【第1章-6】テーブルマナーは修行のうちに入りません
リーシャの案内によりリリィ含む新入生の女子は女子寮へ案内された。女子寮は男子寮とは別の場所にあり、男子は立ち入り禁止になっている。案内された寮は美しいレンガ造りの建物で一部の部屋にはテラスも伺える。そんな寮を目にしたリリィは目を輝かせて「ほよ~」と感心する。
扉を開けてまず目に入るのは大きなシャンデリアが吊るされたロビーだ。リーシャは談話室、そして各部屋へ案内する。寮は個室が与えられる程大きな建物で、リリィの胸は高まっていた。
「よく来たね、新入生たち!今日は皆の歓迎の為に、腕によりをかけて作ったんだ。たんと食べておくれ!」
食堂へ案内されたリリィ達の前に寮母であるゼシカが現れ、テーブルには湯気を立てる料理がずらりと並んでいた。香ばしい匂いに、リリィのお腹がぐぅと鳴る。
「いただきます」
リリィ達は各々席に付き料理を食べ始める。仔羊のローストを丁寧にナイフとフォークを使い上品に一口食べたロナは目を見開き料理を絶賛する。
「美味しい・・・!こんなの、高級レストランに引けを取らないわ」
「うん、美味しいね、ロナ」
一方リリィはと言うと、ロールパンを丸かじりにして頬をパンパンにしており、さながらリスかハムスターの様に豪快に食べていた。そんな食べ方を見たロナとミリアムは唖然とする。
「ちょ・・・貴女・・・テーブルマナーを知らないの?」
「ほよ?テーブルマナーなんて修行はしてないよ?」
きょとんと首を傾げるリリィに、ミリアムとロナは同時に「え」と固まった。
「修行・・・?」
「テーブルマナーって、修行するものだったかしら・・・」
二人が困惑する中、その様子を見ていたゼシカは豪快に笑い飛ばした。
「いいじゃないか、それだけ私の料理が美味しいって事だろ!マナーなんて、これから覚えていけば良いさ」
「はぁ・・・まあ、良いわ。徐々に覚えていきましょう、リリィ」
ロナが呆れ半分、諦め半分でため息をつく傍らで、リリィは何の屈託もなく次の料理に手を伸ばしていた。
夜、自室に戻ったリリィは、ふかふかのベッドに横になり、天井を見上げた。
(今日は色々あったなぁ……)
初めての首席挨拶、ロナとの同じクラスになれてた、ミリアムとの出会い、キャロラインとの一悶着。目まぐるしくも充実した一日を思い返すだけで、リリィはふふっと微笑む。ワクワクと胸を膨らませながらも、ふと頭の片隅をよぎるのは、山奥に一人残してきた師匠のことだった。
(師匠、ちゃんとご飯食べてるかな・・・お酒ばっかり飲んでないかな・・・)
考え出すと止まらない不安に、リリィは小さく苦笑する。だが、慣れない一日の疲れには勝てず、そのまま瞼が重くなり、リリィは静かに眠りに落ちていった。
翌日から遂に本格的な授業が始まった。1年は基礎を覚える事が多く、今回の授業は魔力操作の授業だ。実技演習場へ集まったリリィ達の前には実技試験で試験官を務めたケビンがいた。心なしか試験の事を思い出しているのか震えている。
「集まったね。じゃあ今日は魔力操作の基礎をやっていく。基礎中の基礎だから皆出来ると思うけど、進級までに緻密な魔力操作が出来ることを目標にしよう」
魔法を行使するのに魔力操作は必須だ。術者は術式を魔力操作で魔力を制御し術式を構築する、そして魔法を放つ。これが出来ねば幾ら術式を理解していても魔法を発動する事が出来ない。それどころか魔力操作が雑だと魔力暴走して爆発してしまう恐れがある。
しかし・・・
(魔力操作・・・概要は師匠に教わったけど・・・)
リリィは眉根を寄せる。マリアンヌからは魔力操作の理屈こそ叩き込まれていたものの、思えばその修行内容は「山を吹き飛ばせ」だの「魔物を倒せ」だのという実戦形式ばかりで、魔力操作そのものを丁寧に練習した記憶がほとんどなかった。
(えっと・・・いつも魔法を撃つときってこんな感じだったような・・・)
リリィは魔法を構築する時の感覚を思い出しながら、言われた通りに魔力を両手に集める。最初はぎこちなかったものの、次第にコツを掴んだのか、掌の上に小さな魔力の球が安定して形を保ち始めた。
「おっ良い感じだ、クローデル」
ケビンが笑顔でリリィに近づく、流石に魔力暴走で爆発しないだろうと高を括っていたのだ。
しかし、ケビンが褒めた事でリリィは上手く出来た事に気を緩めてしまい、制御が出来なくなり魔力の球が不安定に膨れ上がり・・・
どぱぁん、と言う擬音語が相応しい爆発が起き、実技演習場に轟音が響き渡った。そして爆発の真正面にいたケビンは爆発に巻き込まれ綺麗な放物線を描き、ドサリと落下した。幸いにも今回は失禁せずに済んだ。
「ケビン先生がまたフビン先生に!?」
「おいおい死んだぞ、あれ」
「すげぇ、今日は漏らしてない」
騒然とするクラスメイト達をよそに、リリィは「ほよ?」と首を傾げていた。慌てたロナとミリアムはリリィの元に駆け寄る。
「リリィ!大丈夫?」
「怪我はない?」
2人の心配をよそにリリィはきょとんとした表情で立っている。
「ほよ・・・失敗しちゃった」
えへへと笑いながら言うが、当のリリィは怪我一つしていなかった事に2人は啞然とするのだった。
その様子を影からヘクターが覗いていた。「やはり・・・あの時の・・・?」と小さく呟くその顔は複雑な感情を滲ませていた。(リリィ・クローデルがあの方の言った少女と同一人物なのか・・・?)悲しみにも似た表情でヘクターは誰にも気づかれぬよう、静かにその場を後にした。
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