↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/79

【第1章-4】皆の前で挨拶は緊張する

マクスウェル魔法学院の入学式は盛大に行われる。在校生だけでなく、その保護者も観覧するのだ。そのほとんどは貴族なのだが、ちらほらと平民も見られる。ガルシアの挨拶の後に、新入生の挨拶が控えていた。


(まさか、首席の挨拶があるなんて・・・)

合格発表の時に首席で入学する事に無邪気に喜んでいたリリィだったが、まさか主席には壇上での挨拶と言う大役が課せられているとは、微塵も思っていなかったのだ。


「では、首席の挨拶をしてもらう。首席、リリィ・クローデル」

呼びあげられた瞬間、リリィの体がビクリと跳ねる。「ほよ・・・」と一つため息をつき目を白黒させながら、まるで狼に睨まれた子ウサギのようにおずおずと壇上へ向かうリリィ。その頼りない足取りと怯えきった表情は、会場中の視線を否応なく集めていた。そして、貴族出身の生徒たちの間から、ひそひそと囁きが漏れ聞こえてくる。


「あれが首席? 片腹痛いわね」

「あれ平民だろ? 平民風情が調子に乗って・・・」

「・・・ちっ、あんな可愛い平民が首席かよ」


囁きの内容はバラバラだったが、いずれもリリィを奇異な目線で見ていることに変わりは無かった。今まで主席は貴族出身が多かったので平民出身であるリリィが首席で入学する事に興味を示す者、嫌悪感を現わす者と様々だった。そんな視線も気にならない、いや気にする余裕が無いリリィは泳ぐ目でおろおろと壇上から会場を見渡す。あまりの人の多さに圧倒されてしまい萎縮してしまう。


(何を話せば良いんだろう・・・)

直前まで挨拶がある事を知らされていなかったリリィは何を話せば良いか分からず頭が混乱してしまう。何かに縋る様に目線を泳がせていると、ふと小さく口を動かすロナの姿が映った。


「がんばれ」


声には出さず、しかしはっきりと伝わるその言葉にリリィの目つきがふっと変わった。(ロナが応援してくれてる・・・)その事実だけでリリィは嬉しかった。キリっとした表情でリリィは挨拶を始める。


「こ、この度は首席で入学しました。リリィ・クローデルと言います。私はこの学院で沢山の事を学び、友達と笑いあい、切磋琢磨していきたいと思います」


多少たどたどしくはあったがリリィは何とか挨拶を終える事に成功した。最初はちらほらと拍手が送られていたが、徐々にその拍手が大きくなった事にリリィは彼女は誰にも気づかれないよう、こっそりと大きな息を吐いた。(や、やり切れた・・・)リリィは少し達成感を味わいながら席に戻り入学を終えた。


この学院のクラス分けは試験の順位で決まる。順位が高い者はAクラスで次にBクラス、そしてCクラスと言う様に分かれる。リリィは首席なので当然Aクラスなのだが、リリィはロナが同じAクラスだと知った時は大喜びした。知っている人が居ると安心するものだ。


「リリィ、首席なんて凄いじゃない!あんな威力の魔法を使えるなんて、貴女は一体どなたに魔法を教わったの?」


キラキラと目を輝かせて尋ねるロナ、それだけではなく周囲の生徒も興味はあった。あんな魔法をぶっ放せるなんて誰も思わなかったので誰に師事していたか気になっていた。


「ほよ?私の師匠はマリアンヌ師匠だよ?」

「マ、マリアンヌ・・・様・・・」

首を傾げるリリィの一言にロナだけでなく周囲は固まる。世間で知られるマリアンヌとは、終焉の魔女の二つ名を持つ四賢者の1人であり反逆の魔女事件や帝国軍侵攻未遂事件を単身で解決した英雄・・・そしてその圧倒的な魔力で街一つを滅ぼせる事から四賢者の中でも最強と言われ尊敬と畏怖の象徴として語られる。マリアンヌは弟子を持たないと聞いていたが、まさかリリィが弟子だとは思ってもみなかったのだ。


「うん!師匠はいつも『あの岩を浮かせなさい』とか言うんだよ。それでね――」

数々の修行とはとても言い難い内容を無邪気に、まるで武勇伝を語るように話すリリィに、ロナの顔色はみるみる青ざめていった。それだけではない。明らかに聞き耳を立てていた周囲の生徒たちの顔も、次々と蒼白になっていく。


「あ、貴女・・・あの終焉の魔女様のお弟子さんだったのね・・・苗字も同じだし、納得だわ。もしかして、貴女、終焉の魔女様のお子さん・・・?」


ロナのその問いにリリィの表情がふっと曇る。

「師匠は私の本当の親じゃないんだ・・・えっと・・・私が小さい頃に拾われて・・・」


しんみりとした空気が流れる。ロナは何か深い事情があるのだろうと察し、それ以上踏み込むことはしなかった。


しかし、リリィはすぐに、その悲しさを振り払うように笑顔を作った。


「でもね!師匠いつもお酒飲んでだらしない格好で寝てるんだよ!いつも二日酔いで朝も私が無理矢理起こしてるの!」


「へ、へぇ・・・そうなの・・・」


リリィのその一言でロナ含め周囲は語られる最強の四賢者像と普段のだらしない姿のギャップに何とも言えない表情になる。そんな様子を少し離れた席からキャロラインが面白くなさそうに、明らかに苛立った様子でリリィを睨みつけていた。


「・・・何よ、あの女」


お金で首席の座を買えなかった事だけでなく、あのロナにさえ入学試験の成績で負けてしまったのだ。その苛立ちを込めて扇子を握る手には、あの首席にどんな嫌がらせをしてやろうかと言う強い意志が宿っていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!面白いと思っていただけたら、ぜひ『ブックマーク』や『評価(☆☆☆☆☆)』をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。