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やり直し:エルフの王  作者: Ritch_Richie
第一章

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第13話 初めての戦闘経験(前編)

第13話 初めての戦闘経験(前編)


ついに、その日が来た。


アデルが初めてダンジョンへ潜る日。


この世界にエルフとして生まれ変わってから、彼は百六十年を迎えていた。


そして今日が、彼にとって本当の意味での初陣となる。


剣を学んだ。

魔法を学んだ。

礼儀作法も、貴族制度も、戦略も、嫌というほど叩き込まれた。


だが、実戦は違う。


本に書かれた知識と、目の前で動く敵は別物だ。


(ついに来たか……)


アデルは胸の奥が高鳴るのを感じていた。


怖さがないわけではない。


けれど、それ以上に興奮していた。


(初めてのダンジョン。初めての戦闘。ゲームならチュートリアルの終盤ってところだな)


一方、ヴィレンはすでに、かつての威厳ある竜とは思えないほど弱っていた。


背は深く曲がり、杖なしでは歩くことも難しい。

視力もほとんど失われ、腕を伸ばした先より遠くは、まともに見えていなかった。


それでも彼は、この日を見送るつもりなどなかった。


「アデル……我が弟子よ。こちらへ来なさい」


声はかすれていた。


だが、そこには確かな温かさがあった。


アデルはすぐにヴィレンのもとへ歩み寄り、片膝をついた。


そうしなければ、曲がった背のヴィレンと目線を合わせることができなかったからだ。


ヴィレンは震える手を伸ばし、アデルの頬に触れた。


「おお……本当に、時の流れは早いものだ」


その手は細く、骨ばっていた。


だが、アデルの顔に触れた瞬間、ヴィレンははっきりと感じ取った。


小さな赤子だった少年は、もう力に満ちた立派な若者へと成長していた。


「ついに、この日が来たのだな」


ヴィレンは静かに笑った。


「私は、お前の初めての戦いを見ることはできぬかもしれない。だが、マーヴィンが細かく聞かせてくれるだろう」


彼はそばに立つマーヴィンの背を軽く叩いた。


声の奥には、隠しきれない寂しさがあった。


自分の弟子がどれほど成長したのか。


その姿を、この目で見ることができない。


それが悔しかった。


けれど同時に、ヴィレンは信じていた。


アデルなら、どんな試練が立ちはだかっても乗り越えられる、と。


やがて、彼らは最寄りのダンジョンへ向かう準備を始めた。


必要な道具が確認され、食料と水がまとめられ、アデルの装備も整えられていく。


その最中、アデルはヴィレンをじっと見た。


「師匠」


「何だ?」


「やっぱり、家で待っていた方がいいんじゃないですか? マーヴィンがあとで全部話してくれますし……」


その言葉を聞いた瞬間、ヴィレンの眉がぴくりと動いた。


「いやだ」


「師匠」


「いやだ。いやだ。何度言われても、いやだ」


ヴィレンは杖で床をこつこつと叩きながら、子どものように首を振った。


「私は行く。たとえそれが、私がこの命で成す最後のことになったとしてもだ」


「そんなこと言わないでください」


「私は、自分の耳でお前の戦いの音を聞きたいのだ。お前の心臓が戦いの中でどれほど強く打つのか、近くで感じたいのだ」


ヴィレンはなおもぶつぶつと文句を言い続けた。


その頑固さは、まるで誰の言葉にも耳を貸さない老いたロバのようだった。


アデルは結局、諦めた。


(無理だ。絶対に言うことを聞かない)


それに、心のどこかで分かっていた。


これは、師匠と過ごす最後の時間になるかもしれない。


この試練が終われば、アデルは母の待つ家へ帰るつもりだった。


長い修行の日々が終わり、ようやくミリエルのもとへ戻る。


その前に、ヴィレンがどうしても見届けたいと言うのなら。


(……仕方ないか)


アデルは小さく息を吐いた。


彼らはヴィレンの屋敷を出た。


竜の舌の山には、麓へ向かうための道が整えられている。

険しい山道ではあるが、馬車で下ることもできた。


荷物を積み込み、三人は馬車へ乗り込む。


御者台にはマーヴィンが座った。


しかし、馬車を引いていたのは馬ではなかった。


巨大な爬虫類。


四肢で岩肌をしっかりと捉え、まるで地面に張りつくように進む大きな蜥蜴だった。


見た目は、巨大なヤモリに近い。


アデルは馬車の窓から身を乗り出し、その姿をまじまじと見つめた。


「師匠。このインペリアル・ゲッコーは、いつからいるんですか?」


ヴィレンは少し得意げに胸を張った。


「これはな、アルトリア帝国第五代皇帝、バビロン・デ・アルトリアから贈られたものだ」


「皇帝から?」


「そうだ」


ヴィレンは腕を組み、どこか誇らしげに語り始めた。


「まだあの皇帝が小さな子どもだった頃、私は彼を死の病から救ったことがある。そのとき、治療に私の鱗が必要でな。実に厄介な病だった」


(また師匠の昔話が始まった)


アデルはそう思いながらも、完全に聞き流すわけではなかった。


ヴィレンの話は長い。


とても長い。


だが、その中には意外と役に立つ知識が混じっていることもある。


とはいえ、今回は馬車を引く巨大なゲッコーの方が気になった。


アデルは膝の上に置いていたベスティアリを開いた。


ページをめくり、目的の項目を探す。


やがて、彼は該当する章を見つけた。


『第四十五章

家畜化された魔物と動物』


『インペリアル・ゲッコー』


『インペリアル・ゲッコーは、アルトリア帝国第五代皇帝バビロン・デ・アルトリアによって初めて家畜化された。


皇帝はある日、ゲッコーの卵の巣を発見した。本来ならば危険を避けるために破壊するところであったが、彼はそのうち一つを持ち帰り、自らの部屋で孵化させることにした』


アデルは視線を走らせる。


『驚くべきことに、生まれたゲッコーは皇帝を襲わなかった。それどころか、彼に懐き、まるで親を見るかのように従った。


その後、ゲッコーは訓練を受け、完全に家畜化された』


(刷り込みみたいなものか?)


アデルは小さく頷き、さらに読み進めた。


『その後、皇帝はゲッコーの卵を集め、新たな騎乗用生物として育成するよう命じた。


インペリアル・ゲッコーの足には、支持面に密着する無数の微細な毛が存在する。


それにより、天井、山肌、岩壁、その他の不安定な地形を移動することが可能である』


アデルは窓の外のゲッコーを見た。


確かに、その足は滑ることなく、山道をしっかりと捉えている。


『体重四百二十キログラムの個体であっても、最大一トンの荷を保持することが可能である。


また、足と胴体は、岩肌への接着を助ける生体ばねのような役割を果たし、滑らかな面や凹凸のある面に四肢を押しつける』


『以上』


アデルは本を閉じた。


(すごい生き物だな。これだけ力があって、山道も壁も進めるなら、商人たちに大人気だろうな)


実際、インペリアル・ゲッコーがいれば、普通の馬車では通れない道でも荷を運べるだろう。


山岳地帯や崖沿いの道では、馬よりもよほど頼りになる。


アデルは窓の外をもう一度眺めた。


ゲッコーは静かに、しかし力強く馬車を引いている。


ヴィレンはまだ皇帝を助けたときの話をしていた。


「それでな、バビロンは私にこう言ったのだ。『偉大なる竜よ、あなたの恩を帝国は忘れません』とな。まったく、あの頃の彼はまだ小さかったが、なかなか礼儀正しい子で――」


(長い)


アデルはそっと目を閉じた。


(目的地に着くまで、少し寝るか)


馬車はゆっくりと山を下っていく。


揺れは思ったより少ない。


ゲッコーの足取りが安定しているからだろう。


窓から入る風は涼しく、山の空気は澄んでいた。


アデルはベスティアリを膝に置いたまま、少しずつ眠気に身を任せた。


ヴィレンの昔話が、遠くなっていく。


馬車の車輪の音。

ゲッコーの足音。

マーヴィンが手綱を操る静かな気配。


すべてが混ざり合い、やがて意識はゆっくりと沈んでいった。


どれほど眠っていたのか。


アデルが目を開けたとき、馬車はすでに山を下り、森の近くまで来ていた。


空気が変わっている。


山の冷たい空気ではなく、少し湿った森の匂い。


彼は窓の外を見た。


木々の間に、ぽっかりと開いた暗い入口が見える。


岩肌に口を開けた洞窟。


ただの洞窟ではない。


その奥からは、かすかな魔力の気配が漏れているように感じられた。


マーヴィンが馬車を止める。


「到着いたしました」


ヴィレンは静かに頷いた。


「うむ」


アデルは深く息を吸った。


胸が高鳴る。


緊張。

期待。

わずかな恐怖。


そのすべてが混ざり合って、体の奥を熱くした。


(ここが……俺の初めてのダンジョン)


彼は膝の上のベスティアリを見つめた。


本の中でしか知らなかった魔物たち。


その一体と、これから本当に戦うことになる。


アデルはゆっくりと拳を握った。


(よし)


馬車の扉が開く。


彼は外へ降りた。


目の前には、静かに口を開けたダンジョンがあった。


第十三話 終

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