【第1章-5】典型的な悪役令嬢の所作
「ロナはどんな魔法が得意なの?」
「私?私は風魔法が得意よ。あと治癒魔法も少しは出来るわ」
すっかり打ち解けた様子でロナと談笑していたリリィだったが、そこへ教室の扉が開き、一人の男性教員が入ってきた。
「やぁ、初めまして。僕はヘクター・サンドロッド」
物腰柔らかな笑みを浮かべ、彼は教壇に立つ。
「サリオン先生が急病で長期休養になってね、代わりに赴任してきました。どうかよろしく」
穏やかな口調で自己紹介を終えると、ヘクターは学院の施設や規則について丁寧に説明を始めた。生徒たちは真面目に耳を傾ける――リリィも例外ではなく、真剣な表情でメモを取っていた。
ただ、時折。
説明の合間、ヘクターの視線がふと、リリィの方へ向けられることがあった。その目には、穏やかな笑みの奥に、どこか冷たい観察の色が滲んでいる。
しかし、当のリリィは黒板の内容を書き写すのに夢中で、その視線には全く気づいていなかった。
入学式と学院説明を終え、初日の授業が無事に終了した。
「ロナ、一緒に寮に行こう!」
席を立ち、ロナのもとへ向かおうとしたリリィ。その足元に、すっと伸びる何かがあった。見事に足を取られリリィは「ふぎゅっ」と何とも情けない声を出して盛大に転んでしまった。
「リリィ!大丈夫!?」
慌てて駆け寄ったロナはすぐに足を掛けた人物にキッと視線を向ける。その視線の先にはキャロラインが扇子で口元を隠しクスクスと笑っていた。
「ちょっと貴女、わざと足を引っ掛けたでしょ?」
「あら、私が”たまたま”足を伸ばしたらその子に当たっただけですわ」
涼しい顔で嘲るように笑うキャロライン。その言い分に、ロナの声が反論しようと口を開こうとした時。
「いい加減にしなさい。私にも、貴女が意図的に足を掛けたのがはっきり見えたわ」
ロナの後ろから凛とした声が発せられた。声の主は毅然とした態度でリリィの前に歩み寄り手を差し伸べる。
「私はミリアム・サゴット、あんな女のちょっかいに負けちゃダメよ?」
「あ、ありがとう、ミリアムさん」
リリィはお礼を言い差し伸べられた手を取り立ち上がる。キャロラインが面白く無さそうにリリィを睨みつけているが、ミリアムはお構いなしにリリィと話す。
「それにしても、首席だなんて凄いわね。私も筆記試験、それなりに頑張ったのだけど・・・貴女には及ばなかったわ。でも、次は負けないわよ」
ミリアムは感心したように微笑む。その笑顔には、悔しさよりも純粋な闘志が滲んでいた。リリィはその眩しさに、思わず目を瞬かせる。
「ふん、ロナさん、貴女。侯爵令嬢に取り入ろうだなんて――流石は妾の子らしい、浅ましい真似ですこと」
キャロラインが鼻を鳴らし、まくし立てる様にロナを罵る。友達を侮辱するキャロラインに流石のリリィも反論をしようとするが「――やめなさい」とミリアムの声で止まってしまった。
「貴女、言って良いことと悪いことの区別も付かないの?伯爵家の名に傷が付くわよ? それともレイクロード伯爵家は、人を蔑んだり、人に足を掛けたりするのが習わしなのかしら?」
ミリアムはキャロラインを真っ直ぐに見据え続けた。その圧に屈したキャロラインの顔が歪み「覚えてらっしゃい!」と捨て台詞を吐き捨て足音荒く教室を出て行った。
「ほよ・・・なんか凄い迫力だったね・・・」
リリィがぽつりと呟くとロナも「まったくよ、あの女」と呆れた様にため息をつく。そしてミリアムを見て小さく笑った。
「ありがとうございます、ミリアム様。お蔭で助かりました」
「気にしないで。貴女達みたいな面白そうな人と同じクラスになれて良かったわ」
ミリアムが笑顔で言い「敬語でなくて大丈夫よ。ミリアムと呼んでちょうだい、その方が私は嬉しいわ」と付け加える。
「ほよ、これからよろしくね。ミリアム」
「えぇ、こちらこそ。ロナもこれからよろしくね」
リリィはまた友達が増えた事に喜び、3人で寮へ向かうのだった。
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