【最終章-10】リリィの出した答え
突然のルドルフの提案に、リリィは戸惑いを隠せずにいた。
「四賢者は」
マリアンヌが、静かに口を開いた。
「高い魔法の資質と、国に貢献した者が選ばれるわ。そして、今はベアトリクスが座していた席は空いている」
先程の、災害級の魔物三十体の単騎討伐。リリィにとっては、あくまで「ちょっと大きな魔物を数体倒した程度」の感覚だった。だが、実際にそれは、本来であれば国の戦力を総動員して対応すべき未曾有の大災害だった。
「お主は、それだけの働きをしたという事だ」
ルドルフが、優しく問いかける。
「どうだ?」
まだ戸惑ったままのリリィに、隣に立つオリビエが、そっと寄り添うように微笑んだ。
「リリィ、これは名誉なことだと思うよ」
爽やかな声だった。
「私が・・・四賢者・・・」
小さく呟きながら、リリィは静かに、これまでの日々を思い返していた。
炎に怯え、自分をダメな子だと思い込んでいたあの頃。それが、この学院に入り、ロナ、ミリアム、ティオと出会い、少しずつ変わっていった。友達を助けたい――その一心で、炎魔法を克服した、あの日。
その全ての経験が、静かにリリィの背中を押してくれていた。
「謹んで、お受け致します。陛下」
まっすぐに顔を上げ、リリィは丁寧に頭を下げた。
「うむ」
ルドルフは満足げに頷くと、「後始末は大人の仕事だ、お主たちは戻ると良い」と言い、リリィとオリビエは深く一礼をし、その場を後にした。
――
リリィはオリビエと共に、教室へと戻ることになった。まだ魔力の消耗から足元がおぼつかず、オリビエに支えられながら、ゆっくりと廊下を歩く。
「ほよ・・・助けてくれて、ありがとう。オーリ」
はにかみながら言うその一言に、オリビエの心臓が、静かに跳ねた。
「空から落ちてる時」
リリィが、ぽつりと話し始める。
「折角、公爵の悪事を暴いて・・・ようやく、普通の学院生活を送れるかもって、思ってたの」
オリビエは、黙って耳を傾けた。
「もう魔力が残ってなくて・・・そしたら、怖くなっちゃって・・・」
リリィの目に、じわりと涙が浮かぶ。
「でも」
その涙を拭いながら、リリィは笑顔を見せた。
「オーリが私の名前を呼んで、助けてくれた時・・・とっても、安心できたんだ。だから――ありがとう、オーリ」
先ほどまでの悲しみとは違う、温かな涙。その笑顔を見つめながら、オリビエの中で、静かに決意が固まっていく。
(今、ここで――)
告白しよう。そう心を決めた、まさにその時だった。
「あ、リリィ!大丈夫だった!?」
慌てた様子で、ロナたちが駆け寄ってきた。
「急に魔法使えなかったし、外では災害級の魔物の群れが来て、巨大な魔法で消滅するし・・・一体、何があったの?」
矢継ぎ早に問いかけるロナ。
「その様子だと・・・上手くいったのかしら?」
ミリアムが、様子を窺うように言う。
「災害級の魔物の群れは、リリィが倒したんですか?」
ティオは、目をきらきらと輝かせていた。
「オーリ、ありがとうね」
リリィは、最後にもう一度、笑顔でそう告げると、ロナたちと共に、賑やかに教室へと戻っていった。
その背中を見送りながら、オリビエは小さく苦笑を漏らす。
(今は・・・彼女が、彼女らしくあれば。それも、良いか)
告白の言葉を、そっと胸の奥にしまい込みながら、オリビエもまた、静かに自分の教室へと戻っていった。
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