の壁よ、我を守れ」


次の瞬間、彼の周囲に風が巻き起こった。


矢はアデルへ届く直前、見えない壁に弾かれ、横へ逸れていく。


(おおおお!)


アデルの胸が高鳴った。


(これだよ、これ! 魔法がちゃんと実戦で使えてる! 俺、今、完全に風の魔法使いじゃないか!)


だが、喜んでいる暇はなかった。


背後から、一体のゴブリンが忍び寄っていた。


短剣を握り、アデルの背中へ飛びかかる。


しかし、まだ風の壁は消えていない。


ゴブリンがアデルへ触れようとした瞬間、渦巻く風がその体を引き裂いた。


肉が裂け、血が飛び散る。


ゴブリンの体は、見るも無残にばらばらになった。


「……っ」


アデルの胃が、ぎゅっと縮んだ。


(うわ……これは、きつい)


魔物を倒す。


それだけなら簡単に考えていた。


ゲームなら、敵が倒れ、経験値が入り、戦利品が落ちる。


だが現実は違う。


血がある。

臭いがある。

肉が裂ける音がある。


(吐きそうだ……。まさか、この魔法がここまで強いなんて)


アデルは一瞬、気分が悪くなった。


だが、戦いはまだ終わっていない。


残りのゴブリンたちも、倒さなければならない。


恐怖で腰を抜かしている剣持ちのゴブリンが三体。


アデルは迷わなかった。


一歩踏み込み、首を刎ねる。


二体目。


三体目。


剣は止まらない。


三つの頭が地面へ転がった。


その間に、弓持ちのゴブリンたちは姿を消していた。


アデルが戦闘の高揚感に呑まれている間に、隠れたのだ。


(逃げたか……いや、隠れたな)


アデルはすぐに判断した。


ここで無理に探し回れば、毒矢でも受けるかもしれない。


そこで彼は、契約した相棒を呼ぶことにした。


「来い」


アデルは魔力を流し、使い魔召喚の術を発動する。


黒い小さな影が、空間の揺らぎから現れた。


悪夢の妖精。


アデルの小さな相棒だ。


「主人、呼んだ?」


「逃げたゴブリンを探して。弓を持っている。油断するな」


妖精は小さく頷いた。


「分かった」


彼女はすぐに周囲を飛び回り、探知の魔法を使った。


訓練していたのは、アデルだけではない。


妖精もまた、彼の力の一部として鍛えられていた。


しばらくして、妖精は戻ってきた。


「二体、見つけた」


「二体?」


アデルは眉をひそめる。


三体いたはずだ。


妖精は小さな指で方向を示した。


「一体は高い草の中。細い筒を持ってる。もう一体は遠くの木の上」


(毒針か)


アデルはすぐに理解した。


まず危険なのは、草むらに隠れた方だ。


彼は慎重に高い草へ近づいた。


その瞬間。


草の中から、ぷっと何かが飛んできた。


毒の塗られた小さな吹き矢。


だが、それもまた風の壁に弾かれる。


「そこか」


アデルは短く言った。


そして一気に踏み込む。


草の中で目を見開いたゴブリンが、次の一撃に反応することはできなかった。


剣が走る。


ゴブリンの頭が宙へ舞った。


「ふう……これで六体目」


アデルは息を吐く。


そして、妖精が示した遠くの木へ視線を向けた。


「あと一体は……あの高い木の上か」


その木はかなり高かった。


およそ十メートル。


太い幹と大きな枝を持つ、ダンジョン内とは思えないほど立派な木だった。


アデルは軽く足を伸ばし、体をほぐす。


「よし」


次の瞬間、彼は全力で走り出した。


地面を蹴り、速度を上げる。


木の根元へ到達すると同時に、大きく跳躍した。


風の補助を使い、枝の高さまで一気に届く。


木の上にいたゴブリンが驚愕の表情を浮かべた。


遅い。


「さよなら、醜い小鬼」


剣が閃く。


最後のゴブリンの頭が飛んだ。


アデルは太い枝の上に着地した。


そのまま片膝をつき、周囲を見回す。


枝は驚くほど太かった。


三人ほど並んでも座れそうなほどの幅がある。


この高さからなら、ダンジョン内の草原をかなり遠くまで見渡せた。


アデルは呼吸を整えながら、下を見下ろす。


倒れたゴブリンたち。

風に揺れる草。

淡い光に照らされた木々。


初めての戦いは、終わった。


少なくとも、今は。


(……勝った)


胸の中に、じわりと実感が広がる。


怖かった。


気持ち悪かった。


予想していたよりも、ずっと現実的で、ずっと生々しかった。


それでも、彼は勝った。


アデルは枝の上に腰を下ろし、ダンジョンの景色を眺めた。


だが、彼はまだ知らない。


その様子を、マーヴィンが見ていることを。


馬車のそばで、マーヴィンは特殊な魔道具を起動していた。


空中に浮かぶ、透明な球体。


それは大きな目のような形をした、不可視の観測球だった。


その球を通して、彼はアデルの戦いを静かに見届けていた。


そして、主であるヴィレンへすべてを伝えるために。


アデルの初めての勝利を。


一つも見逃さぬように。


第十四話 終

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