【第1章-7】爽やか王子と怪訝な幼馴染
入学して一週間が経つ頃、既にリリィの名は学院で知らない人など居ないくらい有名になっていた。それだけではなくリリィの15歳に見えない、おおよそ12か13歳にしか見えない幼い容姿に明るく少しぬけた性格から一部の男子には熱狂的にリリィを見守る生徒がちらほら現れる様になった。他には「施設破壊系女子」「最強魔女の弟子」など、リリィを肯定と言うより面白がっている評判が多い一方で「まともに魔力操作も出来ないくせに」「平民が調子に乗ってる」など、否定的な声が一部の貴族出身の生徒からちらほら出ていた。
しかし、当のリリィは自分がそんな評判を受けている事などつゆ知らず。
「ほよ~このパン美味しいよ~」
昼の食堂で幸せそうにパンを頬張っていた。そんなリリィを見るロナとミリアムは耳にしたリリィの評判を聞いても、この幸せそうにしている姿を見て(まぁ、良いか)と思うのだった。
「クローデル嬢、同席しても良いかな?」
リリィが声の方に向くと、そこには金髪碧眼で顔の整った少年とこげ茶の髪で眉間に皺を寄せている少年が立っていた。
「ほよ?良いですよ」
何の警戒心もなく、リリィはあっさりと頷く。その返答に、ロナとミリアムが同時にぎょっとした顔をした。
「ちょっと!リリィ貴女この方がどなたかご存知ないの!?」
「ほよ?凄い人なの?」
パンを頬張りながら、リリィはきょとんと首を傾げる。その様子を金髪の少年はクスクスと笑っており、隣の少年は若干引き気味だった。
「ふふっ、面白い娘だね。私はオリビエ・ベザリウス。君たちの1学年上の2年で、アークレイン公爵家の次男だよ。で、私の隣に居るのは・・・」
「・・・エリオット・レンハイムだ」
オリビエが自己紹介をするとエリオットはぶっきらぼうに自己紹介をしリリィを睨む様に見つめる。その視線に気づいたオリビエがエリオットを諫め席に座る。
「オリビエ様、一体どの様なご用件でしょうか?」
ミリアムが口を開く。公爵家の人間が何でリリィの前に座るのか分かりかねていた。
「あぁ、学院にとても面白い娘が入学したって聞いてね。ちょっと気になっていたんだ」
オリビエは爽やかな笑顔で答える。ロナとミリアムは内心ヒヤヒヤだった。なにせアークレイン公爵家は四大公爵家の一角であり平民にも地位向上の機会を与えるべきと主張する革新派の筆頭で、何よりもこのマクスウェル魔法学院の改革にも一役買っているのだ。その公爵家の子息がリリィに興味を持っただなんて、対立している保守派層の貴族が知ったら・・・なんて考えている2人をよそにリリィはオリビエと楽しそうに話していた。
「私の師匠はね、大きな岩を風魔法で飛ばせとか、山を吹き飛ばせとか、山から家まで自力で戻ってこいとか言って、すっごい修行だったんだよ」
「・・・それは修行と呼んでいいのかな」
オリビエは驚き、そして次第に堪えきれず笑い出した。
「はは、面白いな。それで、その修行の後は?」
「その後は、災牙猪とか剛腕獅子とかちょっと大きい魔物と一対一で戦わされたよ!」
「あはは、それは”ちょっと大きい魔物”じゃなくて災害級の魔物だね」
すっかり打ち解けた様子で笑い合うオリビエとリリィの傍らで、エリオットだけは何も言わず、静かにその様子を見つめていた。
「おい、オリビエ。そろそろ次の授業の時間だ」
エリオットが懐中時計を見てオリビエに告げる。どうやら話し込み過ぎたようだ。オリビエは名残惜しそうに立ち上がる。
「もう時間なんだね。クローデル嬢、またご一緒しても良いかな?」
「うん、良いよオリビエ」
リリィの一言でロナとミリアムは固まる。まさか公爵ご子息を呼び捨てだなんて。当のオリビエは気にするどころか「呼び捨てで構わないよ」と笑顔で言う。
「じゃあまたね、クローデル嬢」
そう言い残しオリビエはエリオットと共に去って行く。ロナとミリアムは嵐が去った事に安堵し、リリィはまたオリビエと話せるのを楽しみにしていた。
「リリィ、貴女オリビエ様と楽しそうに話すのは良いのだけど・・・呼び捨てなのはどうなのかしら」
「ほよ?でもオリビエは呼び捨てで構わないって言ってたよ?」
首を傾げるリリィにロナとミリアムは頭を抱えるのだった。
「はぁ、オリビエ様がリリィに興味を持つなんて・・・これから先が思いやられるわ」
「そうねぇ・・・」
「どうしたの?そろそろ次の授業に行かないと遅れちゃうよ?」
いつの間にかリリィは席を立って2人を待っていた。これ以上考えても無駄だと2人は立ち上がりリリィと共に次の授業の為に演習場へ向かう。
「そう言えば、次は炎魔法の基礎授業よね。リリィ気を付けなさいよ、流石に校舎が火の海になるのは見たくないわ」
話題を変えようとしたミリアムの一言でリリィの表情が固まる。
「ほ、炎魔法・・・」
先ほどまでの明るさが消え、俯いた横顔には、明らかな翳りがあった。ロナが心配そうにリリィを見つめるがリリィは「大丈夫・・・」と震える声で演習場へ走って行った。
「どう見る?オーリ?」
エリオットがオリビエに問う、2人はアークレイン公爵家とその庇護下にあるアルセダイン侯爵家同士であるが、幼馴染である事から2人きりのときはオリビエの事をオーリという愛称で呼んでいる。オリビエがリリィに接触したのは、リリィが保守派層から送られたオリビエを狙った刺客なのではないかと言うエリオットの主張からだった。オリビエは流石に違うだろうと言ったもののエリオットは少しの可能性があるなら調べるべきだと言い聞かなかった。だから今回オリビエはリリィに話しかけたのだ。
「良い娘だったね」
「そうじゃねぇ、あいつが刺客かどうかって話だ」
「流石に違うと思うよ、彼女は四賢者であるマリアンヌ様の弟子だそうだ。四賢者は貴族議会や政治事には不干渉でなければならない。そんなお方の弟子が私を狙う利点が見当たらないよ」
「マリアンヌ様が保守派寄りでクローデルを利用してお前を狙っている可能性は?」
「その可能性はほぼ無いよ。マリアンヌ様は政治には無関心だし、自由奔放な方ではあるが国王陛下には絶対的な忠誠を誓っているみたいだし。そんな方が政治に干渉して陛下を裏切る真似をするとは思えない」
「じゃあ、あいつは白だと?」
「そうだね、クローデル嬢は白だ。あの娘の笑う姿は刺客の演技じゃなく、純粋に笑っていたと思うよ。是非また話したいね、あの娘の話は聞いてて楽しいし」
そう言い、またリリィと話せる時が来るのを楽しみにしオリビエは教師へ入る。エリオットはため息をつき後に続いた。
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